第二章の書き出し

2018年8月29日

 本日も、弊社の9月決算を乗り切るため、ただただ馬車馬のように働いている。頭の中はマルクスだらけ。でも、マルクスで乗り切れるかもしれないって、出版界も捨てたモノではない。ということで、何か考える余裕はないので、『北朝鮮というジレンマ』の第2章「ジレンマの連鎖」の書き出し部分。

 「6・12」、シンガポールのセントーサ島にあるカペラ・ホテル。
 金正恩「二〇一七年七月七日に国連会議で核兵器禁止条約が採択された。わが国は、一六年一〇月の国連総会第一委員会で、この条約交渉を開始するという決議に採択した。アメリカの核兵器が禁止対象になれば、北朝鮮の安全にとっても大事だからだ。ところがアメリカは条約交渉に参加せず、条約にも反対した。これでは北朝鮮の安全は保証されない」
 ドナルド・トランプ「核兵器の抑止力はアメリカの安全にとって不可欠だ。それを損なうような条約にわが国が反対するのは当然だ」
 金「抑止力がアメリカにとって不可欠なら、北朝鮮にとっても不可欠だ。なぜ北朝鮮は貴国と同様、核兵器を保有することが許されないのか」
 トランプ「北朝鮮の核保有は周辺国を脅かしている。韓国も日本も脅威を感じている。アメリカの核兵器はあくまでアメリカと同盟国の防衛のためのものだ」
 金「北朝鮮の核兵器も自衛が目的だ」
 トランプ「バカを言うな。北朝鮮がこのまま核兵器を保有するならば、自衛どころか体制の崩壊につながるぞ。それはオレが保証してやる。核兵器をなくすことだけが北朝鮮が生き残る道だ」
 金「国によって核兵器が持てるかどうか違ってくるなんて、差別ではないか。どの国も平等だというのが国連憲章の理念だったはずだ」
 トランプ「お前、若いなあ。それはタテマエだろ、現実を見ろよ。仮にも一国を背負っているんだから」
 「6・12」の場でトランプと金正恩の間でどんなやりとりがあったのか、詳細は明らかにされていない。いま書いたようなやりとりはなかっただろうが、金正恩とトランプの本音はこんなものではなかったのだろうか。
 核兵器が自衛のために必要だと重いながら廃棄を約束するのもジレンマだが、自衛のために必要だと言い張るアメリカが廃棄せよと説得するのもジレンマである。それ以外に関係する中国、韓国、日本も核兵器禁止条約に反対した。会談の会場を提供したシンガポールだって、阿ASEANのなかで条約に棄権した唯一の国である。
 北朝鮮の「非核化」と「体制保障」という二つの目標それぞれの中に、実はジレンマが存在する。しかも、その二つの関係の中にも、なかなか超えられないジレンマが存在する。そうやってジレンマがも連鎖しているところに、この問題の複雑さがある。

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