2014年5月20日

 明日、このテーマで講演します。午後6時半から(6時開場)、場所は京都社会福祉会館(二条城北)、参加費は500円(資料代)です。以下、明日のレジメ。

一、解釈改憲のために日本防衛をもてあそぶ安倍首相
 1、アメリカ本土へ向かうミサイルの撃破をめぐって
 2、首相会見で出た日本人を乗せた米艦船防護をめぐって
 3、グレーゾーン事態をめぐって

二、侵略を自衛と描いて軍事行動を正当化する安倍首相
 1、「侵略か自衛かは国によって見方が違う」発言の意味
 2、侵略か自衛かが国によって異なる集団的自衛権の実例
 3、「安保法制懇」はそれを検証せず、同じ過ちをくり返すか

三、日米中の関係をどう構築するのか
 1、オバマ大統領の「支持」表明をどう見るか
 2、アメリカを尖閣防衛に巻き込むという見方について
 3、新時代の日米中関係はどうあるべきか

四、この闘いの対決構造を理解することがカギになる
 1、国民世論の現状と政治の現場の変化の意味をつかむ
 2、「特殊な軍事路線」VS「まじめな防衛+外交一筋」
 3、専守防衛という考え方への理解が必要となっている
 4、防衛政策という分野への踏み込みが求められている

2014年5月19日

 最終的に、こういうタイトルの本になりました。「安保法制懇」報告の全文(注記も含め)と安倍さんの記者会見も収録しています。昨日書き終わり、牛のように寝ていました。目次だけ紹介しておきます。A4判144頁(本文2色)、1400円+税です。よろしくお願いします。

はじめに
論点1 集団的自衛権という言葉は聞き慣れないが、そもそもどんな権利なのか
論点2 友だちが殴られていたら助けるのだから、武力攻撃された国を助けるのも当然か
論点3 これまでなぜ違憲とされてきたのか、それがどういう理由で合憲になるのか
論点4 なぜ日本政府は日本への武力攻撃に反撃する武力行使だけを合憲としてきたのか
論点5 戦争する国に対して財政支援を行うのも集団的自衛権の行使にあたるのか
論点6 「武力の行使」とは、いわゆる戦闘行為というものと同じだと言えるのか
論点7 「武力の行使」というと、後方支援は含まれないように思えるが、どうか
論点8 基地の提供も武力行使なら、日本はすでに集団的自衛権を行使しているのか
論点9 「報告書」に出てくる集団安全保障という考え方とは同じものなのか
論点10 日本は憲法九条があるため個別的自衛権さえ制約されているというのは本当か
論点11 「安保法制懇」には憲法に関する重大問題を提起する資格があるのか
論点12 保有していながら行使できない権利などあり得ないのではないか
論点13 内閣法制局の憲法解釈に対する批判がされているが、そもそもどんな機構なのか
論点14 憲法に関する解釈が変わることは当然あり得ると考えるべきではないか
論点15 文民条項のように政府自身が憲法解釈を変えた実績もあるが、どう考えるか
論点16 日本の平和と安全に関わる事態に限定するなら当然だと言えるか
論点17 「自衛」と言いながら「侵略」行為を行うなど、とうてい信じられないが
論点18 なぜ集団的自衛権は侵略や介入のために濫用されることになったのか
論点19 冷戦後は集団的自衛権の発動のあり方が大きく変化したと聞いたがどうなのか
論点20 砂川事件の最高裁判決で認められた必要最小限度の自衛権は適用できるか
論点21 公海上の米艦船が攻撃され、援護しないと次は日本が攻撃される場合はどうするか
論点22 どういう場合も米艦船を防衛するための武力行使ができると考えるべきか
論点23 アメリカ本土に向かうミサイルを自衛隊が撃ち落とすのは当然ではないか
論点24 グアムに飛んでいくミサイルなら、日本周辺を通過するので迎撃可能ではないか
論点25 なぜ自衛権で可能な米艦船防衛や技術的に不可能なミサイル迎撃を持ちだすのか
論点26 現行の周辺事態法では朝鮮半島有事の際、前線で米軍支援ができないから問題か
論点27 朝鮮半島有事の際、船舶の臨検を北朝鮮の領海でもやれるようにすべきか
論点28 朝鮮半島有事に韓国から避難する日本人を乗せた米艦船を守るために必要か
論点29 武装集団が離島を占拠し、不法に活動するなどのグレーゾーン事態をどう考えるか
論点30 領海内で潜行している潜水艦が退去命令に応じないときにどうすべきか
論点31 海外で日本人が人質にされたりする際、自衛隊が救出できるようにすべきか
論点32 中国の南シナ海における横暴もあり、フィリピンなどを助けるためにも必要か
論点33 日本の生命線である石油輸入のため、ペルシャ湾で敷設される機雷の除去をすべきか
論点34 サイバー攻撃に対して自衛権を発動するということがあり得るのか
論点35 国会の同意はじめ六つもの条件をクリアーしなければならないので問題ないか
論点36 憲法九条一項にある「国際紛争」を日本が当事者の紛争と解釈するのは妥当か
論点37 国連安保理決議にもとづく軍事活動に日本が関与しないのは不適切か
論点38 湾岸戦争型の多国籍軍のような場合は日本も協力すべきだと言えるか
論点39 PKOへの自衛隊派遣に際してよく問題になる「駆けつけ警護」をどう考えるか
論点40 国際紛争を解決するにあたって日本が果たすべき役割はどこにあるのか
論点41 海外で人を殺さないという原則を貫くためにはどんな仕事があるのか
論点42 国連憲章に明記された考え方であるし、世界が受け容れていると言えるのか
論点43 八六年の国際司法裁判所の判決は集団的自衛権を認めたものではないのか
論点44 日本の国際法学会において集団的自衛権はどう捉えられてきたのか
論点45 「安保法制懇」の佐瀬氏は日本の国際法学会を「奇異」だと批判しているが
論点46 核・ミサイル開発を進める北朝鮮に対抗するためにも集団的自衛権が必要か
論点47 アメリカは日本を守る義務があるが日本にはないという関係を変えるべきか
論点48 安保条約締結当時から大きく変化した日本周辺の戦略環境に合わせるべきか
論点49 アメリカを尖閣問題に巻き込むためにも米艦船防衛義務を打ち出すべきか
論点50 どんどん軍事的に強大化していく中国と対抗するためには必要なことは何か
おわりに 相手国の領土、領海、領空に自衛隊が行かなければ心配しないでいいか
資料1 「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」報告書
資料2 「安保法制懇」報告を受けた政府の「基本的方向性」に関する安倍首相の記者会見における冒頭発言

2014年5月16日

 いやあ、昨夜の安倍さんの会見(「改憲」と変換されてしまった)、見てましたか。すごく高揚してましたね。歴代総理ができなかったことをオレだけがやったんだ、そんな高揚感でしょうか。

 避難する日本人の命を助けられなくていいのか。そこに焦点をしぼったんですね。これ、読者の方はご存じでしょうけど、このブログ記事ですでに取り上げていますので、読んでなければご一読を。

 本日は、あまり言うことはないです。報告書の全文が発表されたので、週明けに印刷所に入れる原稿を全力で書き上げます。ほとんど予定通りでしたけど、新たに書き下ろししなければならないのもあるし、それに伴って、書いたもののうち削除すべきものを決めなければなりません。

 で、この本は、いわば批判です。安倍さんがやろうとしていることへの。自分で言うのもなんですが、報告書を読んで、安倍会見を見て、かみあったものが出せると思いました。

 しかし、もうひとつ大事なのは、安倍さんが進もうとしている方向への対案です。あのむちゃくちゃ無責任な路線でなく、日本人の命と、そしてアメリカ人の命のことだって、真剣に考え抜いた防衛戦略です。

 それを探究するのが、「自衛隊を活かす会」(正式名称は「自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会」)です。6月7日に発足し、まず自衛隊の国際貢献にあり方をめぐってシンポジウムを行います。

 そのホームページを公開しました。シンポジウムの結果などを収録し、どんどん充実させていく予定です。みなさん、賛同者の欄もありますので、是非、コメントなどをお寄せください。

 ホームページはここにあります。岡嶋さん、ありがとうございました。
 

2014年5月15日

 書いている本の紹介は今回で終わり。面白そうだと思ったら、買って読んでくださいね。書店に並ぶのは6月上旬になりますが、会社のホームページでは、5月29日から購入できると思います。

論点31 領海内で潜行している潜水艦が退去命令に応じないときにどうすべきか

 これも、いわゆるグレーゾーン事態として議論されていますが、日本の領海で日本の主権が侵されている事態であるので、個別的自衛権の問題です。いかなる意味でも集団的自衛権とは関係がありません。

 どの国のものか分からない潜水艦が突如として領海に浮上してきたり、領海内の深い海中にいることが判明すれば、誰もが不安になるのは当然です。退去命令に応じない潜水艦があるとしたら、許されることではありません。

 しかし、潜水艦というものは、少し考えてみれば分かることですが、「見つからない」ところに最大の役割、特質があります。隠密性を生かして行動することにより、敵の探知をかいくぐり、偵察行動を行ったり、機雷を敷設したり、攻撃したりするのです。見つかってしまったら、そういう特性を発揮することはできません。その時点で敗北なのです。
 
 「安保法制懇」が想定している退去命令に応じない事態というのは、まさに潜水艦が見つかっている事態です。もはや役に立たない潜水艦になりはてているのです。潜水艦が頻繁に探知されるとしたら、それだけの能力をもつ自衛隊の優秀さを誇ればいいでしょう。

 発見した潜水艦をどうするべきか。これには過去に事例があります。

 二〇〇四年一一月一〇日、中国の原子力潜水艦が石垣島東方の領海を通過したことがあります。日本政府は海上警備行動を発令し、海上自衛隊の護衛艦は、アクティブ・ソナー(大音波を出すソナー)を出しながら、上海沖まで二日間以上追尾しました。中国政府からは「技術的原因で謝って石垣水道に入った」という遺憾の意が表明されました。

 二〇一三年五月、中国海軍所属とみられる潜水艦が、沖縄県・南大東島の接続水域内で潜航していることを、海上自衛隊が三回にわたって探知しました。三回目の際、 海上自衛隊の哨戒機は、潜水艦を牽制するため、音響探知機(ソノブイ。ソナーとブイの合成造語)を海に投下して音波を潜水艦にあてたとされます。

 潜水艦を探知するには、その固有のスクリュー音を聴取し、艦の種類を特定します。そのため、スクリュー音をとらえる音響探知機(ソナー)を投下するわけです。普通、こちらから音波を出すことはしません。探知されていることが分かると、探知されないよう相手の工夫する余地を与えるし、日本側の能力水準を知られてしまうからです。

 これらの際、あえて音波を出したのは、「オマエがいることは分かっているよ」と警告し、牽制したわけです。そして実際、それで問題は解決しました。もし音波を出しても退去しないことがあるとすれば、相手側に深刻な故障、事故が発生している可能性もあり、慎重な対応が求められます。

(まとめ)潜水艦を探知した場合、音波を出して相手側にそれを知らせ、警告することができ、実際にそういうやり方で問題を解決した事例もあります。

2014年5月14日

 いよいよ明日ですね。「安保法制懇」の報告です。噂によると5万字を超えるのだとか。これを資料として掲載するのですが、どんなに小さくしても資料だけで50ページですよね。値段がはねあがりそうです。で、公明党との間では、まずグレーゾーン事態について協議するとか。ということで、いま書いている本の、その関連部分をご紹介。

論点30 武装集団が離島を占拠し、不法に活動するなどのグレーゾーン事態をどう考えるか

 グレーゾーンというと、個別的自衛権と集団的自衛権の間にあるかのように響きます。しかし、日本の島を武装集団が占拠するなどの事態は、他国に対する武力攻撃が発生したわけではなく、あくまで日本の主権を日本が守るというケースであり、いかなる意味でも集団的自衛権と結びつけるべきものではないことを、まず指摘しておかなければなりません。

 尖閣をめぐる現状からして、いろいろな事態が想定されます。武装集団が島を占拠するというのも可能性がゼロではないでしょう。でも心配することはありません。

 第一に、海上保安庁では対処できないという事態は、およそ非現実的です。もちろん、海上保安庁が実力を行使しないのをいいことに、居座り続けるくらいのことはあるでしょう。しかし、尖閣諸島では島内で食料や水を確保することはできず、外からの補給なしに暮らしは成り立ちません。海上保安庁が島を取り囲んでいれば、占拠する人数が多ければ多いほど、長期間にわたって居座り続けることは不可能なのです。日本政府が頭を使うべきは、退去せざるを得なくなった外国人をどう扱うか、外交交渉の方になります。

 第二に、こういう場合に自衛隊を使うことは、愚策中の愚策だということです。目の前で主権が侵害されるのを見れば、「早くなんとかしろ。強い自衛隊を送れ」という感情が生まれるかもしれません。しかし、日本の側が自衛隊を送れば、相手の側にも軍隊を派遣する口実を与えることになります。その際、相手からは、「日本が先に自衛隊を送ったのだ、こちらはやむを得ない措置だ」という宣伝がされることになるでしょう。

 戦争に発展しかねない紛争問題がある場合、何よりも大事なのは、それを平和的に解決する努力です。尖閣問題ではどのような解決策があるかについては別の著作(『これならわかる日本の領土紛争』大月書店)で論じたので、ここではのべません。

 同時に、それがエスカレートする際に大切なのは、日本側が先に手を出さないということです。言葉は悪いですが、先に相手に出させることです。相手を侵略の側に、日本を自衛の側に、という構図をつくることです。

 現在、尖閣諸島をめぐって挑発をくり返す中国に対し、話し合いをしないという日本側の姿勢は重大問題ですが、現場での対処を海上保安庁レベルにとどめていることは大事です。そのことが、現状を力で変更しようとしているのは中国だという、かなり広い国際的な認識を生んでいます。日本が先に自衛隊を派遣してしまえば、武力を使おうとしているのは日本だということになり、国際社会の支持を得ることはできなくなるでしょう。

(まとめ)補給のきかない離島の占拠は、海上保安庁がしっかりとしれいれば、長期間は不可能です。日本が先に自衛隊を出せば、国際社会の支持が得られなくなります。