立憲主義についてのまともな議論が不可欠

2016年5月9日

 連休の後半、ブログ記事を書きませんでした。休んでいたのではなく、必死で仕事していたんです。そのご褒美に、昨日と本日、小旅行をしてきましたけど。

 さて、憲法記念日を挟んで記事を書かなかったわけですが、メディアは、3日を前後していろいろ書きましたよね。私は京都にいましたから、京都新聞に注目しました。

 記念日の翌日(4日)、京都新聞の1面トップは「69年 揺れる立憲主義」というものでした。リードで、「安全保障関連法制定の過程で焦点になった「立憲主義」が改めて問われている」として、続く見出しでは、「護憲派 主権者は私たち」「改憲派 緊急事態条項を」となっています。本文において、護憲派が立憲主義を守れと主張し、改憲派が緊急事態条項を要求する構図を描くとともに、3面の解説(岡田憲治専修大教授)で、緊急事態条項は立憲主義を基本とする国の多くでは存在しておらず、「憲法が何のために存在するのか、日本では伝わりきっていないことの表れ」としているので、護憲=立憲主義、改憲=非立憲主義ということを言いたいのかなと、読者は受け取ることになりそうです。

 でも、京都新聞の意図は、そう単純でもないようなんです。だって、この解説で、岡田教授は、以下のようなことも書いているからです。

 「9条に関して言うと、……私は立憲主義の観点から、権力者に解釈の余地をなるべく与えないようにするための改正を、検討すべきだと思っている」
 「安倍首相が本当に改憲をして歴史に名を残したいのなら、……立憲主義を軽視したやり方では支持を失うことになるだろう」

 そうなんですよね。この解説の先生の立憲主義の考え方というのは、「暴走する可能性を秘める政治権力にたいして、政治決定できる範囲にあらかじめ枠をはめることにある」というもので、それは常識的な理解だと思うんです。そして、そういう理解からすると、緊急事態条項は枠をはずすものだから立憲主義に反していて、権力に枠をはめるような9条改定なら立憲主義に合致しているというものなんです。

 さて、立憲主義を大事だと主張する人々は、これをどう考えるのでしょうか。私は、どう考えるか以前に、立憲主義という言葉で、それを発している人がそれをどう捉えているかが、人によって異なるのではないかと感じています。

 例えば、立憲主義とは権力に枠をはめるものだ、憲法の役割はそこにあるということまでならば、おそらく多くの人が一致できると思います。だけど、だからといって、憲法を守るのは国民ではないとまで言ってしまうのは、はたしていいんでしょうか。人権を侵害しがちな政府権力を縛るために憲法の人権条項が存在するのは当然ですが、一人ひとりの国民も人権条項を守る義務があるとするのでないと、ヘイトスピーチだって国民の側はやり放題ということになりかねません。

 あるいは、立憲主義の質と量の区別も必要だと感じます。たとえば、96条改正が一時期問題になりましたが、その際、,改憲の発議が国会議員の3分の2から2分の1でできるようにすることについて、「立憲主義に反する」という言い方をする人が少なくありませんでした。しかし、国民投票で賛成を得られなければ改憲できないという点では、たとえ96条が改正されても、なお立憲主義は残っていると思えます。量的に立憲主義は低下しても、立憲主義そのものがなくなるというものではないのではないでしょうか。

 一番感じるのは、人によって立憲主義の理解が違うことを自覚していないと、うまく協力し合えないのではということです。集団的自衛権の解釈改憲についても、ある人は「個別的自衛権までしか認められないのに、集団的自衛権を認めたのは立憲主義に反する」と考えており、ある人は「そもそも個別的自衛権を認めるのが立憲主義に反する」と考えているわけです。ところが、そういう意見の違いを出し合わず、どこでどう協力し合うのかを議論することなく、「立憲主義を守れ」と言っていても、改憲派からそこを突かれたら、どうするんでしょうか。

 最近、安倍首相は、「憲法学者の7割が自衛隊は違憲だと考えている状況をなんとかしなければ」という言い方をよくします。それは、そこを突いていくことによって、「自衛隊を認めない護憲派」VS「自衛隊を認める改憲派」という古い構図を再びつくり、護憲派を少数に追いやろうとしているからだと思います。

 ここを、「専守防衛の自衛隊さえ認めない護憲派」+「専守防衛の自衛隊を認める護憲派」+「専守防衛の自衛隊を認める改憲派」VS「本格的な海外派兵をめざす改憲派」という構図に持ち込まないといけないと思います。各種の世論調査で、安倍政権のもとでの改憲に反対する人が増えているのは、真面目な改憲派のなかに「いまは不安」と思う人が増えているからです。「改憲派だから反動派だ」なんて位置づけていたら、とっても大きな間違いをしでかすのではないでしょうか。

 間違いわないためにも、立憲主義って何か、よおく議論すべきだと感じます。

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