『超・嫌韓流』はじめに・3

2014年6月26日

 では、もうひとつ、政治的にできないことって何でしょう。これにもびっくりしました、同時に宮本さんならではというか、考え込んでしまいました。

 要するに、こういうことです。政権をとったら、国家と国家の関係は、それを評価するにせよしないにせよ、国家同士がで結んだ条約が基本となるのであって、そこを飛び越えてはいけないということでした(そういう内容だったということであって、こんな言葉を遣いを宮本さんがしたわけではないと思いますが)。

 これって、具体的にいえば、韓国との関係では、1965年の日韓基本条約(日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約)が基本になるということです。慰安婦に対する補償ということを考えると、同時に結ばれた日韓請求権並びに経済協力協定(財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定)が基本だということでもあります。

 本書を読むような方には釈迦に説法でしょうが、日韓基本条約って、日本の植民地支配について「もはや無効だ」と書いているものです。この「もはや」がくせ者で、いまは無効になったが、植民地支配した当時は無効ではなかったぞ、合法だったぞと、日本政府が説明してきたものです。請求権協定についていえば、韓国の国民の日本に対する請求権が「完全かつ最終的に解決された」として、こんご「請求権……に関しては、いかなる主張もすることができない」とまで言い切ったものです。

 自民党政権がこの条約を基本としていることは当然でしょうが、宮本さんの指示は、日本共産党が政権についたとしても、それは変わらないということです。共産党は戦前、朝鮮半島を植民地にするなと命がけで闘った政党です。日韓条約についても、先ほどのような問題点を指摘し、反対闘争をリードしてきました。その共産党がこの条約を基本とするというのですから、驚かない方がおかしいでしょう。

 しかし、よくよく考えて、その通りだなと思いました。どんな条約であっても、国と国が公式に結んだものです。とりわけ、平和条約とか基本条約といえば、国と国のあり方の根幹を定めたものです。平和条約を破棄するなんてことを言いだせば、「再び戦争するのか」と思われるようなものです。だから共産党も、戦後日本の出発点になったサンフランシスコ条約の重大な問題点をきびしく指摘しつつも、この条約を破棄するという立場はとっていませんでした。唯一、この条約の千島放棄条項についてのみ破棄すると表明したことがありますが、現在はそれも取り下げています。日韓基本条約についても、それを破棄するとか改正するとか、そういうことは求めてきませんでした(締結直後の時期までは調べていませんが)。なお、廃棄条項がある日米安保条約については、また別の問題です。

 しかも大事なことは、植民地支配に反対してきた実績が誰よりも鮮明な共産党が、そう言うことに重みがあるということです。自民党が同じことをいえば、やはり植民地支配のことは反省していないのだなと思われるでしょうが、共産党にはその心配がありません。宮本さんは、みずから命がけで闘ったわけですから、誰からも後ろ指を指されることはないと自信をもっておられたのでしょう。

 こうして、発表された「提言」は、法的に新しい措置をとるという態度はとりませんでした。まず、あの戦争が侵略戦争であったことを国会決議で示し、国家の責任を明確にするべきだとして、いわば政治的な解決を打ち出しました。慰安婦に対する補償についても、「国際法上、個人の補償請求権の問題は、国家間で解決することがこれまで通例となってきた」として、65年の請求権協定の立場を否定するようなことはしませんでした。そして、そういうやり方が通例ではあっても、国際法の考え方の発展その他をふまえ、例外的に認める場合もあるのではないかとして、慰安婦に対する補償はおこなうべきだと指摘したのでした。(続)

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