会社のメルマガへの寄稿

2017年6月30日

 いまから沖縄を発って伊丹に向かいます。中身のある出張でした。時間がないので、本日のメルマガへの寄稿を転載。

鳩山友起夫×柳澤協二
『抑止力のことを学び抜いたら、究極の正解は「最低でも国外」』

 いまから7年前、私は沖縄問題に取り組んでいました。その年の秋、県知事選挙が予定されていて、普天間基地を抱える宜野湾市で現職市長だった伊波洋一さんの出馬が想定されていたので、年明けに市役所に伊波さんを訪ねて、本を出すことを約束してもらったのです。

 ただ、私の予想では、この選挙でそう簡単には勝てないと思われました。当時の沖縄における対決構図は「保守VS革新」でした。その革新は日米安保条約廃棄で一致する社民、社大、共産の共闘が基本でした。しかし、当時の沖縄の世論を見ると、普天間基地の県外移設では一致しても、安保廃棄は多数になっていません。基地被害についてはきびしい抗議の声をあげる県民も、日本の平和と安全を考えると安保廃棄までは言えないという状況でした。実際、現在の翁長県政は、知事自身が日米安保の維持を明言しており、安保の評価を棚上げして普天間の県外移設を求めるところで一致しているわけで、そうでなければ勝利できないのは、当時から見えていたわけです。

 しかし、だからといって、初めから負けを想定して闘うわけにはいきません。その時に私の目に飛び込んできたのが、朝日新聞(1月28日)に掲載された柳澤協二さんの論考でした。

 柳澤さんといえば、防衛庁生え抜きの官僚です。運用局長といって日米共同作戦などを担当し、日本防衛から外れて自衛隊を「周辺事態」で動かすことを決めた新ガイドライン(当時)と周辺事態法をつくった張本人です。その後、世論の反対のなかをイラクに派遣された自衛隊を官邸で統括した責任者でもあります。私にとっては、いわば「敵」にあたる人でした。

 ところが、その柳澤さんが朝日新聞に書いていたのは、海兵隊は沖縄にいなくてもいいのだということでした。前年に「県外移設」を公約して政権を奪取した民主党の鳩山友起夫首相が、抑止力を口実にして公約を裏切りそうになっていた局面で、それを公然と批判したのだと思いました。

 そこで私は、天下り先の日本生命まで柳澤さんをお尋ねし、本の執筆をお願いしたのです。11月の県知事選挙に向けて伊波さんの本を準備していること、しかし日米安保に賛成の人が伊波さんの支持に回らないかぎり選挙では勝てないと思っていること、安保推進派の柳澤さんが沖縄に海兵隊はいらないという本を書けば実質的な応援になること(立場上、公然と伊波さんを応援することまでは柳澤さんに求めないこと)などをお話ししたのです。相当迷ったようですが、柳澤さんは決断してくれました。

 そういう経過があって、9月初旬にまず伊波さんの『普天間基地はあなたの隣にある。だから一緒になくしたい』が出来上がり、その一週間後に柳澤さんの『抑止力を問う』が完成しました。私自身もその年の初め、『幻想の抑止力 沖縄に海兵隊はいらない』を出していました。

 そうやっていくつもの本ができたので、本の編集をするだけでなく、沖縄に行って営業もしてこようと思い立ちます。抑止力をはじめ日米安保、沖縄問題をめぐっていろいろな立場の本が出ていたので、立場に関わりなくそれらを紹介するA3裏表のチラシをつくり、全国の書店に「抑止力関連の本のフェアをしませんか」とばらまくとともに、私自身は沖縄で3泊4日で40ぐらいの書店まわりをしたのです。自民党の仲井眞さんの選挙事務所は沖映大通りにあったのですが、通りを挟んで反対にあるジュンク堂書店那覇店には伊波さんと柳澤さんの本が山積みされる状況をつくりました。

 まあ、選挙は負けました。しかし、路線といいますか、普天間の県外移設に賛成する人は、安保堅持の人でも一緒にやるのだという考え方を確立するうえでは、一つの転機になったと思います。

 それから6年が経った昨年秋、ひょんなことから、鳩山さんと大田昌秀さんらの本をつくる話が持ち上がります(これは8月、『沖縄謀叛』というタイトルで出る予定です)。これを作成しながら感じたのは、鳩山さんに対する世論の反発は想像を超える大きさだということでした。沖縄においては、当初は怒りがあったでしょうが、普天間の県外移設に現実味をもたせてくれたという感覚もあり、総理をやめてから沖縄に毎月のように足を運んで謝罪もされているということで、鳩山さんの評判はいいのです。しかし、本土では、まず保守からは強い批判の対象ですし、民主党(民進党)関係者も鳩山さんにすべての責任を押しつけて過去の誤りを見ないようにしているようです。護憲平和戦力にとっては、裏切り者のままです。

 このままではこの本は売れないと感じた私が思いついたのは、そうだ、鳩山さんと柳澤さんの対談を実現しようということでした。鳩山さんが抑止力でつまずき、柳澤さんがそれを批判することで論壇デビューしたわけですから、二人がはじめて出会うことには意味があります。鳩山さんが世論に受け入れられない最大の理由は抑止力と普天間基地問題なのですから、そこを真剣に反省し、総括する本が出ないかぎり再び注目されることはないと、鳩山さんに率直に訴えたところ、柳澤さんが相手ならOKだというお返事があり、この本が生まれることになったのです。

 ということで、この本、かもがわ出版があったから誕生したと言っても過言ではないでしょう。私自身にも思い入れがあります。

 中身はすごいです。抑止力というものをこれほど深く理解できる本は、他にはありません。米軍基地を撤去するということと日本の安全はどうやって両立するのかということへの示唆も半端ではありません。日本の政治の在り方への深い洞察もあります。

 多くの人に手にとってほしいと思います。

記事のコメントは現在受け付けておりません。
ご意見・ご感想はこちらからお願いします

コメント