北朝鮮非核化と体制保障のジレンマ・了

2018年5月18日

 米朝首脳会談をめぐる駆け引きが活発になってきた。残虐な支配体制の維持を究極の目標とする北朝鮮を相手にした交渉なのだから、物事が簡単に決着つかないのは当然であり、関係者の粘り強い努力を期待したい。

 それにしても第1外務次官の金桂冠がオモテに出てきたのはびっくりした。94年の枠組み合意、21世紀になってからの6か国協議が破綻する過程で、重要な役割を演じた人物ではないか。米朝会談が破綻したとしても北朝鮮の要求を貫くぞという決意を感じさせる。

 その金桂冠が、アメリカの大統領補佐官であるボルトンをやり玉に挙げていることは、今回の問題の裏側を象徴していると思う。とくにボルトンがリビア方式を求めているのを批判していることである。

 よく知られているように、リビアは核開発の初期段階にあったとされるが、2003年、核の即時・無条件の放棄を表明した。そして実際、核やミサイル関連の物質をアメリカに引き渡したのである。

 94年の米朝枠組み合意の際は、「行動」対「行動」の原則だった。そのため、ゆくゆくは核関連物質をアメリカに運び出すつもりだったが、その準備段階の「行動」としてアメリカが人を派遣して核物質をスチール缶に閉じ込め(危険な状態でおかれていたので安全を図るという目的もあった)、当面それを北朝鮮内に置いておくという方式をとったのである。ところが結局、その「行動」を北朝鮮が利用し、スチール缶内の核物質を取り出して核兵器を開発したのだから、リビア方式は譲れないところだと私も思う。

 北朝鮮が一番心配しているのは、リビアが核の放棄に応じたのに、最終的にはカダフィ大佐の支配体制が打倒されたことだろう。リビアの経過は詳しく分からない部分も多いが、欧米との関係を密接にしたことによって、自由を求める人民の運動が広がり(ジャスミン革命の影響もあったし、欧米が空爆して援助したこともあったが)、結局は、独裁体制が打倒されることになった。

 同じことが北朝鮮でも繰り返されたらたまらないということだ。一方、トランプさんは、リビアの体制を打倒するつもりはなかったのだと言っているようだ。

 しかし、トランプさんが金一族の支配体制を保障したところで、この連載で書いてきたように、北朝鮮が核開発を放棄し、欧米との関係を密接にすることは、結局は、金一族の支配体制を揺るがすような人びとの運動につながっていくのである。そのジレンマから北朝鮮が逃れようとしたら、核開発も続行し、残虐な支配も維持するという、現在のやり方にもどるしかない。しかしもはや、そういうやり方も永続するはずはないのだ。

 実は、トランプさんも、そこを深く読み切っているのかもしれない。体制の打倒などしないと保障しても、核開発を放棄させ、経済的な見返りを十分に与えたら、いずれは体制が崩壊するのだと分かってやっているのかもしれない。だとしたら、やはりノーベル平和賞級の業績になるかもね。

 流血の結末を避ける方法というか、金一族が助かる道は1つしかない。このまま米朝会談に応じて非核化を進め、まだ国際社会が成果を褒め称えている間に、そして人民の運動が高揚する前に(それを弾圧して欧米の世論が硬化する前に)、その微妙なすきまを見つけて受入国を見つけて亡命することである。

 北朝鮮をめぐる本を執筆したくなってきた。どの出版社か、いかがですか。(了)

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