国連憲章51条をめぐる左翼的常識の間違い・中

2016年8月26日

 アメリカはラテンアメリカ諸国の要求に応え、51条の草案を作成しました。それは当初、以下のようなものでした。

 「国家による加盟国に対する侵略が発生した場合には、当該加盟国は自衛のために必要な措置をとる固有の権利を有する」
 「武力攻撃に対して当該自衛措置をとる権利は、国家グループのすべてのメンバーがその一国に対する攻撃をメンバーすべてに対する攻撃と考えることに同意する、チャプルテペック規約に具体化されるような協定あるいは取極にも適用される」

 よく見れば分かると思うのですが、前段が個別的自衛権ですね。侵略があったら、自衛のための固有の権利があるということです。

 そして後者が、いまでいう集団的自衛権にあたる部分です。国家グループがあったとして、その一国に対する「武力攻撃」があったら、それを「すべてに対する攻撃」とみなし、自衛措置がとれるということです。

 現行の51条と比べると、違いは明らかです。ということで、51条を引用。

 「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。……」

 明らかに違いますね。草案は、二つの自衛権を明確に区別しています。「固有の権利」は個別的自衛権だけ。

 それよりも違うのは、個別的自衛権は「侵略」に対して発動できるけど、集団的自衛権は「武力攻撃」に対して発動するというのが草案だということです。実際の51条は二つとも「武力攻撃」に対して発動できるとなっています。

 これって、よく分かりませんよね。いまでは、侵略とは武力攻撃のことだとというのが、常識的になっていますから。でも当時は違ったんですよ。国連ができた直後、侵略を裁く裁判所の設立のため特別委員会がつくられたんですが、そこに出された案では、侵略の種類として「武力侵略」と並んで「経済侵略」などもあったんです。

 だから、アメリカの草案で「侵略」とあったのは、そういう含みもあったというわけです。経済侵略に対しても自衛権は発動できるぞ、みたいな。

 それに対して、集団的自衛権というのは、「固有の権利」でもなし、第二次大戦でいうと日独伊三国同盟を認めるようなものですから、「武力攻撃」がされた場合だけということにしたわけです。個別的自衛権と比べ、つよめのタガをはめた。

 それがなぜ、現行のようなものになったんでしょう? 不思議ですよね。

 というところで、ブログに費やす1日30分が終了しました。続きはあとで。

記事のコメントは現在受け付けておりません。
ご意見・ご感想はこちらからお願いします

コメント