2018年11月15日

 連載2回目で早くも脱線する(書くことは予定していたから早まっただけでもあるが)。昨日、『若者よ、マルクスを読もうⅢ』の出版記念講演会があり、そこで石川康宏さんが語った内容と関わりがあることなので、新鮮なうちに。

 昨日は「マルクスとアメリカ」がテーマでいろいろ刺激的なお話だったが、この連載と関わりがあるのは、第二次大戦期のアメリカ共産党のことである。日本が真珠湾を攻撃し、太平洋戦争が勃発すると、アメリカ共産党の幹部をはじめ多くの共産党員が軍隊に入り、ヨーロッパ戦線をはじめ各地に赴いたらしい。アメリカ共産党の各地の支部では、戦線に向かう共産党員の激励会(壮行会)も開かれるなど、ドイツや日本の侵略と戦う決意を固め合ったということだ。

 不正に対して武器を取って戦うということはマルクス以来、共産主義者の伝統である。1848年にドイツ3月革命が起き、フランクフルトで憲法制定議会が開かれ重要な憲法がつくられたのに、王様が反撃して議会を解散して武力で鎮圧してくると、各地で反乱軍が組織されるのだが、エンゲルスがそれに指導的な立場で加わったことはよく知られている。その後の普仏戦争などに際して、マルクスがつねに侵略と戦う論陣を張ったことも有名である。

 第二次大戦期におけるアメリカ共産党は、その伝統を正直に受け継いだわけだ。ヨーロッパの共産党も、ドイツの侵略で各国の保守政権と傘下の軍隊が早々と屈服するなかで、フランスやイタリアのレジスタンスに代表されるように、侵略にたいする抵抗闘争を組織することになる。

 侵略に対しては武力で反撃することは国際常識で(国際法上も正当で)、かつ国民の共感も寄せられる。だから、この日本においても、侵略に対して自衛隊が反撃するということは、国民多数が共感することなのである。

 ところが日本の左翼は、世界の常識、国民の常識から離れて、軍隊で反撃するということを忌避するという立場をとってきた。いや、80年代までの共産党は違ったのだが、社会党を含む左翼の多くと、90年代以降の共産党がそうだったので、左翼全体がそう見られているという現実がある。

 かつ、日本の左翼は「理論派」が多かったので、自衛隊を忌避するための旺盛な理論体系がつくられてきた。「対米従属の自衛隊」「人民弾圧の自衛隊」など自衛隊の性格をめぐる理論もあるし、侵略と自衛を区別しない理論などもある。防衛政策を持たないことを誇る理論も。まあ、戦争の悲惨な記憶もあり、9条がそういう記憶をいやしてくれるということもあり、日本国民の何分の一かは、そういう左翼を支持してきた。

 しかし、こうやって自分でつくった理論に左翼ががんじがらめになっている間に、国民のなかでは常識が浸透してくる。自衛隊への共感が広がってくる。そのなかで、自衛隊と9条という問題が浮上しているのである。(続)

2018年11月14日

 9条の会とか3000万署名の推進母体とか、この間、そういう所から講演に呼ばれることが急に増えてきた。しかも、テーマは共通していて、「自衛隊と9条」である。呼ばれる理由も共通していて、「署名を訴える際、自衛隊をどう語るかを考えたい」というものだ。

 これは予想されたことである。安倍さんがやろうとしているのは「自衛隊」を憲法に明記することだから、自衛隊を自分はどう思っていて、どうしたいのかと語ること抜きに議論は進まない。

 一方、署名用紙のなかで「自衛隊」が出てくるのは、「(安倍首相が)新たに憲法9条に自衛隊の存在を書き込む」と述べているという事実関係だけで、自衛隊の評価は出てこない。「請願事項」は、「9条を変えないでください」ということであり、「自衛隊の存在を書き込まないでください」ということではない。

 つまり、この署名用紙に沿って訴えている限り、「自衛隊」をこちらから語る機会はないのである。9条に自衛隊を明記する案を拒否しようというのに、相手が疑問を出してくる場合だけ、自衛隊が議論されるという構造になっているのだ。

 これは仕方のないことでもある。だって、9条の会にせよ、署名推進団体にせよ、自衛隊に対する見解の違いを超えて、その評価を脇に置いて、団結している団体なのだから。肯定的な評価にせよ、否定的な評価にせよ、一致した見解は出せないのである。

 ところが、署名の現場では、自衛隊について語らないわけにはいかない。いや、自分のまわりの人に訴えている分にはいいのだが、過半数が目標になっているわけで、知らない人に署名をお願いすると、「なぜ自衛隊を明記してはいけないのか」と聞かれるので、何も言わないで済ませることは無理なのである。

 だから、この署名を本格的に進めようとしたら、9条の会は自衛隊をどう位置づけ、どう語るのかから目を背けてはならない。各地の9条の会もそうだが、全国的にも自衛隊をどう語るかの経験交流とかしていかないと、過半数の署名を集めるなど無理だろうし、改憲を阻止することもできないと思う。

 そこに気づいた会が、「そういえば、9条と自衛隊について変わったことを言っているヤツがいた」ということで、私を呼んでくれているのであろう。ありがたいことだが、そんな細々とした取り組みでは、影響力もたかがしれている。

 自衛隊と9条については、伝統的な語り方があった。おそらく多くの人がそういう経験則で語っているのだろう。だけど、それでは通用しないということが、署名が広がるなかで分かってきていると感じる。それがこの連載の主題である。(続)
 

2018年11月13日

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 添付の通り、明日は『若者よ、マルクスを読もう Ⅲ』の刊行記念イベントです。著者の一人である石川康宏さんをお招きし、マルクスとアメリカを深めるんです。

 アメリカの中間選挙もそういう観点から見応えがありました。資本主義か社会主義かが問われた一面がありましたよね。

 トランプさんのかかげるアメリカ・ファーストって、究極の資本主義の姿じゃないですか。資本主義って、個々の資本が自分のもうけのために突っ走って、社会全体の利益を顧みず、矛盾が深まっていくわけです。アメリカさえ良ければと地球温暖化対策から抜け出て、温暖化から来る影響に復讐されるのと同じです。

 一方、民主党のなかには、サンダースさんの社会主義への共鳴が広がって、社会主義を公然と掲げる人も当選するようになりました。これが社会主義がどうかは議論があるところですが、少なくとも「自分が良ければ」というトランプさんにを前にして、「みんなが良くなければ」という対抗軸が示され、それが「社会主義」ということになっている。興味深いです。

 石川さん、ブログを読んでいると、無茶苦茶準備しているみたいで、楽しみです。終了後の楽しみも含め、多くの方のご参加を期待しています。

 明日以降、「自衛隊と9条」をテーマにした大連載を開始します。このブログでは、もう他のテーマの記事を書くことはないでしょう。おそらく。

2018年11月9日

 『泥憲和全集』、「間違いなく「偲ぶ会」に間に合います」と断言できるようになりました。東京に来ていますが、先ほど私の手から離れ、印刷工程に入りました。

 もし、普通の本をつくるようにやっていたら、私はほぼ半年、この本だけに没頭し、弊社の仕事は中断していたと思います。それほど作業量の多い仕事でした。多くの人のご協力がなかったら、間違いなくそうなっていました。

 まず、何百万字もあるネット上の文章を、ただただコピペしてくれた方々がいます。大西さんとかお玉おばさんとかケニーさんとか。遠くオランダから参加してくれた方もいます(以前、「マルクスの心を聴く旅」をやったとき、内田樹さんと石川康宏さんの対談をフランクフルトまで聞きに来てくれた方です)。

 表紙デザインは吉本さん。泥さんの本のデザインは自分以外には絶対できないという、誇りと自信に満ちあふれたデザイナーです。泥さんとの付き合いの深さ、長さが半端ではありませんので。

 まあ、そもそもこんな仕事をやろうと思いついて、他の人を巻き込んで、自分でも率先して作業をした岡林さん抜きには成り立ちませんでしたけどね。「泥さん愛」のなせるワザでしょう。

 何百万字も全部読んで整理したのは、その岡林さんとともに、編集・組版をやってくれた御立さん。泥さんの本を出したいということで新しい1人で出版社を立ち上げたのに、その泥さんがなくなった悔しさ、悲しさをこの本にぶつけれくれました。

 最後に1024ページにもなった本の校正をしてくださったのが池田香代子さん。ちょうど最後の1週間、まったく偶然ですが、通常のお仕事が入っていなくて、驚異のペースでやっていただきました。「死せる泥さん、生ける池田を走らせる」というのが池田さんのお言葉でした。

 そして、事前予約をしてくださった180名ほどの方々。ありがとうございました。みなさんがいたから、頑張れば赤字にならないで出版できると思うと、会社を説得できました。

 そういういろんな人の思いがつまった本です。泥憲和さんは不滅です。

 1000ページを超えますと印刷所に伝えたら、「そんな本をつくれる製本所は限られていて、値段も高くなります」と言われ、あわてて分冊にしようとしたら、「いまさら工程を変えると24日の「偲ぶ会」に間に合いません」ですって。これは1000ページ越えを「売り」にして値段が高くなった分を回収しないとね。

 ということで、京都にある弊社の倉庫に19日に届きますので、19日から21日にかけて順次発送します。首を長くして待っていてください。

2018年11月8日

 社会第一面トップで「憲法 異論を知る 向き合う」というタイトルの記事でした。東京本社版、名古屋本社版、西部本社版には出たのに、大阪本社版にだけ出なかったので紹介しておきます。
 最初に国士舘大学で憲法を教える成瀬トーマス誠さんの経験が書かれています。その上で、私が林吉永さん、柳澤協二さんとともに6月に参加した「みやぎ弁護士9条の会」の取り組みから記事が始まります。

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 「異論との対峙」を試みる動きは、各地の護憲派の中でも広がる。

 6月、仙台市内であった集会。壇上には航空自衛隊幹部の林吉永さん(76)がいた。

 国防を考えるうえではF15戦闘機の装備だけでなく、隊員の弾の数を充足させるのが大事なこと、北朝鮮の非核化は通常兵器による脅威の増加と表裏一体であること。「安保のリアル」を訴えた。

 主催したのは「みやぎ弁護士9条の会」。世話人の草場裕之さん(63)は、林さんを招いた理由について「自衛隊の現実を直視するため」と説明する。

 9条に自衛隊を明記する自民党改憲案について各種の世論調査をみると、賛否は分かれる。一方で「自衛隊には良い印象を持っている」人は、内閣府の世論調査で2012年に初めて9割を超え、今年も同様の結果だ。

 安倍改憲への賛否は決めかねるが自衛隊は必要──。そんな層との対話は、自衛隊の実態を知らないと成り立たない」

 専守防衛と「非戦ブランド」の維持を訴える「自衛隊を活かす会」。事務局長で、かもがわ出版編集長の松竹伸幸さん(63)は今年、全国10カ所以上で同様の集会に呼ばれた。

 「護憲派」と一言でいっても、非武装中立や専守防衛のもとでの自衛隊容認など、立場はさまざま。あえて仲間内では自衛隊の是非に触れない人も多かったという。

 それが、自民党改憲案を機に「自衛隊の役割に向き合わざるを得なくなった」と松竹さんは言う。改憲反対の署名活動に応じた人からでさえ「自衛隊のことはどう思うの」と尋ねられる。「『相手を知ろう』という動きは、少し前なら想像出来なかった。貴重な変化が市民の現場では起きている」。年内、松竹さんは複数の集会から声がかかっているという。

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