96条改正は、せこい

2013年5月8日

 各種の世論調査を見ると、安倍さんの96条改正先行という考え方に対し、あまり賛成は多くなさそうだ。経済問題をはじめ絶好調に見えるし、改憲を望む世論も多いのに、なぜそうなるのだろうか。

 安倍さんが96条先行という考えに至ったのは、いろんな理由があるだろう。最初に9条を変えるというのでは反発も大きいだろうが、96条だと単なる手続きだし、賛成派を増やしやすいと感じたかもしれない。あるいは、国民の投票権を国会が侵しているという論理は、国民から支持されるだろうという思惑もあっただろう。そうやって改憲を経験すれば、国民は次第に改憲になれていって、大きな改憲へのハードルが低くなると感じただろうしね。

 ところが、そういう考え方は、安倍さんを支える層の考え方と距離があると感じる。どうなんだろうか。

 改憲を望む世論のなかには、現状への不満があらわれている。自分の暮らしの先行きへの展望がないことへの焦燥とか、尖閣問題で中国が挑発してくることへの怒りとかがあって、そういう現状を作り出しているものへの不満があるわけだ。そして、憲法というのは、日本の現状を作り出している最大の要因だという認識が醸成されているため、憲法を変えれば現状が変わるかもしれないという期待に結びついていく。

 つまり、9条が変われば日本が変わる、自分の暮らしも変わる、大きな変革が起きる。そういう期待が安倍さんを支えている。

 ところが安倍さんは、その期待に応えてくれない。日本の主権が侵されていることが大事なのに、9条には手をつけない。やろうとしているのは、手続きという技術的に見える問題だけだ。自分たちの願いはどうなるのだ。そういう感じではなかろうか。

 しかも、国会議員の3分の2を占めるって、国民投票で過半数を得るより、ずっと簡単なんだよね。だって、昨年末の総選挙だって、小選挙区で自民党は43%しか得票がなかったのに、79%もの議席を得たわけだ。おそらく衆参両院で過半数を占める程度なら、30%台の得票をすればいいのだろう。国民の3割の支持で憲法改正を発議するなんて、せこいったらありゃしない。

 改憲って、非常に大きなことだから、それを成し遂げようとすれば、モチベーションが欠かせない。たいしたことをやろうとしているんじゃないですよ、国民のみなさんの30%ほどの支持を得ればそれで満足なんですなんてことでは、改憲派も力が入らない。せこいやり方は、理念的な改憲派のもっとも嫌うところだろう。

 それが世論調査にあらわれているのだと感じる。安倍さん、何としても改憲を現実のものとするため、せっかく現実路線を歩んだつもりなのに、それが改憲をつまづかせることになるのかも。

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