北朝鮮問題での私の原点・4

2018年10月5日

三、拉致・人道問題の分野で(2004.7記)

 次に拉致問題です。この問題は、解決に向けた動きがあるとはいえ、日朝間の水面下の交渉の内容などわからないことも少なくありません。しかし、日本共産党の立場は、問題の一刻もはやい解決、全面的な解決をめざす国民の願いに合致したものだといえます。

<人道問題としてとらえ先駆的な追及>

 先ほど、拉致問題での橋本参議院議員の追及にふれましたが、この先駆的な意味についても、私たちだけが勝手に言っていることではありません。高崎さんの『検証 日朝交渉」でも、次のように書かれています。

「なお、拉致疑惑問題は88年3月に国会で共産党の橋本敦参議院議員が質問し、梶山 静六国家公安委員長の『北朝鮮の疑いが濃厚』という政府答弁があったが、この問題を日朝交渉に持ち込んで解決できるという考えは、いまだ(社会党の)田辺・(自民党の)金丸の頭には浮かばなかった」

 橋本議員の質問は、翌日の「赤旗」は一面で取り上げました。しかし、他の一般紙はまともにとりあげず、この時点でもマスコミはあまり大きな問題だとはみなしていませんでした。私たちが早くからこの問題を重視したのは、一つには、長年にわたる北朝鮮の覇権主義との闘争をつうじて、拉致された日本人に教育されたという金賢姫の供述を、それなりの根拠があると受けとめられたことがあります。少なくとも北朝鮮がかかわったという疑惑を否定することはできなかった。同時に、まだ社会の関心を集めてはいなかったけれども、橋本議員がのべているように、「家族の不安と苦痛は筆舌に尽くし難いもの」であり、「国民の人命と基本的人権にかかわる重大な問題」という認識を、日本共産党がもっていたからでもあります。

 昨年の総選挙の際、日本共産党の候補者にたいして、拉致問題でアンケートが送られてきました。質問の一つに、「北朝鮮による日本人拉致をテロと認識するか」、というものがありました。私たちは、慎重に検討したうえで、「無法な暴力によって民間の人びとを無差別に誘拐して国外に連れ出し、その生命と安全を危険にさらす行為であり、テロの一種と認識している」と答えました。

 じつは、テロをどう定義するのかについては、まだ国際的に決着していないのです。しかし、少なくともこれまでの国連総会の議論によって、テロには二つの要素があることが確認されています。一つは、その目的が、政治的、経済的、社会的、宗教的等のものであることです。普通犯罪のように個人的な怨恨等をはらすことが目的ではないということです。もう一つは、その手段が、不特定の人びとを恐怖にさらすものだということです。普通犯罪であれば、怨恨をはらす相手も特定されますが、目的が政治的なものですから、相手は誰でもいいというところに、テロというものの特徴があります。北朝鮮による拉致事件は、この二つの要素をもっていると思います。

 このような性格のものだから、拉致問題は、あまりにも非人道的だということで、国民の心を揺さぶっているのです。拉致された人びとには、拉致される原因となるようなことは何もない、ただ北朝鮮の政治的な目的のために連れ出され、長期にわたって帰国できなかったわけですから、国民的な怒りが高まるのは当然なのです。

 日本共産党は、拉致問題をこうした性格をもったものとして位置づけてきたし、いまもそういう立場で全力をあげているわけです。拉致問題を軽く見るような主張には与することはできません。

<国内でも、国際的にも、団結した力が必要>

 では、拉致問題をどうやって全面的に解決するのか、という問題です。死亡したと北朝鮮が発表している人びとにかかわる真相究明と責任者の処罰、被害者に対する謝罪と補償など、解決すべき問題はたくさんあります。 この問題では、対話だけじゃなく圧力も必要だ、制裁が必要だという議論があり、 国会では、経済制裁の一環として、日本国内から北朝鮮への送金禁止を可能にする外 国為替法改正がおこなわれました。ご存知のように日本共産党はこれに反対しまし た。少なくない方から、じゃあ共産党はどんな手段で解決してくれるのだ、対話だけ でできると考えているのか、という電話もかかってきました。

 私たちが、拉致問題を解決する手段として不可欠だと考えていることは、一言でいえば、日朝平壌宣言を基礎にして、道理の力によって国民の団結した力をつくり、国際的にも強固な連帯の力をつくり、それを背景にして北朝鮮に解決を迫っていくということです。

 この観点から見て、私は、外為法改正については、圧力にもならないところに、大きな問題があると思います。なぜなら、圧力となるうえで必要な国際的な結束を、根底からくつがえしかねないからです

 いま、北朝鮮の諸問題をめぐって6カ国協議が開催されており、最初の協議で 「平和的解決のプロセスの中で、状況を悪化させる行動をとらない」ことが合意されています。せっかく、問題を解決しようと各国が努力をしていて、その努力を実らせるため、少なくともその間は「状況を悪化させる行動をとらない」と約束しているのです。そのときに、約束に反する行動をとることになれば、当事国の団結、連帯にはひびが入りかねません。外為法を改正し、発動していくというのは、そういう危険性をもつものです。

 過去の事例を見ても、制裁が成功した事例、失敗した事例ともに存在しますが、その二つを分けるのは、結局は、国際的な連帯が保たれるかどうかという問題です。

 成功の例を一つあげると、88年に起きたロッカビー事件があります。これは、イギリスの空港を飛び立ったパンアメリカン航空機が爆破され、乗員乗客2百数十名が死亡した事件です。機体が落下したロッカビー村の住民10数人も亡くなりました。この事件では、イギリスの警察当局が捜査し、リビアの諜報機関員の犯行だと断定し、リビアに容疑者の引き渡しを要求しました。リビアがこれに応じず、舞台は国連安保理に移され、こんどは安保理が引き渡しを要求します。リビアが拒否し、国連は第一次の経済制裁をおこない、それでも拒否がつづいたので、第二次の制裁が実施されます。この経過のなかで、最終的には容疑者の引き渡しが実現し、裁判がおこなわれることになったのです。

 時間はかかったけれどもリビアが態度を変えたのは、やはり国際社会が団結して容疑者の引き渡しを迫ったからです。アラブ諸国も結束しました。

 一方、ロッカビー事件の2年前に、西ドイツのディスコで爆破事件があり、アメリカの海兵隊員多数が死傷したとき、アメリカはリビアの犯行だとして、リビア各地を空爆したことがあります。単独の軍事制裁です。しかしこのようなやり方は国際社会の支持を得られず、国連総会はアメリカの方を批判する決議を採択します。テロにかかわったかも知れないリビアの責任は、追及されないままに終わります。

 拉致問題に即して考えてみても、6カ国協議の当事者の賛成が得られる手段かどうかは、決定的な意味をもちます。これらの国の賛成が得られなければ、日本の対応は国際的な道理がないのだという宣伝がまかり通ることになり、否定的な結果を生みだしかねません。最近の自民党機関紙(4月6日)も、経済制裁という手段について、見出しで「国際社会の包囲網と合わせ、わが国独自の〝カード〟」と位置づけています。国際社会の「包囲網」の必要性は自民党も認めているのです。しかし、独自のカードということで持ち出した手段が、かえって国際社会の「包囲網」を壊しかねないのですから、そういうカードでなく、「包囲網」を徹底的に強めていくやり方をとるべきなのです。

<徹底して人道的立場に立ったとき共感を集める>

 同時に、私たちが考えなければならないのは、拉致という人道問題の解決を求める運動というのは、徹底して人道的な見地にたってこそ持続し、強固になり、発展するということです。

 たとえば日本の過去の清算の問題があります。日本が朝鮮半島を長きにわたって植民地支配し、朝鮮の人びとを強制連行したり、従軍慰安婦にしたり、強制的に名前を変えさせたりしました。日本もまた人道に反する罪を犯したわけです。ところが日本は、このような明白な事実があるのに、北朝鮮との間では、戦後60年近くたったいまでも、謝罪し、清算することをしていません。

 私は、この問題の解決は、日本人拉致問題を真剣に考えれば考えるほど、いっそう切実だと感じます。人道に反する罪が犯されたということへの怒り、悲しみというのは、その罪を犯したのがどの国かということに左右されるものではありません。真剣に人道問題を考えている人ならば、北朝鮮による人道犯罪は許せないが、日本によるものは同じようには問題にしない、ということにはならないのです。別の言い方をすれば、日本による人道犯罪を重く位置づけることによってこそ、北朝鮮による拉致問題を解決するための運動の大義も強固なものとなるのです。

 日本のなかでは、拉致問題の解決のためには、軍事力を使うことも考えるべきだ、日本が核保有することも選択肢だと主張する人びともいます。ここまでくると、人道問題への逆行になるのではないでしょうか。他の国の人のいのちを軽んじる人びとには、人道問題を語ったり、人道問題でのたたかいにくわわる資格はないと思います。

 覚えておられる方も多いでしょうが、いまから10年ほど前、北朝鮮をめぐる核危機が大きな問題となりました。アメリカは二個の空母機動部隊を派遣し、核兵器の使用も選択肢において軍事行動を準備しました。その時、在官米軍の司令官がアメリカの上院で証言しましたが、もし朝鮮半島で戦争が起きれば、100万人のいのちが失われるということが明らかになりました。そんな道に踏み出すなどということは、どんな理由があれ許されることではないし、人道の名で語ることではありません。

 日本共産党は、いまの北朝鮮をめぐる諸問題に対処するにあたって、「戦争も動乱も絶対に起こさせてはならない」ことを「決定的な大事な目標」だと位置づけています(パンフレット「どう考える北朝鮮問題」)。日本が過去の清算に取り組むことを 特別に重視しています。こうして、この地域のすべての人びとのいのちのこと、人道のことを真剣に考えている私たちの立場こそ、拉致問題を国民的にもさらに大きな問題とすることになります。周辺の諸国の人びとにも、「日本の運動はほんとうに人道問題を考えているのだ」という共感をひろげ、国際的な団結で拉致問題の解決を迫っていくものになると確信します。(続)

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