核兵器禁止条約・「赤旗」は誤報の訂正を

2017年5月25日

 連載中だが、見逃せないことがあったので、書いておく。本日の「赤旗」に昨日の記事の訂正報道でも載っているかと期待していたら、なかったので仕方がない。

 核兵器禁止条約の原案が発表された。7月7日まで開催される国連会議にかけられるもので、おそらく採択されることになる思われる。核兵器の違法化を決めるものであって、実際に核廃絶のプロセスに進むことを担保するものではないが、核兵器は違法だという法的な規範が確立するのは大事なことだ。

 共産党は、志位さんが3月の国連会議に参加するなど、積極的な対応をしてきた。民進党などがブレた態度をとり続けているなかで、大事なことだと思う。昨日の「赤旗」には、その志位さんの「核兵器禁止条約草案を心から歓迎する」という「声明」が出されている。

 昨日、1面に掲載された「声明」を読んだ上で、2面の報道記事に目を移したのだが、啞然としてしまった。ダメでしょう。

 見出しに「「核の傘」の提供禁止も」とある。さらに、本文ではこうなっている。

 「自国領土や管理下にある地域で、核兵器のいかなる駐留、設置、配備も行ってはならないと規定。核保有国が同盟国に「核の傘」を提供することを禁止する内容です」

 「核兵器のいかなる駐留、設置、配備」(本日付の抄訳では「配備、設置、展開」となっている)を禁止したことは事実だ。しかしそれを「核の傘」の提供を禁止したと表現するのは誤りである。

 もちろん、アメリカなど核保有国が、同盟国に対して提供する「核の傘」の一部として、同盟国のなかに核兵器を配備することはあり得る。しかし、韓国に核兵器を配備していないことでも分かるように、そういう配備は「核の傘」にとって不可欠のものではない。

 「核の傘」にせよ「核抑止力」にせよ、その本質的な要素は、そういうものではなくて、いざという時には核兵器を使用して壊滅させるぞという「威嚇」である。その威嚇によって、相手国の侵略を抑止するというのが、核の傘であり核抑止なのである(それに賛成するか反対するかは別にして)。

 そして、今回の核兵器禁止条約原案は、いろいろなものを禁止する画期的な内容ながら、その「威嚇」だけは禁止していないのである。3月の国連会議の際、スウェーデン代表などが、「威嚇は条約の禁止対象から外すべきだ」と発言したが、その通りになっているのだ。

 なぜそうなっているのかについては、「赤旗」以外の各紙が報道している通りである。「これを禁止事項に含めると、「核の傘」を安全保障の柱とする日本や北大西洋条約機構(NATO)の国々などが加盟交渉入りすることを難しくする恐れがあった」(朝日新聞)からなのだ。「威嚇」の定義が難しかったということもあるそうだ。

 この事実をどう評価するかは、条約の全体をどう評価するかにも関わってくる大事な問題である。核の傘や抑止力を容認するものなら評価してはならないという意見もあるだろう。反対に、核兵器の使用は禁止されているわけだから、それほど大きな問題ではないという立場もあるだろう。あるいは、アメリカの同盟国が参加する道を空けておくことが、条約の信頼性を高めることになるという立場からの賛成論もあるだろう。

 しかし、いずれにせよ、条約を評価する上で、この事実を抜かしてはいけない。ましてや、核の傘が禁止されているなどと、事実をゆがめてはならない。志位さんの声明でも、「核兵器の法的禁止の主要な側面を、包括的に規定」とされているように、禁止されているのは「主要な側面」であって、すべての側面ではないのである。

 「赤旗」しか見ない真面目な共産党員は、「核の傘」が禁止されたことを真実だと思い込むことになるだろう。核兵器廃絶を求める署名運動などのなかで、それを宣伝したりもするだろう。しかし、それに対して、「事実でない」という批判が周りから寄せられることになり、戸惑ってしまうだろう。

 事実をゆがめるやり方は、核兵器禁止条約を力にして、実際に核兵器の廃絶に向かっていく上で、決して有益なものにならない。明日には訂正が載ることを期待する。

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