『教科化された道徳への向き合い方』

2017年8月28日

 本日、この本を印刷所に入稿。著者は京都橘大学の碓井敏正名誉教授。哲学の先生だが、大学の教職資格としての「道徳教育の研究」を38年間にわたって教えておられた。ある事情で最近になって出版依頼があったものだが、私の問題意識に合致していたので、いろいろな出版予定のなかに割り込ませ、早めに出すことにした。

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 よく知られているように、来年から小学校で道徳が教科化される。再来年からは中学校もだ。これまでは教科外だったわけだが、何が変わるかというと、教科書に基づいて教えるようになることと、通知簿に評価が加わるようになることである。

 その問題点については、これまでさんざん指摘されてきた。教科書で取り上げていたパン屋が和菓子屋に変更されたなど、話題にもなってきた。

 しかし、もうあと半年後には、先生は教えなければならないわけだ。教科書に基づいて。教科化に対してどんなに批判的な見地を持っていてもだ。

 この本は、そこに答を与えてくれる。教科化を「逆手にとって」子どもたちの成長をどう図るのかという問題意識が貫かれている。これからもこの分野ではいろいろな本を準備中であるけれど、その最初のものとしてオススメだ。以下、「あとがき」から一部を引用。

 「問題はそのツケが、現場の先生に行くことである。しかし現場はそのような状況においても、子どもの成長のために、何とか工夫することが求められる。本書はこの点にも配慮し、現場での実践をサポートするために、道徳教育の可能性についても論じた。また現場を意識して、指導書を引用しながら、道徳教育に役立ちそうな具体的な事例を多く上げた。やはり現場で働く教職員の役割は大きく、実質的な主導権を握っていることも事実だからである。その意味で、やり方次第では、教科化を逆手に取るような実践も不可能ではないと思う。それもすべて子どもたちの自由で、個性的な成長を願う思いからである。」

 「付け加えて言えば、このような視点は、戦後の民主的教育運動にやや欠けたものであった。その理由は運動の重点を体制批判に置いたため、現実対応がややおろそかになったことにあると思う。しかし資本主義はまだ生命力を維持しており、新しい学力観など教育にもインパクトを与えている。その意味では、われわれに求められているのは、そのような傾向と戦前回帰的な歴史の逆流とを切り分ける冷静な分析力と、それを利用する柔軟な運動論であろう。」

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