アメリカは中国が抑止の対象ではないと明言すべきだ

2014年2月20日

 安倍さんの靖国参拝をきっかけとしたアメリカと日本の衝突が、その後も話題になっている。安倍さんの歴史観とアメリカの歴史観には根本的に違いがあるのだから、当然のことだと思う。

 この問題では論点が多く、安倍さんを批判する材料には事欠かない。だけどここでは、あえてアメリカ側の問題点を指摘しておきたい。

 安倍さんがあんな行動に出ても対米関係は大丈夫だと判断したのは理由がある。歴代政権がつまずいていた普天間基地の名護移設問題をようやく動かしたからである。アメリカの要求に応えたのだから、これで多少のことは許されると考えたわけだ。

 安倍さんにとってみれば、日米同盟は至上の価値をもつ。その日米同盟の根幹である基地問題で仕事をしたということは、それほど意味のあることだという認識があるのだ。

 だけど、アメリカにとっては、歴史認識こそ「至上」のものだった。だって、自国の第二次大戦における役割にかかわるものだからだ。

 ソ連が存在していて、ソ連を「抑止」の対象としていたときなら、日本が多少はねあがっても黙認していたと思う。抑止とは、いざという時は相手を壊滅させることを明確にわからせることにより、相手に行動を思いとどまらせるという軍事戦略であり、政治や経済はそれに従属するものであって、相手を壊滅したら自国も困るというほどの密接な関係は築かないものである。それほどのことを死活をかけてやるのだから、同盟国の存在はかけがえのないものだった。

 安倍さんは、そういう時代と同じ感覚でいるのではないか。抑止の対象である中国の行動が目に余っていて、抑止力を高めるために自分が普天間問題で仕事をしているのだから、高い評価を受けると信じ切っているのだ。

 しかし、アメリカにとって中国はそのような関係にない。だって、経済的には切っても切り離せない関係である。お互いが、相手の壊滅を望むどころか、相手の繁栄を切望するという関係である。

 だから、本来なら抑止戦略はとらないという立場を明言し、現在の関係にふさわしい軍事戦略は何かを探るべきなのだ。ところが、アメリカは、「抑止力の維持」を繰り返す日本政府に対して、抑止を否定しないことが在日米軍の維持にとって好都合だと思っているからか、中国に対して抑止戦略はとらないことを言ってこなかった。

 そういうことがあるので、安倍さんが誤解もするわけである。抑止戦略をとらないと明言することは、いろいろと新しい問題を生むだろう。抑止一点張りでやってきた日本政府は、精神的にも支えを失うかもしれない。何のためにこれほどの在日米軍が必要なのかという根源的な問いに発展する可能性もある。普天間の名護移設など吹っ飛ぶだろう。

 だけど、もうはっきりさせるべきだ。いざという時には中国を壊滅させるために在日米軍が存在し、普天間を名護に移転するなどということでは、いまの時代にふさわしい米中関係を築けない。そんな単純なことが、いま求められていると感じる。

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