「非核化を求めるなら交渉しない」にどう対応する?

2018年1月15日

 朝鮮半島の南北協議は、早くもこのテーマに直面することになった。文在寅大統領がどこかの演説で北朝鮮の非核化にふれたところ、そういうことを求めるならオリンピックに代表団を派遣しないことを、金正恩が示唆したということだ。予想通りの展開だね。

 北朝鮮は、核・ミサイルの「完成」を宣言することによって(実際は完成にはほど遠いのに)、強気の態度をとれることとなった。すでに完成したものを放棄させるのと、未完成のものを完成させないのとでは、天と地ほどの差がある。政治の世界では(国際政治ではそれ以上に)、既得権に類するもの(領土の実効支配なども含め)の力は抜群なのである。

 これに屈して、非核化を直接に外交交渉で求めなくなる場合も当然だが、どこか無関係な別の場所の演説などでも非核化への言及がタブーになるような状態を、北朝鮮は望んでいるわけである。その積み重ねによって核保有国として事実上認められることになるからだ。インド、パキスタン、イスラエルが核兵器を保有しているが、だからといってどの国も国交を断絶することを問題にしないし、別に非核化を求めもしないわけで、北朝鮮にとってはその再現にしかすぎない。

 これは他人事ではない。日本との関係においても、北朝鮮はどこかで、「非核化を求めるなら拉致問題には取り組まない」と宣言するかもしれない。

 全然別のことだとか、日朝平壌宣言はそれらの包括的な解決をうたっているとか、もちろん反論はいくらでもできる。けれども、現実問題として北朝鮮がそう主張するのに日本が非核化を求め、「それなら非核化要求を取り下げるまで拉致の再調査もしない」と宣言されたら、被害者や家族の苦痛を放置することになるわけだから、対応はそう簡単ではなかろう。

 どう考えればいいのだろうか。これは難しい問題だ。
 これまでは、米朝枠組み合意においても6か国協議においても、北朝鮮が非核化(核・ミサイル開発の放棄)を達成すべきことは、議論のそもそもの前提だったわけである。どういう条件のもとでならそれが現実のものになるか、その条件をめぐっての交渉だったのである。

 しかし、今後は、それを前提にすると、北朝鮮は協議の場を設定すること自体に抵抗し、協議そのものが開始されないということだ。前提の見直しが求められるかもしれない。

 可能性があるのは、入口と出口を区別することだろう。入り口で合意できるのは、せいぜい「朝鮮半島における核問題の最終的な解決」みたいなところにする。それが出口としては非核化を意味するという解釈を各国がするからといって、北朝鮮は批判はしても席を蹴らないという程度は担保しておかないと、日本の世論は持たないと思うけれども。その上で、実質協議で何を求め、何を譲歩できるのかが勝負になるのかな。

 いずれにせよ、対話と交渉でこの問題を解決するって、気の遠くなるようなことである。誰のものでもいいから、少しは説得力ある主張を聞きたいものだ。いまから東京。

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