『危機の現場に立つ』(中満泉)

2017年9月29日

 前原さんの決断について書きたいことは多々あれど、本日は朝から、普天間、辺野古、嘉手納、その他を激しくまわって、夜はジュンク堂書店那覇店で、鳩山さんと柳澤さんの対談の司会をやり、夜9時過ぎから懇親会というスケジュールですので、余裕がありません。ということで、困った時の書評です。まあ、表面的な流れに一喜一憂することなく、深い流れをつかむことが大事だと思うと、こんな本に学ぶことが大切なのではないかと。

 中満泉さんと言えば、新しく国連の事務次長になった日本人女性だ。担当は軍縮問題。ということで最初の仕事は「核兵器禁止条約」の策定となり、今年の原水禁世界大会にも国連代表として参加された。国連代表の演説を日本語で聞く機会が来るとは、これまで想像もしなかった。

 その中満さんが書いたばかりの本が、これである。大学を卒業し、国連に就職して以降の体験をリアルに書いている。

 中満さんって、生粋の国連職員なので、核兵器禁止条約を妨害する日本政府とは関係がなく、ちゃんと仕事をしてくれると期待している。だけど、見かけは優しそうで穏やかで(いや、見かけだけではないと思うが)、国際政治の荒波のなかでどれだけのことができるのかは、少し心配なところもあった。

 申し訳ありません。完全な間違いでした。この本を読んで、国連がなぜ彼女にこの仕事をさせたのか、よく理解できました。

 国連難民高等弁務官事務所に勤め、一昨日書いたクルド難民の現場が最初のお仕事。その後も、激戦地だった旧ユーゴその他を飛び回ってきたんだね。軍用機から降り立ち、十何キロもある防弾チョッキを着て、空港事務所に駆け込む様など、リアルだ。

 次々とやってくる難民を保護しなければならないが、目の前にいる兵士は、軍の命令で難民を殺そうとしている現場で、中満さんはどう対応したのか。これは私が書いても説得力がないので、是非、読んでほしい。

 一方、難民を保護していいのか、保護すべきではないのではというジレンマに立たされることもあるというのも、またこういう現場の真実なのだろう。麻生さんが難民の射殺に言及して話題になったが、あの100万人が虐殺されたルワンダでは、まさに虐殺を主導した連中が難民キャンプも支配していて、難民を支援することは虐殺に加担するということにもなったそうだ。

 北朝鮮の武装難民がやってきた時、それを難民として受け入れるという判断は、おそらく誰もできないだろう。射殺はダメでも、せいぜい拘束して牢屋に入れ、いつの日か裁判ができるような状態になった時、帰国させるということになるのだろうか。そこまでできれば立派なものだ。

 話がズレたけど、ここ10年ほどは、PKO部門の政策部長などもやり、住民保護のために武力行使もいとわなくなったPKOの政策もつくっていた。暴力を起こさないためにも、「もし必要であれば、武力行使を躊躇しない」という明確な態度表明が必要なこと、「一発も撃ちません」というのは「攻撃してください」というメッセージになってしまうことを指摘している。

 一方、二児の母として、スウェーデンと日本で子育てして感じたこととか、こっちも説得力のある話が満載だ。PKO部門のアジア・中東部長をしていた時、アフガニスタンにもかかわり(これも中身が濃い)、現地の人からこんなことを言われたことも書かれてある。

 「西欧諸国は自国の安全保障のためにアフガニスタンを安定化させたいと支援をした。本当にアフガニスタンのことを考えて支援してくれたのは日本だけだ」

 まだ日本にはそういうイメージが残っているんですね。そのあいだになんとかしないとね。いずれにせよ、核兵器禁止条約のために安保理常任理事国と渡り合ってくれる人だと確信した。

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