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パニック障害?と思ったら

パニック障害?と思ったら

身体症状と不安の心理療法

パニックショウガイ?トオモッタラ

著 者
ISBN
978-4-87699-875-3 C0011
判 型
四六判
ページ数
208頁
発行年月日
2005年06月
価 格
定価(本体価格1,800円+税)
ジャンル

内容

身体心理療法とは
検査しても異常がないのに体に強い違和感を感じ普通の生活が送れない人へ。「身体心理療法」がこじれた心と身体を楽にします。

書評

臨床心理学研究第43巻第2号

「身体心理療法」という新たな関わりの提示

評者 藤本 豊(東京都立北療育医療センター)

 運営委員会の席上亀口編集委員長から「パニック障害?と思ったら」の本を見せられたときに、その装丁と標題から「ちょっと軽い感じの入門書」といった印象を受け、酒井さんがどんな本を書いたのだろうかと興味津々だった。というのは、酒井さんが最初に書かれた1990年の「宗教か心理療法か」(風媒社)での論点がこの15年あまりでどう変化したのかと思ったからだった。当時酒井さんは公立病院を退職し開業したばかりだった。今でも心理で個人開業が少ない中、酒井さんを知るぼくたちはおせっかいにも「生活できるの?」とみんな心配していた。
 それまで臨床心理学会の運営委員をされていたが、開業し運営委員を退いたことで直接会う機会もなく、開業での臨床活動を知る機会が無かったぼくは、その後も、酒井さんが開業後どのような臨床活動をしているのかと気になっていた。
 本書を読み始めると、酒井さんの地道な臨床活動が鮮やかに浮かび上がってきた。。そして、開業後すぐに書かれた「宗教か心理療法か」で、述べられていた心理療法をこう実践していたのかと納得することができた。
 第1章「症状が消えるまで」では、酒井さんが関わった5人の方々の実例を通してパニック障害の回復過程を説明している。その回復過程を読み進んで行く中で、面接の時間枠にとらわれる病院の心理室とは違い、一人ひとりの問題を丁寧に探りながら関わっている、ゆったりとした時間の流れを感じた。それは第4章で「私のように独立開業している心理療法家は、自分が所属している組織を背中に感じながら話をすることはありません。」(pp157)と、また「心理療法では、いろいろな場面で心理療法家自身の個性や社会での位置が問われているのです。」(pp158)と述べているところで、その違いがどこにあるのかが理解できる。それは、開業しているがゆえに病院という組織を意識せずに、自由な立場で「向かい合う」ことができるのだと。また、それぞれの方が「最後の場」として酒井さんの所を訪れていることを通して「組織」にいるぼくたちは、そこでの治療者としての限界を認識しないといけないと思った。
 第2章「身体症状とはなにか」、第3章「さまざまな病名」では、わかりやすく身体症状と病名について丁寧に解説している。特に身体症状については、酒井さんの臨床経験から「身体症状について、病気としての特徴からだけではなく、症状を持つ人の性格や生き方とも関連付けて解説していきたいと思います。」(pp55)とあるように、身体症状を身体の症状としてではなく、その人をとりまく生活環境全体との関連で論じている。 それは第4章で全面展開されることになる、心と体を統合して一人の人として全体をとらえていくといった流れの布石となっている。
 第4章では「身体心理療法の枠組みとすすめ方」として、身体心理療法とは何かをを説明している。この章で展開されている「身体心理療法」こそが、酒井さんが15年近くの開業で得たエッセンスなのだと思った。従来の心理療法は言葉による働きかけが主であるのに対し、「身体心理療法」はボディワークなどを取り入れながら、言葉のみならず体への働きかけを行っている。その背景として、意識の状態と身体症状が密接に関係していると考え(pp135)、意識について「核意識」「自己意識」「汎意識」といった3つの概念を用いて次のように説いている。「意識の中心には、生物的、生理的な影響を強く受ける『核意識』があります。その周囲には成長する過程で社会、文化、環境の影響を強く受けて育っていく『自己意識』があります。さらに、その外側に『汎意識』が星雲を包み込みガスのように広がっています。」(pp130)
 この「こころとからだ」を一体のものとしてとらえながら、「ことばとからだ」の二つを使いつつ「こころとからだ」の両方に働きかける考え方は、竹内敏晴さんの「ことばが劈かれるとき」で展開されていた「ことばと身体」の関係を思い浮かべるとすんなりと理解することができた。そして、ここで述べられている「こころからだ」を一体のものとしてとらえる見方こそを、いま大切にしていかなくてはいけないのではないかと思った。
 自殺者が年間3万人を越え始めた昨今、ますます「心の健康」が強調されるようになってきた。その文脈ではどうしても「心の健康」「身体の健康」と2つの側面に分けて考えられてしまう。本書は副題にある「身体症状と不安の心理療法」の入門のためのわかり易い解説書として読むこともできる。しかし、さらに深く行間に含まれた部分を考えながら読んでいくと、「心の健康」「身体の健康」といった心身ニ元論に立つのではなく、新たな視点で「その人のすべて」を考えながら、いま、ここで、悩みを抱えている人に市井の開業心理の実践報告との読み方もできる。こうした視点で読み解いていくと、日頃の病院などでの臨床活動からは気が付かない様々な視点を示唆してくれる本と言える。

著者プロフィール

酒井 充 サカイミツル

1956年生まれ。
1979年、東京都立大学(心理学専攻)を卒業後、心理職として公立豊岡病院に勤務。
この間、日本臨床心理学会の運営委員や精神障害者の地域での生活基盤づくりに携わる。
1987年、病院を退職して心理教育研究所を開設、現在に至る。

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