拉致再調査のやり方では共産党が先駆的

2014年6月18日

 16日(月)の「赤旗」に、共産党の山下書記局長が参院拉致問題特別委員会で質問したことが報道されていた。それを見て、「ああ、そうだったよな」と思い出すことがあった。

 山下さんの質問というのは、5月30日に公表された日朝の合意文書に関するものである。この合意文書では、日本と北朝鮮がそれぞれやるべきことを列挙しているが、「北朝鮮側のとるべき行為」として、第3番目に以下のように書かれているのだ。

 「第3に、全ての対象に対する調査を具体的かつ真摯に進めるために、特別の権限(全ての機関を対象とした調査を行うことのできる権限。)が付与された特別調査委員会を起ち上げることとした。」

 合意文書が公表された直後の当ブログの記事で、このような文書がつくられたことと、その合意が北朝鮮のメディアでも報道されたことが大事だと書いた。それは形式面であるが、合意の内容面でいうと、この第3項目が大事だと考える。

 「特別の権限(全ての機関を対象とした調査を行うことのできる権限。)が付与された特別調査委員会」。ここでわざわざ「全ての機関」とされているのは、拉致を遂行してきたいわゆる「特殊機関」のことである。

 日朝平壌会談(2002年9月)で8人の「死亡」が伝えられ、それに納得しない日本の世論を背景に、北朝鮮は他の2名を含む「再調査」を行い、その結果が2004年11月に伝えられた(めぐみさんの「遺骨」が中心)。

 そのなかで、北朝鮮側は、平壌会談で「8人死亡」の最大の裏づけとした「死亡診断書」について、“特殊機関が焼却して存在せず、後でつくったものだ”と「訂正」してきたのである。特殊機関が拉致を実行し、平壌会談でそれを認めて以降も、拉致問題を隠蔽するために工作を行っていることが、それで明らかになった。

 日本では、再調査をすべきだとか、経済制裁に踏み込むべきだとか、いろんな世論が交錯する。その局面で、日本共産党は、経済制裁を視野に入れつつも、当面、特殊機関にメスを入れるような再調査が必要だという見解を表明した。たとえば市田書記局長(当時)の談話である(2004年12月24日)。

 「これらの点を指摘した市田氏は「北朝鮮側が提出した資料や証言には、特殊機関のフィルターのかかったものが多く見られる。不自然な点、疑問点が多いのもそのためだ。特殊機関の調査への介在が拉致被害者の安否を含む拉致問題の全容解明の重大な障害となっている。きょうの精査結果でもそのことが確認できる」とのべ、「北朝鮮側の交渉担当者を、特殊機関にも真相解明のメスを入れることのできる十分な権限と責任を持った人物に代え、交渉の質を抜本的に 強化することを、日本政府は北朝鮮側に強く求めていくべきである」と、あらためて強調しました。」

 これは正論ではあり、先駆的でもあった。しかし、特殊機関にメスを入れれば、それを統括していた金正日に責任が及ぶわけだから、とても無理な要求でもあったのだ。そこを突破したのが今回の合意だから、大きな意味があるのだと考える。

 もちろん、金正日が死んで、ようやくそれが可能になったということでもあろう。けれども、それでもこの合意ができたということは、北朝鮮の側が、金正日の責任にもつながるようなことを考えていることを示唆している。変化が生まれることを期待したい。

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