2017年1月12日
本日のニュースでいちばんびっくりしたのは、中国が「抗日戦争」の開始を、これまで1937年だったのを31年からにするとして、学校教育での教材を変えるよう通知したというものだった。朝日、読売、産経などに出ている。
なぜびっっくりかというと、31年(柳条湖事件をきっかけとした満州事変)が日中戦争の開始って、日本では常識に属することだからだ。それなのに、「抗日戦争」教育を重視する中国が、これまでなぜそんなことをしていたんだろうということだ。
と、書いてみた思ったけれど、これまでが当然だったのかもしれない。だって、共産党が抗日戦争で何らかの役割を果たしたと言えるのは、37年の国共合作以来のことだからだ。それまでは、満州事変があったのに、30年に始まる国共内戦が激化し、34年以降は、国民党軍に追われていく。36年にかけての、いわゆる「長征」である。10万人いた共産党軍が1万人を割り込んだとされる。これでは「抗日戦争」どころではなかっただろう。日本軍と戦ったのは国民党軍だった。
じゃあ、なぜ、31年からにすることにしたのだろう。国民党を評価するようなちゃんとした歴史を教えることにするんだろうか。
違うだろうね。この時期も共産党軍が日本と戦った主力だみたいな歴史をつくりあげるか(ねつ造教育)、あるいは「長征」そのものがのちの勝利を育んだという現在の歴史観をもっと鍛え上げてくるのか(価値観優先教育)、いずれかだろう。
ただ、実際にこの時期の歴史を「抗日戦争」という視点で勉強すれば、共産党の役割というものが、事実の部分も含めて視野に入ってこざるを得ないのも確かである。ねつ造は、短期的な成果しか生み出さない。かといって、「長征」の理念的な意義を強調すれば、じゃあその時期、日本軍と戦う中国人はいなかったのかということになる。
今回の措置が、多少とも、中国国民が共産党無謬論から抜け出ることにというか、共産党というものに対するまっとうな認識を持つことにつながってくれることを願う。あるいは、今回の措置を利用して、事実を正確に伝えようとする教師なども出てきてほしい。まあ、無理かもしれないけれどね。
2017年1月11日
いろいろ問題になっていて、確かに見ていて不快な気分にさせられるのが多いですけど、中には考えないといけないこともありますよね。たとえば自動車会社への攻撃もそうです。
トヨタその他がやり玉にあがっているわけですが、問題点はいくらでも指摘できます。企業の生産計画は何年も準備しているもので、突然変更はできないのだとか。メキシコへの悪影響はどうするのかとか。そもそも自由貿易に反するものだとか。
だけど、トランプさんは、アメリカ国内で売るものはアメリカ国内で生産しろって言っているだけですよね。それって、基本的な考え方として、おかしいんでしょうか。
いや、完全自由貿易論者の立場からすると、おかしいということになるでしょう。TPP推進論者から見ても、よくないということになるでしょう。だって、国境の壁をなくして自由貿易を推進しようということですから。
だけど、多少なりとも国内の産業や雇用を保護したいという立場からすると、そんなにヒドいことを言っているとは思えません。日本でだって、ずっと産業の空洞化が問題になってきましたよね。企業がどんどん生産拠点を中国や東南アジアに移していって、日本の産業の未来はどうなるのか、少なくない方が心配してきたと思うんです。
この流れをどう変えていくのか、これまでなかなか先が見えませんでした。日本に残ってもらうため税金とかを安くしたら、「大企業優遇」とか批判を受けますし、逆に海外に出る企業に制裁金を課すみたいなことは、対立と混乱を生み出すし。
その点、トランプさんは、ただつぶやくだけで、効果をあげているわけです。お金もかからない。国内での支持にもつながる。
ほんとうだったら、トヨタがメキシコに工場をつくるという計画に対し、日本国内で、「なぜメキシコなんだ、日本につくれ」という声があがってもいいんだと思うんです。だけど、そんな声は、与党からも野党からもあがりません。
いや、この場合は、アメリカで売るものだから、日本で生産とはならないのかもしれません。だけど、日本で売るものでも海外に生産拠点を移すということにたいしては、もっと異論がでて、それをどうコントロールしていくか、いろんな提案が出てきてもいいと感じます。
そういうことのきっかけになるなら、トランプさんの攻撃も意味がある(言い過ぎか!)かな?
2017年1月10日
慰安婦問題がこじれにこじれている。おそらく誰も先行きを見通せないだろう。というか、先行きが明るいと見通せる人は誰もいないだろう、というところだろうか。
これまで韓国政府もそれなりにがんばってきた。あれほど合意に反対する根強い世論があるなかで、生存する慰安婦の7割が基金からのお金を受け取ったわけだから、そこは努力のたまものなのだ。少女像の問題で行き詰まっているわけだが、これまでの努力は正当に評価されなければならない。
その上で、いま当事者にとっていちばん大事なことは、日韓合意を大切にするための発言と行動である。そこを基準にしてものごとを考える必要がある。
その点で、この間いちばん驚いたのは、稲田防衛大臣の靖国参拝だった。韓国の世論があれだけ沸騰しているなかで、そして釜山の少女像を自治体が撤去した直後の時期に(12月28日)、それは行われた。別に稲田さんが個人の信念を持つのは勝手だが、いま日本政府に求められるのは、日韓合意をどうやって守り、促進するかという判断と行動だろう。どんな信念があっても、その国益を裏切ることがあってはならないのが政治家、とりわけ政府の代表である大臣ではないのか。案の定、稲田さんの行動は韓国世論に火をつけ、いったんは少女像の設置を拒否した自治体が許可することになってしまった。
大使の一時帰国などの日本政府の対抗措置をどう評価するかは難しい。もともと一時的と銘打っているわけで、そういう象徴的なものなら全否定するつもりはない。大切なことは、どんな行動をとろうともその行動を通じて、日韓合意が大切なものであることを、どう両国民のものにしていくかだ。
この点では、この間の日韓のやりとりのなかで、日韓合意の中心点が語れていないことが残念である。中心点とは何かというと、合意の日に岸田外相が語ったように、「(慰安婦問題とは)当時の軍の関与のもとに多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、日本政府は責任を痛感している」ということであり、「安倍晋三首相は日本国の首相として、改めて慰安婦としてあまたの苦痛を経験され心身にわたり癒やしがたい傷を負われた全ての方々に心からおわびと反省の気持ちを表明する」ということである。
こういう表明があって、10億円を拠出することが決められ、日韓合意は不可逆的なものだとされた。それなのに、その中心点は語られないまま、不可逆的なのにおかしいだろうとか、もうこっちは10億円を出したんだとか、その部分だけが強調されているような気がする。
なぜこの中心点が大事か。それは、慰安婦問題では日本に責任があり、心からのお詫びと反省を表明するのだということは、そのまま素直に伝わるならば、韓国国民にも、もちろん慰安婦にも通じるものだからだ。率直に言って、韓国国内からの批判は、この中心点を真摯に受けとめるようなものではない。でも、だからこそ、日本側はそこを繰り返し語っていくべきなのではないか。
日本政府はアメリカの支持を得られそうだということで対抗措置に踏み切ったようだが、そのアメリカの支持だって、日本が日韓合意でこういう中心点を表明したことへの対応なのであって、そこを欠かしていては不安定なものにならざるを得ない。今後、この合意がどうなっていくにしても、日本側はこの中心点ではぶれていないことを示していくべきだ。日韓合意がほんとうに不可逆的なものになるとしたら、日本でも韓国でも世界でも、そのことが伝わったときだけだろう。
2017年1月6日
ここ数年間に出した平凡社新書を並べてみました。「トランプさんを迎え撃つぞ」という感じが出ていませんか? すでにアマゾンで予約注文が開始されていますので、よろしければどうぞ。
この見本、メディアなどで取り上げていただけそうな方には、すでにお送りしました。その際、次のような手紙を同封したんです。忙しいので、それだけを。
いつもお世話になっております。近く刊行予定の『対米従属の謎──どうしたら自立できるか』(1月15日発売、平凡社新書)をお届けします。
このテーマは長年私を苦しめてきたもので、共産党の安保外交部長を務めていた時期にもアプローチしましたが、十分に満足のいく到達を築くことはできませんでした。しかしここ数年、核密約問題の進展とともにこのテーマに関する意義ある資料も公開されたこと、私自身が「自衛隊を活かす会」(代表・柳澤協二)の事務局長となって防衛問題で刺激的な出会いを経験してきたことなどを通じ、世に問うに足る解明をすることができるのではないかと感じて執筆を決意。日米関係のあり方が話題になるアメリカ大統領選挙にあわせて刊行したいと考え、この間、書き連ねてきました。さすがに選挙の結果を予想することはできませんでしたが、最後の仕上げ作業には、トランプ大統領を迎え撃つ気構えをもって臨むことになりました。
みなさま方から忌憚のないご意見、ご批評を賜れば幸いです。今後ともよろしくお願いいたします。
2017年1月5日
遅ればせながら、新年おめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
何年かぶりに、執筆中の本がひとつもないという状態で、年末年始を過ごしました。ということで、これもしばらくぶりに、元旦は初日の出を観に行きました。
我が家からJRで3駅のところに大山崎という駅がありまして、駅の北側が有名な天王山なんです。その中腹に初日の出のスポットがありまして、そこにはじめて行ってきました。
太陽が向こうの山から出始めて、
姿を全部あらわすまで。いやあ、感動でした。
執筆中の本がないとはいえ、自衛隊を活かす会として編集協力している本はありまして、それは毎日2時間ほど作業したでしょうか。某大出版社の新書として刊行予定の『新・日米安保論』(仮)。「会」の3人の呼びかけ人が、トランプ論に始まって、尖閣と日米中関係の展望、対テロ戦争の行方、北朝鮮と核抑止問題、日米地位協定の問題点、守るべき日本の国家像などについて鼎談して論じ合うものです。2日間で8時間に及んであちこちさまよったものを、合計16万字を10万字に圧縮しながら整理しました。まあ、こんな根を詰めた仕事は、1日2時間が限度なので、お正月休みがあってちょうど気分転換をしながら進められたので、ラッキーだったと思います。
今年はやることが多いですよね。南スーダン問題に決着をつけるのから始まって、安全保障問題では安倍路線に替わる選択肢を提示していきたいと思います。そのなかで沖縄問題をどう日本国民自身の課題にしていけるのかが課題でしょう。
そして、ようやく、安全保障にくわえ、経済問題でも選択肢を提示するのが今年です。パンチ力のある本が出せるかなあ。
それらを進行させつつ、総選挙ですよね。さて今年も、はらはらどきどき、ワクワクの1年間にしたいと思います。よろしくお願いします。