『放射線被曝の理科・社会──4年目の「福島の真実」』下

2014年8月12日

 たくさんの論点を深くとりあげるのが方針である。だから、頁数も値段も、それなりのものになる。

 あとひとつだけ昨日議論になったことを紹介すると、この問題の遺伝的影響ということもある。8月9日の長崎における記念式典でのあいさつのことも問題になっているし、福島の女子高生が「子どもを産めるのか」と心配していると報道されている問題もあるし。

 これは、広島・長崎の被爆者をずっと苦しめてきた問題でもある。被爆者が結婚し、子どもを産み、その子どもがガンになったりすると、親は苦悩するわけである。被爆者である自分が結婚し、子どもを産んで良かったのかと。

 ただ一方、この問題ではたくさんの被爆者がいて、何十年にもわたる調査結果も出ている。そして、被爆者の子どもと、被爆者でない子どもとを比べて、ガンにかかる確率は変わらないのだというたしかな結果がある。
 その結果は、被爆者に希望を与えるものではある。だが、そうはいっても自分の子どもが病気になれば、被爆したせいではないかと思い悩むのが、人の親の常なのだ。

 だから、日本の原水爆禁止運動は、あるいは被爆者援護の運動は、「被ばくすることによる遺伝的影響がある」とは言ってこなかった。苦悩している親に追い打ちをかけるようなものだからだ。運動が生みだした知恵というか、被害者によりそう優しさというか、そういうものだったと思う。

 それを4年目を迎える福島にどう生かしていくのか、あるいは生かしていくべきではないのか。そういうことも、この本の重要課題である。被爆した方とそうでない方のあいだで子どもがガンになる確率は変わらないという事実だけを客観的に伝えるのか、それとも価値判断を加え、リスクは無視していいのだと伝えるのか、逆に出産を不安に思う気持ちを強めることになっても、リスクはあると強調するのか、そういう問題である。どういう伝え方が、不安を抱えている高校生にとって適切なのかという問題である。

 今回の本の筆者たちは、全員が、3.11の以前から長らく原発反対運動や原水禁運動、被爆者援護の運動に献身してきた人たちである。3.11を受けて突然めざめた人ではない。そういうところも、この本の信頼性を高める要素となるだろう。

 11月頃に発売。とりわけ福島に住む200万人の人々に買ってほしいと思っている。

記事のコメントは現在受け付けておりません。
ご意見・ご感想はこちらからお願いします

コメント