デマ映えの民主主義

ネット社会をどう生き抜くか

著 者

蜷川 真夫

ISBN

978-4-7803-1212-6 C0036

判 型

四六判

ページ数

256頁

発行年月日

2022年04月

価 格

定価(本体価格1,800円+税)

ジャンル

政治・社会・労働

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ネットメディアの「解体新書」。現場からの喝!
この20年で急速に広がったネットによる「情報革命」は、デマ情報の拡散と利用者の視野狭窄を招き、社会の分断を深めている。その現状をネットメディアの内部から報告し、私たちが知恵を深め、民主主義を維持する道筋を探る。
デジタルファシズムに警鐘を鳴らす:堤未果氏(国際ジャーナリスト)推薦・寄稿

プロローグ―ネットの進化は人間社会を分断したのか
1章 ネット情報の信頼が揺らいでいる
2章 新聞業界よ、座して死を待つな
3章 スマホに押される出版業の活路
4章 ネット型ニュースの落とし穴
5章 ネットで大衆化した「デマ」
6章 美術品は情報コンテンツである
7章 増幅する「有名」の経済価値
8章 フィルターバブルが現実となった
9章 再びメディアが役割を担うとき
寄稿 「見えない利益」が民主主義を支える 堤未果
エピローグ ―個人の情報発信力を生かすために

暗闇に広がる閃光、上空を飛び去る爆撃機、逃げ惑う市民ー。衝撃的なロシアのウクライナ侵略では、戦火の街並みや市民の悲惨な姿がSNSで発信され、世界中に広がっています。SNSのユーザー数は40億人を突破して世界人口の半数を超えており、ネット空間は今、情報戦の最前線となっています。
 
しかし、そこには「フェイクニュース」というワナが隠されています。たとえばロシアが侵攻を決めた時、ツイッターに1本の動画が投稿されました。暗闇にまばゆい光が走って建物が浮かび上がった瞬間、大きな爆発音が鳴り響くー。動画説明には、ウクライナの都市名「マリウポリ」とありました。数日後、この映像は雷が発電所に落ちた瞬間として以前にロシア語で流されたものと判明し、削除されます。しかし、それまでに600万回も再生されていました。
 
本書『デマ映えの民主主義ーネット社会をどう生き抜くか』は、こうした分断とフェイクを招くネットメディアの危うい実態を身近な話題から説き起こし、利用者が心得えたいことは何か、民主主義に欠かせない公正な言論空間をいかに取り戻すのかを探ります。
著者は、朝日新聞の社会部記者、海外特派員、アエラ編集長、系列テレビ局のコメンテーターなどを歴任し、ネットメディアの草創期にウェブサイト「J-CASTニュース」を立ち上げた蜷川真夫氏。新聞、雑誌、テレビという凋落しつつある既存メディアでの経験をもとに、ネットメディアの現場で日々遭遇するデマや不確かな情報がいかに多いか、丹念に報告します。
ノーベル賞の本庶教授名で流れたコロナ偽情報、ジャーナリスト伊藤詩織さんへの中傷コメント拡散、学術会議の任命拒否問題をめぐる新聞とネットの扱いの差——。こうした玉石混交のネット情報が公正な判断を妨げる現実を前に、著者が痛感するのは「フィルター・バブル」の落とし穴です。
 
「フィルター・バブル」とは、グーグルやフェイスブックなどのプラットフォーマーがアルゴリズムにより、流す情報にフィルターをかけ、各利用者が望みそうな事柄や主張に沿って情報を提供することを意味します。著者は、私たちが「フィルターに囲まれた世界」に閉じ込められてしまい、「意外なもの」に触れて自己の視野を広める機会を失っているだけでなく、利用者自身の姿勢にも危うさがあるとして、こう指摘します。
 
「自分の都合の良い情報を集めるのに手間がかからなくなった。(中略)利用者はフィルターで分類された情報から、さらに好きな情報だけを簡単に探すことができる。幅広く、偏りなく情報を取得して活用することが難しくなっている」
 
 つまり、利用者自身がフィルターになっていないか、という問いかけです。では、どうすれば公正な情報環境を取り戻せるのか。著者は、今のネットニュースのような「ばら売り」情報でなく、新聞やテレビニュースのような「パッケージ型」情報が偏りやデマの堰となり、信頼できる情報を増幅させるのではないかとし、あるべきメディアの姿を提言します。
 
 本書には、『デジタル・ファシズム』の著者、堤未果氏が寄稿しています。堤氏は、アメリカのメディアの現状や新たな模索を紹介したうえで、メディアは「公益性」という目に見えない利益の大切さにいまこそ気付くべきだ、と訴えます。
 
ウクライナでは、取材中のジャーナリストの死亡が相次いでいます。激しい情報戦のなか、何が事実なのかを現場から伝えるジャーナリズムの重要性は増すばかりです。本書は、ネットによるコミュニケーション革命のただ中で、メディアのあり方、私たちの生き方をあらためて考え直すための豊富な材料を提供してくれます。

蜷川 真夫
ウェブサイト「J-CASTニュース」発行人。朝日新聞社で社会部記者、ニューデリー特派員、AERA編集長などを歴任し、株式会社ジェイ・キャストを設立。同社代表取締役会長。