安倍さんが韓国で話すべきこと

2018年1月25日

 このブログでもお願いしていたことだが、安倍さんがオリンピックの開会式に出るために韓国に行くそうで、心から歓迎する。自民党内の反対論はすごいけれど、動揺せずに貫いてほしい。文在寅大統領との会談について、韓国側に躊躇があるようだが、これも説得して実現させるべきだと思う。慰安婦問題について正面から議論し、できるなら記者会見で韓国の国民に語りかけるべきだ。「どうせ理解してもらえないだろう」なんて中途半端な気持ちだと失敗する。本気で説得する気持ちを持ってやるべきだ。もし私をスピーチライターに起用してもらえるなら、こんな骨子を案として提出するけれど、いかがでしょうか。

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 戦後の歴代自民党政権は、日本の過去の侵略と植民地支配に対して、一貫して反省も謝罪もしてこなかった。侵略の事実さえ認めなかったし、「良い支配だった」とさえ認識していた。それが覆したのが93年の細川政権であったが、これは長年の自民党支配を終わらせた非自民の政権であり、自民単独政権として最後の首相であった宮沢喜一氏も含め、自民党自体の考えは変わらなかった。

 戦後50年にあたり、日本政府は、侵略と植民地支配に反省と謝罪を表明する首相談話を発表した。与党として内閣を構成していた自民党の橋本副総理も容認したものであるとはいえ、首相が社会党であるからこそ出された談話であって、自民党単独政権なら出せなかったものであろう。

 その点でいえば、私(安倍)の戦後70年談話というのは、自民党の首相として初めて、侵略と植民地支配に対して、「反省」と「お詫び」という言葉を使って態度を表明したものである。歴代自民党政権のなかで(公明党も一応与党だが影響力はない)私が一番リベラルと言われる(自分で言っているだけだが)ゆえんである。

 そういう自民党政権だが、心のなかでは反省も謝罪もしていないとはいえ、戦争と植民地支配を終わらせるための国際基準から逃れることはできないので、法的形式的には被害を与えた相手に対するつとめを果たしてきた。戦争をした各国との間で平和条約を結び、賠償協定を締結し、支払うべきものは支払ってきた。韓国との間でも日韓条約と請求権協定を結んだ。国家間の関係を律する法的なつとめは、それで終わるはずであった。

 しかし、戦後50年を前にして明らかになった慰安婦問題は、法的には決着済みだということでは済まされない性格の問題であった。戦場に慰安婦はつきものだった時代のことであるとはいえ、人権という問題が戦後の世界で急速に重みを増し、普遍的な考えになった現代の常識から見て、圧倒的に人の心に「このまま放置してはいけない」と思わせるものだった。

 そこから当時の自民党宮沢内閣は調査を行い、河野官房長官談話を公表し、慰安婦問題に当時の「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」ことを認め、反省とお詫びを表明したのである。村山内閣では、何十億円もの税金を投じて「アジア女性基金」を創設し、国民の募金を集めて各国の慰安婦に提供してきた。日本は戦争と植民地支配でいろいろな国のいろいろな人びとに損害を与えたが、こういう措置をとったのは慰安婦問題に限られる。

 他の国の慰安婦問題はこの措置によって国家間の問題としては収束した。この措置に意味があったことは明らかだ。しかし、韓国との間だけは解決しなかった。「河野談話は法的な責任を回避するための隠れ蓑だ」「民間の募金を渡すのは国家の責任を放棄するものだ」という批判が挺対協などから寄せられ、韓国政府もそれに左右される状況が続いた。河野談話に対しては、日本国内において、共産党などからもきびしい批判があった。

 自民党政権のなかでは、「ここまでやっても内外から批判されるなら、もう何もしないで済まそう」という声が強かった。自民党だけではない。私が得意の野党批判をここでもくり返すが、10年前に自民党政権が倒され、民主党政権がつくられたけれど、その政権も慰安婦問題では何も新しいことはしなかった。もう何もしないというのは、政治的立場を超えて、日本政界の多数の立場だったのだ。

 しかし私は誰よりもリベラルだから、そういいう立場をとらなかった。一昨年末の日韓政府合意によって、そこを克服しようとしたのである。

 「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」ことへの言及は河野談話と同じ水準にとどまっている。しかし、河野談話になかった「日本政府は責任を痛感している」という文言を使って、政府の責任を明確にしている。私自身の名前で、「心からおわびと反省の気持ち」を表明した。文在寅大統領は「心からの謝罪が必要」と述べているが、その通りのことをすでに言ったのだ。さらに「民間の募金」と韓国側から批判されたアジア女性基金を念頭に、当時の税金支出から比べるとはるかに少ない額ではあるが、「問題はおカネではない、ましてや額ではない」という韓国の世論をふまえ、純粋な税金なら納得してもらえると思って、少ないけれど全額を日本国民の血税で拠出して「財団」を韓国につくってもらうことにした。

 日韓合意は「最終的かつ不可逆的」なものである。「日本政府は責任を痛感している」ということも、私自身の「心からおわびと反省の気持ち」も、同様に「最終的かつ不可逆的」なものである。自民党内の保守派や日本会議なども含め、誰がどういっても、この気持ちは、未来永劫変わることはない。是非、日韓合意の真意を汲んで、受け入れてほしい。

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 どうでしょうね。

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