2015年5月7日
この住民投票って、部外者(私は大阪府民だけど今回の対象には入らないので)の目から見ると、すごく分かりにくさがある。投票する人も、困っているのではないだろうか。
いわゆる二重行政解消という橋下さんなりの旗印があるわけだが、都道府県と市区町村がある限り、かならず二重行政の問題はつきまとう。そこをどう区分けするのが最善かということって、絶対的な基準があるわけではないだろう。大阪に限らず、いまの区分けが正しくって、それを変えるのは絶対にダメだということは、おそらくない。
しかし、行政がうまくいかないという現実があったとして、その理由を行政の制度のせいにしようとする橋下さんの態度って、私は潔くないと思う。うまくいかないなら、まず、自分の政策が間違っているとか、力量が不足しているとか、そこを考えるのが筋であるべきだ。
そして、たとえ大阪都構想の方が、いまより少しマシだったとしても、そのためにこれだけの力とお金をかけるのも、どうなのかなあと思う。その力とお金を別のところに使った方が、住民にとっていいと感じるからだ。
だが、一方で、この問題は、集団的自衛権のことのように原理的な賛成、反対になじまない。どっちの方がムダがないのかということだから(いや、もっと原理的な問題だという考え方もあるだろうけど)、賛成と反対をぶつけ合うという手法に適さないような気がしてならない。だから、少なくない住民が、「まあ、橋下さんのでも悪くないなら、一度やってみたら」というふうになるのだと感じる。そこを原理問題みたいに攻めていっても、違和感が残るのではなかろうか。
だけど、大阪都構想を離れて、再び部外者の立場で言わせてもらうと、是非、反対多数で葬り去ってほしいと思う。なぜなら、全国的な意味があるからだ。
最近、労働問題に熱心な弁護士にお会いし、残業代ゼロ法案の行方について尋ねた。あるいは、自衛隊を活かす会の関係で、新安保法制の今後について関係者の意見を聞く機会が多い。
そこで多くの方がおっしゃるのは、維新の党の行方は、この住民投票の結果にかかっているということだ。もし、残業代ゼロ法案が頓挫したり、新安保法制が躓くことがあるとすれば、それは維新の党が反対に回る場合しかないと、みなさんおっしゃる。そして、最近、これらの問題で、維新の党の幹部が反安倍さん的なことを言う機会が多くなっているけれど、もし大阪の住民投票が橋下さんが勝つなら、維新の党の全体が再び橋下さんの言いなりになっていくであろうというのが、大方の見方である。
ということで、大阪のみなさんには、是非、がんばってほしい。
2015年5月2日
前回の記事で、北海道新聞の報道を根拠にして、慰安婦問題での挺対協の方針転換について書いた。そして、それを歓迎しつつ、「もしかしたら、この転換を批判する声も出てくる可能性もある。というか、実際に出ている。その声が強くなって、挺対協の方針転換が押し戻される可能性だって、まったくないとは言えない」との懸念も表明していた。
残念なことだけど、その懸念が当たっていたのかな。北海道新聞によると、「日本政府に法的責任を求めない」と表明したはずの挺対協代表らが、北海道新聞に抗議と訂正要求をしたそうだ。それを受けて、当該記事はこのように訂正されたという。
見出し:「慰安婦問題 『法的責任』は求めず 韓国・挺対協 従来方針を転換」→「慰安婦問題 『法的責任』内容を説明 韓国・挺対協 解決の方向性を提示」
本文1:「挺対協が、日本政府に対して立法措置による賠償など『法的責任』に基づいた対応を求めてきた従来方針を転換したことが分かった。代わりに『政府と軍の関与の認定』や『政府による賠償』などを盛り込み、要求を緩めた」→「挺対協が、日本政府に対し慰安婦問題の解決に関しとるべき方向を提示した」
本文2:「挺対協はこれまで、日本政府の『法的責任』を追及し、《1》慰安婦制度を犯罪事実として認定《2》国会決議による謝罪《3》法的賠償《4》責任者の処罰―などの対応を求めてきたが、犯罪としての扱いは求めず、立法措置も除外した」→「犯罪としての扱いは求めず」の部分は削除。
本文3:「尹代表は『(法的責任を直接追及しなくても)提案内容で、実質的に日本の法的責任を明確にできる』とした」→「尹代表は『法的責任の内容というものは提言の中に込められている』とした」
要するに、挺対協の方針が「法的責任を追及しない」と変わったという部分は、すべて削除されたということだ。私の懸念が当たったということなので、「すごい洞察力でしょ」と誇りたいところだが、悲しいよね。これで、慰安婦問題の解決は、さらに遠のくことになる。
ただ、これも前回の記事で書いたことだけど、こうなるには理由があった。「法的責任を追及しない」と言いつつ、そういう言葉は要求書のなかに入れていないけれど、実際にはそれと矛盾する内容が入ったりしていて、いわゆる玉虫色だったわけだ。
率直にいって、この20数年にわたってつづいた対立を、あいまいにして解決しようとするのは無理である。そんなことをすれば、20数年間の方針を正しいと信じ込んできた多くの人々が反乱を起こし、収拾がつかなくなるのだ。今回の北海道新聞をめぐる顛末も、その結果だろう。
だから、何よりも大事なのは、なあなあで収拾しようとするのではなく、堂々と議論することだ。法的責任なんか、慰安婦の方々の尊厳を回復する上では、無視していいほどの小さい問題だということを、徹底して議論することなのだ。挺対協がそういうことができるよう、暖かく見守っていきたい。
私の『慰安婦問題をこれで終わらせる。』は、そのために書いたようなものである。慰安婦の方々に読んでもらうため、誰かハングルに訳してくれないかなあ。
2015年4月30日
慰安婦問題では、韓国の挺対協(ていたいきょう。挺身隊問題対策協議会)が、韓国において非常に大きなポジションを占めている。そのことは、この問題に関心のある方にとってはよく知られている事実である。
この20数年間、慰安婦問題を解決しようとして、いろいろな努力が行われた。けれども、日本政府の「法的責任」の明確化を求める挺対協と、「法的責任」はないとする日本政府との間で着地点が見えず、結局、暗礁に乗り上げてきた。
その挺対協が、23日、「法的責任」を求めない方向へと転換した。北海道新聞が報道している。ネット上ではすでに削除されているので、以下、全文を掲げておく。
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慰安婦問題、日本に「法的責任」は求めず 韓国・挺対協、従来方針を転換
北海道新聞 4月25日(土)7時40分配信
交渉が停滞、現実的な戦略
旧日本軍の慰安婦問題をめぐる韓国最大の支援団体・韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会(挺対協)が、日本政府に対して立法措置による賠償など「法的責任」に基づいた対応を求めてきた従来方針を転換したことが分かった。代わりに「政府と軍の関与の認定」や「政府による賠償」などを盛り込み、要求を緩めた。日本政府は慰安婦問題で人道的対応の必要性は認めているが、50年前の日韓条約などを背景に法的責任は否定。交渉が停滞する中、挺対協は現実的な戦略を選んだと言える。
挺対協は慰安婦問題をめぐり、韓国政府の対応に大きな影響を与えている団体。要求を緩和したのは元慰安婦が高齢化していることに加え、従来の要求では「法的に解決済み」とする日本政府と平行線が続く可能性が高いためとみられる。
政府の賠償や謝罪の要求は変えず
今回の要求は《1》当時の政府と軍が慰安所を設置し、管理した点の認定《2》女性が本人の意思に反して慰安婦になり、強制的な状況に置かれたことの認定《3》人権侵害の認定《4》明確な政府公式謝罪《5》政府による被害者賠償―など。このうち《5》以外は1993年の河野談話やその後の日本政府の対応におおむね含まれている。
日韓の慰安婦関連団体の連合体は昨年6月にこの方針をまとめていたが、挺対協の尹美香(ユンミヒャン)代表が23日、同団体の方針として示した。
挺対協はこれまで、日本政府の「法的責任」を追及し、《1》慰安婦制度を犯罪事実として認定《2》国会決議による謝罪《3》法的賠償《4》責任者の処罰―などの対応を求めてきたが、犯罪としての扱いは求めず、立法措置も除外した。一方、閣議決定などによる政府の賠償や謝罪を求めている点は変わらず、歴史教科書への記述や、真相究明も継続して要求している。尹代表は「(法的責任を直接追及しなくても)提案内容で、実質的に日本の法的責任を明確にできる」とした。
慰安婦問題に詳しい東京大学の和田春樹名誉教授は「被害者の求めにも対応しており(日韓間の)問題解決の基礎になる案だ」と評価している。
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私が書いた『慰安婦問題をこれで終わらせる。』という本は、乱暴に言ってしまえば、「法的責任」を求めていては、慰安婦の生あるうちに問題は解決しないということで、別の解決策を提示したものである。というか、「法的責任」というより、もっと大事な問題があるのだと問いかけた本である。
そういう点で言うと、今回の挺対協の方針転換は、大きな意味があると考える。膠着してきた問題が動くきっかけになる転換である。
しかし、まず、これが方針転換と言えるのかという問題がある。北海道新聞の報道だけだと見えにくいが、要求の第3項目目「人権侵害の認定」というのは、「国際法・国内法に違反して人権侵害がされたことの認定」ということだから、解釈次第では、慰安婦に対する人権侵害が日本政府が主体となってやられたことだと認めよということになり、それだと「法的責任」を求めないという主張とは矛盾する。「賠償」についても、一般に違法行為の救済措置として支払われるものであるから、日本政府が支払うことは、日本政府が違法行為をしたと認めることにつながるものである。
しかも、この20年以上、「法的責任」を日本政府が認めるのが唯一の解決策だと主張し、韓国でも日本でも、支援団体はその立場で活動してきた。だから、挺対協のトップが方針転換を明言したといっても、それがどう受けとめられるのか、まだ現時点では行方が見えてこない。
もしかしたら、この転換を批判する声も出てくる可能性もある。というか、実際に出ている。その声が強くなって、挺対協の方針転換が押し戻される可能性だって、まったくないとは言えない。
だけど、その声というのは、挺対協の20数年来の活動が生みだした声だから、自分で克服していかねばならないものだ。だから、これでは前に進まないから妥協したという見地ではなく、この方針転換が大事であるということを、どれだけ多くの関係者が自覚し、周りに伝えていけるかということだ。大きな転換だから、はげしい議論は避けられないのであって、議論を怖がらず、真剣に向き合うことだ。
私の本は、この転換の大切さを理解する上で、意味のあるものだと自負する。私の本が発売された日の翌日、この転換が公表されたことは、そういう点で象徴的なことだと捉えて、この本の見地を広げるためにがんばっていきたい。
2015年4月28日
安倍首相の訪米が歴史認識との関係で注目されている。安倍さんの歴史観がアメリカの歴史観と衝突するわけだから当然だ。
だけど、安倍さんが堂々として揺るがないように見えるのは、自分の歴史観に国民の支持が多いということを背景にしている。アメリカ頼みで安倍さんの歴史観を牽制しようとしても(それに一時期は成功したように見えたとしても)、国内世論を変えていかないと、根本的なものにはならない。
だいぶ前、ある新聞記者から、「安倍さんを歴史修正主義者だと思いますか?」と聞かれた。私の答は、「歴史修正主義者と言えるほど歴史に通じてはいないのではないか。だって、安倍さんの口から出てくる言葉は、身内の人の発言を聞きながら覚えた、まさに耳学問の言葉だから」というものだった。
ただ、その身内の人の発言というのが、安倍さんにとっても、安倍さんを支持する人にとっても、心地よい発言であるわけだ。日本はこんなひどい国だと言われるより、日本はいい国だと言われる方が、聞いていて気持ちがいいことはたしかで、安倍さんへの支持は、そういうベーシックな国民感情を基盤にしているから、壊すのはそう簡単ではない。
だから、その国民感情に寄り添いながら、ちゃんとした歴史観を提示するという作業が必要だと思っている。いかがでしょう。
実際、日本の栄光と日本の自虐は、一体のものだと感じる。たとえば、日本が侵略の道を進んでいったことは事実としてあるわけだが、同時に、その道を進んだのは、アジアのなかで日本だけが欧米並みの水準の国になったという、栄光の事実の裏返しなのだ。
日本は一流の国になろうとしてがんばった。その成果もあった。不平等条約を撤回し、平等なものにした。でも、平等なものにするために、日清戦争や日露戦争で朝鮮半島を我が物にすることが求められた(当時の欧米の水準はそんなものだった)
そのあたりの関係を、うまく書けないかなと思っている。栄光の歴史観に浸っている人に対して、「そうだよね」と共感しながら、「でも、栄光だと思っていたから、自虐的なことになったんだよね」と提示できるようなものだ。そして、あなたの栄光史観って、自虐史観と同じだよねと、最後は切って捨てることのできるようなものだ。
それが次回作の構想。まだ構想とまでは言えないけどね。
2015年4月27日
「自衛隊を活かす会」は、憲法九条下の防衛戦略について、ただただ真面目に考えているだけではありません。いまふうに楽しい活動もしなくちゃねということなんです。
それで、6月20日の「関西企画」の夜、ジャズセッションをやることにしました。伊勢崎賢治ジャズヒケシin北新地〈with木畑晴哉トリオ〉です。
ジャズヒケシって、ご存じでしたか。伊勢崎さんが何年か前からやっているんですが、戦争の火を消すヒケシになぞらえて、ジャズを聞きながら戦争と平和を考えるんです。
それは選曲にも反映されますが、同時に、それにかかわるトークをするというのが、大きな特徴です。今回のトークの相手は、某自衛隊元幹部とだけお知らせしておきます。
先週木曜日の報道ステーションごらんになった方もいるでしょうけど、伊勢崎さん、テレビ朝日のスタッフとともに、アフリカのコンゴ(民主共和国)に行ってきました。そこで戦争の当事者になった国連を見てきて、いろいろ考えたみたいです。コンゴって、国連が集団的自衛権の発動を認めた数少ないケースの一つで(99年4月、安保理決議1234)、その後、ぐちゃぐちゃになって、2013年3月、武装組織を解体することを任務とし、そのために武力行使権限を与えられたPKOがつくられたんです。伊勢崎さんにとっては大きな衝撃だったようで、刺激的な話が聞けると思いますよ。
午後6時から、北新地のサンボアというバーです。北新地で、ワンドリンクが付いて、プロのジャズとトークが聞けて、4000円という破格の値段です。サンボアといえば、銀座のサンボアでもジャズヒケシをやったことがありますが、角のハイボールでウィスキーの量が半端でなくて、伊勢崎さんが目を丸くしてました。自衛隊を活かす会代表である柳澤協二さんの歌声も聞けるという噂もあります。
ただし、これ、先着40名限定なんです。参加したい方は、ホームページから名前や住所等を書いて申し込んでください。すぐに振込先をお知らせしますが、振込を確認した順番で40名にチケットをお送りします。