自衛隊の戦時における戦場の医療

2018年9月25日

 昨日から東京。本日はずっと自衛隊の第一線医療について深めている。

 第一線医療というのは、要するに戦時における戦闘現場での医療のことである。昨年亡くなった元自衛官の泥憲和さんが、弊社刊の『南スーダン、南シナ海、北朝鮮──新安保法制発動の焦点』で、南スーダンに派遣された自衛官のことを次のように語っている。

 「自衛隊の救急救命体制の貧弱さについて……PKO隊員の個人携行救急キットには、受傷した場合に必要な薬剤や備品が入っておらず、衛生隊員も資格がないため満足な救命措置を施せません」

 「救急体制だけではありません。……防弾ジャケットは一昔前の仕様です。銃弾に弾かれた石ころなどで目を負傷しないためのゴーグルは他国軍では標準装備ですが、自衛隊員は持っていません」

 日本有事ではなくPKOだからそうなのかというと、そうではない。日本有事でも同じなのだ。防衛省はある会合のなかでこう説明していると、これも泥さんが明らかにしている。

 「例えば、個人携行救急品を全隊員分確保した場合、約一三億円が必要となるが、限られた予算においては現実的な金額ではない」

 イージスアショアに何千億円という報道を見ると、日本政府はいったいどこを向いているのかという疑念が湧いてくるのを抑えることができない。自衛隊が海外に行かないことを前提にしても、こういう状態を放置しておいていいはずがない。

 政府も何もしていないわけではない。何年か前、「防衛省・自衛隊の第一線救護における適確な救命に関する検討会」というのができた。そこで、砲弾が飛び交うような状況下においては、看護師や医師を派遣することにならないから、現場の自衛官が救急救命措置をとれるよう(心肺停止のものがいれば気道確保のための管を挿入したりしなければならない)、制度を改正することとなった。

 ただ、制度が改正されたからといって、突然スムーズに進むことはない。だってまず、砲弾で負傷した人を治療した経験は自衛隊にはない(もちろん民間の医師にもない)。一番あるのはヤクザが発砲事件を頻繁に起こす地域の医師だと言われている。どうやって経験を積ませるのかという大問題がある。戦争を起こして経験を積むというわけにはいかないのだから。

 また、そういう戦闘地域では、医療と戦闘行為のどちらを優先させるかという問題も生じる。戦闘で勝たなければ医療を施すこともできないような状況である。しかし、倫理的には、死にそうになっている人を優先的に助けたいという気持ちが生じるだろう。

 そういういろいろな問題に日本は目をつぶってきたわけだが、自衛隊を「加憲」することが焦点になる政治状況において、自衛隊をめぐるいろいろな問題が提起されてくる。護憲派にこれに対する回答がないと、乗り切っていくことはできないだろう。

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