中国による防空識別圏設定の問題点

2013年11月25日

 あまりにも常識から逸脱した行動である。いかに領土問題で意見の違いがあっても、このような行動を許してはならない。

 中国側にも言い分があろう。だって、尖閣は自国の領土だという立場からすれば、その上空に防空識別圏を設けるのは当然ということになるから。

 しかし、今回は、そういう問題ではない。何十年もの間、日本側が防空識別圏を設定していて、それを周辺のすべての国が認識していた。日本側がここに設定したことに対して、どの国も抗議などしてこなかった。いわば定着してきたわけである。ところが今回、そこを強制的な力をもって打ち破ろうとしているわけだ。

 これはまず、漁船など民間が領海侵犯をするのとは性格が異なる。国家の意思を鮮明にするものだ。よく知られているように、中国が尖閣を自国の領土だといいだしたのは、周辺の海洋資源の存在が明らかになってからであって、民間漁船が入る程度なら「実益」をねらったものであって、どこかで折り合える可能性があった。しかし、今回は、あくまで「実益」ではなく「主権」の問題として捉えるという宣言なので、日中の衝突に発展する可能性が飛躍的に高まった。

 公的という点では、いわゆる海洋警備局の船が領海に入ってくるのと似ているともいえる。しかし、今回、中国の指示に従わない場合、空軍の実力で対処することが想定されているわけだから、「主権」問題を質的に高め、軍事衝突の危険性を増大させたといえるわけである。

 こういう場合の国際法上の原則として有名なものに、「友好関係原則宣言」というものがある。国連総会で満場一致で採択され、くり返し引用され、いまでは慣習法とみなされているものだ。そこには、以下のような規定がある。        

 「武力による威嚇又は武力の行使の結果生ずるいかなる領土取得も、合法的なものとして承認してはならない」

 領土の争いは無数にある。しかし、どんな言い分があっても、それを「武力による威嚇」で実現した場合、合法ではないと宣言されているのである。防空識別圏を設定して武力で尖閣上空を我が物にしたって、誰も認めることはないのだ。

 いくら中国が国際法にうとくったって、この有名な規定を知らないはずがない。それなのになぜ、こんな挙に出るのか。ナショナリズムを煽って、揺らいでいる体制への支持を高めるという意図しか考えられない。しかし、そのことが生みだす結果は、想像がつかないほど重大なものとなる可能性がある。だって、日本の側も、ナショナリズムをあおって体制の支持を広げたいと考える連中が、政権を握っているからだ。

 要するに、どちらの国の指導者も、尖閣問題をどう解決するかなんて、真剣に考えていない。煽りに煽って、世論が強硬路線を進み、政権への支持が広がることだけを望んでいるのだ。国益なんてどうでもいいのである。そこへの批判をどう高めているのか、緊急な提起と行動が求められる。

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