慰安婦問題で韓国次期大統領が示唆する落としどころ

2017年5月1日

 一昨日の朝日新聞(4月29日)を読んで驚いた。大統領選挙でトップを独走中の文在寅候補が28日、公約集を発表したそうだが、慰安婦問題での日韓合意については、これまで通り「無効化と再交渉推進」を掲げており、変化はない。ところがだ。

 この日、長峰駐韓日本大使に宛の外交メッセージを渡したという。そこで、「早期の首脳会談開催は、両国関係を未来志向的に発展させるのに役立つ」としつつ、河野談話など一連のものをあげて「日本の政治指導者たちが、(これらの談話などの)内容と精神に反する行動をしないことが重要」と述べているというのだ。

 驚きである。河野談話と言えば、現在の日本では慰安婦問題に熱心な人たちにとってバイブルのような受け止めをされているが、韓国ではそうではない。ここでも紹介したことがあるが、挺対協の人権博物館で流れる日本語テープでは、慰安婦問題での「法的責任を回避」する象徴として河野談話があげられ、批判の対象になっている。

 実際、河野談話というのは、私から見れば日本の責任を自覚し、心からのお詫びと反省を述べたものと受けとめるが、韓国側が求める水準からすればはるかに遠い。慰安婦になったのは「本人の意に反して」とされているが、日本軍が強制連行したとは書かれていない。法的責任という言葉も使われていないし、それを認めたら発生する賠償という言葉もない。

 だからこそ、河野談話に基づいてつくられたアジア女性基金は、国民のカンパを慰安婦に渡したわけである。そして、これで法的責任は決着済みとならないよう、カンパを受け取っても慰安婦の方が日本の法的責任を追及する道を残したのである。

 一昨年末の日韓政府合意は、河野談話と比べ、慰安婦問題に熱心な方には評判が悪い(ただし、河野談話発表時も、社会党や共産党はその談話を酷評していたわけだから、変わる可能性はある)。しかし、両者を並べて見ればわかるように、ほとんど同じものである。違うのは安倍首相の名前があるかどうか程度である。

 「いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。政府は、この機会に、改めて、その出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる」(河野談話)
 「慰安婦問題は,当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり,かかる観点から,日本政府は責任を痛感している。
 安倍内閣総理大臣は,日本国の内閣総理大臣として改めて,慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する」(日韓合意)
 
「責任」の言葉が明示されている分、日韓合意のほうがいいくらいである。しかも、最大の違いは、河野談話に基づいて拠出したおカネは国民のカンパだったが、慰安婦合意によるおカネは全額が税金であって、事実上の賠償と呼べるものだということだ。

 韓国の文在寅氏が、その河野談話の内容と精神を評価するというのは、落としどころを提示したもののように見える。だったら、日本は慰安婦合意の「無効化と再交渉推進」に応じて、昨年日本が拠出したおカネは「河野談話」の内容と精神にもとづくものだというふうにすればいいのではないか。安倍さんだって河野談話の継承を明言しているわけだし、慰安婦合意はそれとほぼ同じものなのだから、日本側にとっても問題ないのではないか。それでも大使館前の少女像の問題は残るのだけれど。

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