加藤紘一さんのご冥福をお祈りします

2016年9月16日

 各紙で報道されていますが、昨日、加藤紘一さんの葬儀が営まれました。惜しい方を亡くしたというのは、こういうことを言うのでしょうね。

 加藤さんといえば、私がかもがわ出版に入社し、最初につくった本で推薦の帯文を書いていただきました。『我、自衛隊を愛す 故に、憲法9条を守る』という本です。サブタイトルに「防衛省元幹部3人の志」とあります。

 防衛省や自衛隊の方に9条を守る立場を語ってもらうというのは、いまでは常識のようになっていますが、この本が出た2007年には、まったく異例のことでした。「かもがわ出版は変質した」と言われたものです。

 そういう状況ですから、かもがわ出版の従来の読者からは購買を拒否されることも予想され、より広い層に呼びかけることが必要になります。自衛隊の準機関紙と言われる「朝雲」に広告を掲載してもらったのも、その一環でした(これが実現した複雑な経緯は活字にはできませんが、私の講演会に来てくれた人にはお話しすることがあります)。

 帯をどうするかも、要検討でした。著者の一人である竹岡勝美さん(元防衛庁官房長)によると、歴代の防衛庁長官のなかでは加藤紘一さんの評判がいいからという推薦がありました。しかし、加藤さんは自民党の幹事長を務めた方でしたし、9条に自衛隊のことを位置づけるべきだという論者でもありましたから、引き受けてくれるかどうか分かりません。

 それで恐る恐るお手紙を差し上げたのですが、すぐにOKの返事があったのです。秘書の方にお会いして推薦文(最後に掲載)を受け取りましたが、その際、右へ右へと動く世の中のなかで、いま9条を変えてはならないという確固とした信念が加藤さんにあって、それで引き受けたとの説明を受けました。

 発刊した本には大きな反響がありました。従来型の護憲の本が行き詰まっていたなかで、7刷りくらいになったでしょうか。自衛官からも電話があって、お世話になった方に退官の際に配りたいのでと、70冊くらいまとめて買っていただくということもありました。

 ただ、いわゆる民主書店といって、共産党がかかわる書店では、この帯は外して売られることになりました。ですから、そういう書店で買った方には、自民党の加藤さんが推薦してくれたことは伝わらなかったと思います。いまでは、加藤さんだけでなく、自民党のかつての幹部が競うように「赤旗」に出ているのを見ると、隔世の感があります。なお、共産党の名誉のために言っておけば、当時、「赤旗」での書評は掲載されています。中身は評価するが、自民党の幹部が推薦するものはダメ、ということだったのでしょう。

 加藤さんとのほんとうにわずかな交錯から感じるのは、基本的な立場が違う人であっても、どこか大事なところで共感する場合があるのだから、立場が違うからといって対話を閉ざしてはならないということです。安倍自民党のなかにも、そういう人がいるのに、反感が先走って見失っていることがあるかもしれません。思いこみで人を見るのではなく、その人と深くつきあい、判断していかなければなりません。

 そうでないと、この本も出版されることはなかったし、加藤さんに帯文を書いてもらうこともなかったでしょう。加藤さん、安らかにお眠りください。

(以下、加藤さんの帯文)
 私は、憲法に自衛力をもつことを明記すべきだと思っている。しかし、憲法の書き換えは、歴史上大きな断絶があったときしか出来ない。「平和外交基本宣言」としての現行憲法を書き換えてもいいという国内外の信頼感は、まだ醸成されていない。だからこそ、条文に対する議論はもっとなされていい。この本の著者三氏の言葉には、温かな血が通っている。「国を愛する、国民を守る」という決意の一つの形がここにある。(了)

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