安倍さん、大丈夫か? 「日ロ首脳会談の舞台裏」

2017年2月7日

 2月3日付の朝日新聞で、「日ロ首脳会談の舞台裏」と題して、国際協力銀行副総裁の前田匡史氏へのインタビューが掲載された。正直に語っていて、まさに「舞台裏」が分かるのだが、あまりに正直すぎて、戦略の欠落を不安に思った。以下のやりとり(抜粋)が、今回の「舞台裏」を象徴している。

 ――しかし、日本が一番欲しかった領土問題での進展はほとんどありませんでした。
 「(北方)4島の名前は全部入りましたよ。これは普通なら入れられなかったと思います」
 ――それは北方四島で「共同経済活動」を進める、という文脈です。それで良いのですか?
 「そうです。(日ロの経済協力で)ロシア側にだけ利点があるものは一つもありません。日本にも利点があるものばかりですから」
 ――もっと取りたかったのではないですか?
 「そんなことはないです。領土問題は、そんなに簡単に行くはずがないと思っていました。(事前に)期待を上げすぎていた面はありますが、少なくとも、良い方向に向かったのは間違いない」
 ――経済協力は北方領土返還に向けた単なる取引材料なのではないですか?
 「それは誤りです。確かに、日ロの経済協力が北方領土問題を解決するための環境作りにもなるという側面はある。ただ、日ロ経済関係の強化は、日本の経済外交戦略としても理にかなっています」
 「今回の経済協力はロシアを一方的に支援するのではなく、日本も便益を受けられるからです。ロシア極東や北極圏でのエネルギー開発が代表例です。ロシアが強く願う開発が進むのと同時に、日本はそのエネルギーの供給を受けられるようになる。特にLNGについては日本は世界の4割を消費しているのに価格決定力がない。ロシアから供給を受けられるようになれば、日本の交渉力が増す。ただ、日本とロシアが同じ戦略的意図で交渉を始めたのではないことを押さえておく必要があります」
 「安倍首相は当時は、より踏み込んだ経済協力は平和条約の後だとお考えになっていたと思います。私に対して『前後関係から言うと、平和条約をやった後じゃないか』とおっしゃった。安倍首相は昨年5月にソチでの首脳会談で、(プーチン氏の本当の意図についての)感触をつかんだのだと思います。日ロの経済協力の重要性に気づかれた。そこから現在の経済協力に至る具体化の作業が始まったのです」

 要するに、経済先行である。安倍首相が「前後関係から言うと、(経済は)平和条約をやった後じゃないか」という考え方を転換したのが、年末の日ロ首脳会談のポイントだったということである。

 だけど、この言い方だと、経済的な利益のためには主権を少しはないがしろにしてもいいんだ、みたいに見えないか。それだと、主権に固執してきた四島派からも全千島派からも、総スカンを食うことになるだろう。

 首脳会談の際の記事で書いたように、領土交渉を動かすには、何らかの大義が必要である。これまでだったら、「領土不拡大」の原則に反したスターリンの横暴を正すということだったろう。それも大義名分にはなる。

 しかし、安倍さんがやろうとしているのは、北方四島をロシアと日本の双方の主権が適用される地域にしようということだろう。それを共同経済活動の推進を通じて達成しようということだろう(たぶん)。そこには、じゃあロシア人なり日本人なりが犯罪を犯したとして、どちらの裁判管轄権がおよぶのかというような、前人未踏の難しい問題が横たわっている。

 けれども、大義はある。戦後70年以上争っていた日本とロシアが、その争いに終止符を打つだけでなく、共同で主権を行使する地域ができるということだ。世界史上かつてない到達を切り開ける可能性があるということだ。

 そこを脇において、LNGをめぐる価格決定で交渉力を増すなんてことに止めていたら、誰も支持しないだろう。安倍さん、大丈夫か?

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