2016年12月7日

 昨日、本日と、印刷所に入れる原稿をただただ見ている時間を過ごしました。こういうとき、読んではダメなんですね。あくまで、ただひたすら間違いを発見し、修正するための作業だから。

 一つは、『くじらが陸にあがった日』(著/木村陽治)。サブタイトルが「朝倉篤郎聞き書き」となっていることで、非常に限定的に分かる人もいると思いますが、共産党の都議会議員だった朝倉さんの生涯を、都議団長だった木村さんがつづったものです。

朝倉篤郎チラシ1

 いま「野党共闘」が話題になっていますけれど、この本が取り上げる70年代を前後して、先駆的に「野党共闘」があったわけですよね。革新自治体をつくった社共共闘ですが。これを読んでいると、共闘をつくりあげるためには、政策だけでなく共闘にあたる人の人柄、性格というのも大きいなと感じます。いまでもそうでしょうね。

 もう一つは、『マルクス『資本論』の視点で21世紀経済危機の深部を探る』(著/工藤晃)です。この間、『資本主義の終焉』をタイトルにうたう本がヒットしたりしていますが、正統派のマルクス主義者がそういうタイトル、中身で書くものって、そうはないように思います。

工藤晃広告

 この本、半世紀もその立場でやってきた研究者の集大成で、「資本主義的生産様式の終末期的現象がかつてなく大きく」なっていることを解き明かしています。同時に、百数十ページにわたる「研究ノート」付きというのが、この本の売りなんです。工藤さんのような研究者が、何を読み、そこからどんな問題意識をつかみ取り、それが本になるのかという全過程が分かります。

 いずれも来年初頭の発売。どういうわけか、いずれも共産党の幹部だった方の本ですね。なぜ弊社のようなところから出るんでしょうね。

2016年12月6日

 日本の首相が真珠湾に行って哀悼の意を表するって、安倍さんが最初と言われると、考え込んでしまいます。二つばかり。

 一つ。メディアの論調では、オバマさんが広島に来たわけだし、安倍さんが真珠湾に行っても保守派の反発をおさえられると見込んで決めたって言われていますよね。これって、本当なんですか。首相が真珠湾に行かなかった主な理由は、保守派の反発だっていうのは。

 それ以前に、私の戸惑いは、なぜ左派は(私も含めてですが)日本の首相に対して、真珠湾に行って謝罪しろって言ってこなかったのかということです。あれだけアジアに謝罪せよと求めてきたのに、なぜアメリカには求めなかったのか。

 だって、アメリカとの戦争を決意することが、東南アジア侵略につながったわけで、東南アジアには謝るがアメリカには謝らないというのは、論理が成り立たないないでしょ。犠牲者だって42万人ですから(ヨーロッパ戦線も含めてですが)、かなり多いほうです。

 犠牲者のほとんどは軍人で、その軍人を殺したというより、原爆投下などが頭に浮かんで、軍人に殺されたという感覚があったんでしょうか。あるいは、戦後、日米安保条約に縛り付けられることによって、アメリカは批判するだけの対象になってしまったからでしょうか。

 でも、アメリカ人が日本の戦争の犠牲になったことは事実なわけで、別のことを持ってきて謝罪しない理由にすることはできませんよね。ここでダブルスタンダードになり、アジアに対してだけ謝罪を求めるというのは、左派であってもというか、左派であればあるほど、許されないことだったと思います。謝罪の政治性を生み出し、左派への信頼を失わせてしまったかもしれません。

 ただ、二つ目になるんですが、これまでアメリカも謝罪を求めてこなかったわけですよね。それは、日本を「反共の防壁」にするため、侵略に責任のあった人たちを復権させ、日本の政治指導者に据えていったので、謝罪を求めることができないという構図を、アメリカ自身がつくったからです。

 それにしても、アメリカでも、そういうことが通用したのは、戦う相手がソ連だったからでしょう。ソ連との戦いには日本が不可欠だから、真珠湾にやってこいなんて求めなかった。ですから、一つ目に戻るんですが、日本の首相が行かなかったのは保守派の反発があったからというのは、かなり単純な見方だと思います。

 今回、合意がなったのは、そういうアメリカの認識の変化が背景にあると感じます。アメリカの国益を考えると、中国とは必ずしも軍事対決路線で臨むわけではないし、軍事的に日本が不可欠というわけでもない。それだったら、真珠湾まで来て謝れという要求を、これまで長年封印してきたけど解いたということなのかもしれません。

 だったら、テレビで流れる退役軍人たちの映像を見ても思ったんですが、これで終わらないかもしれませんね。謝罪外交はこれで終わりというのが、安倍さんの思惑かもしれませんが。

2016年12月5日

 朴槿恵大統領の問われている問題が、大統領としてやってはならないことであることは理解できる。人々がそれに激しく怒っていることも、背景に貧困と格差があって、大統領のコネで登り詰めた人物がいることと対比した怒りだと言われれば、「そういうものかな」と理解できないではない。

 ただ、その怒りをどこへ持っていこうとしているのかは、まったく見えてこない。どんな韓国社会をつくりたいのかということだ。

 2002年のキャンドル集会は明快だった。女子中学生が米軍の戦車にひかれて死亡し、その際の米軍の対応が傲慢だったことで、米軍駐留のあり方が問われたわけだ。目に見えて変わったのは、地位協定など部分的なところだったが、韓国の人々の米軍に対する認識は深まったと感じる。

 2008年のキャンドル集会は、世界経済危機が背景だった。焦点となったのはBSEの米国産牛肉の輸入問題だったが、貧困や格差をどうにかしてほしいという願いが伝わってきた。

 今回、韓国の人々は何を求めているのか。大統領の知人が国政に深く介入し、特権を得るような政治システムを変えてほしいということなのだろうか。でも、それを防ぐような政治システムをこうやったらつくれるのだ、というような提案めいたものは聞こえてこない。

 あるいは、2008年に引き続き、背景にあるとされる貧困と格差をなんとかしてほしいのか。根本的にはきっとそれなんだろうけれど、現在の韓国の経済体制は、金大中政権以来ずっと推進されてきたもので、それに変わる選択肢が提示されているという話も聞こえてこない。

 そこが深刻なんだろうと思う。多くの人が現状に不満を抱えているのに、与党からも野党からも、その原因がどこにあるのか、現在に変わる政治、経済、社会のシステムはどうしたらつくれるのかが示されないわけだ。

 そこに国民の怒りが爆発している。行き先が見えないので、すべてが大統領をはけ口にして爆発している。そんな感じかな。大統領が替わったからといって、これでは何も変わらないことが見えているだけに、深刻さの度合いはすごいものだと思う。

 これって、韓国ではずっとマルクスの文献が読めなかったことも、部分的には関係していると思われる。その結果、韓国では、ものごとを社会科学的に分析するという点で、非常に偏ったものしか存在しなかった。いまでも、北朝鮮が信奉する理論と、マルクスの理論と、どこが本質的に違うかを語れる人は、そう多くないのではないか。

 日本やヨーロッパは、マルクスの影響があったから、それに反対する側も理論を鍛えることがあったわけだ。それを通じて、社会に対する国民の認識が深まった。韓国で社会変革の理論が鍛えられていくためには、相当の葛藤が必要とされるのかもしれない。
 

2016年12月2日

 本日の朝日新聞。「日本会議内に天皇退位容認論 神道政治連盟と主張に違い」という見出しで記事が出ていた(二階堂友紀記者)。

 根拠は2つほど。政府の有識者会議に参加した日本会議政策委員の百地章氏が退位に賛成していること、日本会議国会議員懇談会が退位賛成派の大石真京大教授などを勉強会に招いていることなどである。

 この問題は、日本会議という組織の性格を判断する上で、大事な問題である。当初、「週刊文春」が「日本会議は退位反対」という特集記事を掲載したのに対して、日本会議は「まだ見解を発表していない」と反発していたのだ(8月4日)。実際、いまに至るも、統一見解は出されていない。

 私も自分の『「日本会議」史観の乗り越え方』でその問題を取り上げている。日本会議のなかに明治憲法下でできた現行制度を維持したいという強烈な人たちがいる一方で、それでは国民の反発を食うだけであって、世論を敵にまわして活動すべきでないという人たちもいて、内部に葛藤があるわけだ。

 実際、朝日は有識者会議での百地氏の発言を根拠にしているが、その聞き取りには日本会議の有力メンバーである大原康男氏も参加し(関係の深い櫻井よしこ氏も)、生前退位反対論をぶち上げている。日本会議は二分されているのだ。

 それでも、朝日の報道によると、「日本会議関係者は「日本会議の方向性は百地さんに近い」とみる」としている。その日本会議関係者とはどんな人なのだろうか。

 日本会議には有力な事務局メンバーが少なくない。学生運動が左翼全盛の頃、右翼の旗を掲げて学生の支持を獲得し、自治会の執行部を運営していたような人が、いま日本会議の事務局にいる。

 日本会議を実際に動かしているのは、おそらくその事務局であって、世論を離れて暴走する幹部をおさえにかかっているのだと思われる。地方議会への請願運動がシステマティックにやられていることなども、実際の運動の経験が生み出したものだ。

 そういうところに日本会議が伸長する根拠があることを正確に見なければならない。これを謀略団体だとかカルト集団だとおどろおどろしく描くのは、実態を見誤ることであって、かえってその伸長を許すことになるだろう。

2016年12月1日

 さすがに、この年になって、6日間の出張はきつかったです。日程はギッシリだったし、東北まで行きましたし。出張の翌日も、これまでならいつも定時出勤でしたが、本日はお昼前にしました。
 そこで本日は、『対米従属の謎』の表紙だけアップ。まだ最終確定ではありませんけれど。「売らんかな」の姿勢が見えていますよね。1月13日発売です。トランプさんの就任式は20日です。

taibeijuuzoku