イランをめぐる軍事リアリティ

2014年6月17日

 昨日の夕刊でいちばんびっくりしたのは読売だった。「米、イランと直接協議へ」という大見出し。

 お隣のイラクで、スンニ派を基板としたアルカイダ系過激派が勢力を拡大し、支配地を広げていることが報道されている。アメリカの行動が注目されているが、アメリカが重視していることの一つが、シーア派に偏重したマリキ政権に対して、スンニ派などとの協調路線をとるよう促すということだ。それなしに、イラク情勢が改善することはなかろう。

 だが、その一方で、昨日の読売夕刊(出所はウォールストリートジャーナル)によれば、同じシーア派のイランがマリキ政権を支援する考えを表明しており、アメリカはそのイランとの間で対話する方針だという。いやあ、すごいなあ。

 1979年のイラン革命以来、アメリカはイランと断絶状態である。ほとんど「敵」といってもいい関係だった。現在のロハニ大統領が就任して以来、イランは核問題で欧米と協調姿勢をとるようになり、その関係に転換が生まれつつあったけど、隣国の過激派支配に対抗するために協調するとなれば、軍事面での協力ということであって、質的な転換である。

 これがうまくいくとは限らない。だって、そもそもシーア派とスンニ派の協調が事態打開のカギなのに、それとは逆行する動きである。しかも、アメリカとイランが協調してマリキ政権を支援するとなれば、外部からの介入だということがあまりに露骨になってしまい、それに対する嫌悪感はスンニ派だけでない広がりをもつ可能性がある。

 ただ、そういうことを離れてみれば、この問題はアメリカのリアリズムのあらわれを示すものとして興味深い。事態打開のためには昨日の「敵」とも手を結ぶということである。すごいよね。

 一方、この日本では、安倍さんが、イランを敵に見立てて、ペルシャ湾で敷設された機雷掃海のため、集団的自衛権が必要なのだと騒ぎ立てている。このリアリティのなさは、なんと表現したらいいのだろうか。

 イラン問題にとどまらない。15事例のほとんどは朝鮮半島有事で、北朝鮮を敵として想定したものである。ところが安倍さんは、その北朝鮮とのあいだで拉致問題の解決めざし、新たな段階に入っている。拉致と核・ミサイル問題を解決し、国交を正常化していくのが、この交渉の最終目標だろう。

 そういうときに、北朝鮮を敵と位置づけ、軍事態勢を強化するって、どういうことなんだろうか。交渉が成功することはない、拉致問題は解決しないというのが、安倍さんのリアリティなのだろうか。

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