地図で読み解く奈良

奈良女子大学文学部〈まほろば〉叢書

編著者

浅田 晴久

ISBN

978-4-7803-1213-3 C0025

判 型

A5判

ページ数

162頁

発行年月日

2022年03月

価 格

定価(本体価格1,700円+税)

ジャンル

奈良女子大学文学部〈まほろば〉叢書

まだ知らない古都を歩こう
7人の地理学者が、地図・地形図をもとに奈良の市街地や門前町、山あいの里を訪ね、実は奥行きの深い風景と生活の歴史を再発見し、時の移ろいを追います。同時に、地理学の魅力をわかりやすく伝える内容になっています。

はじめに
第1章 大和高原――巨石と茶畑の景観
第2章 奈良盆地――水環境をめぐる問題
第3章 奈良――都市化と周辺的都市施設の立地
第4章 大和郡山――都市空間の歴史
第5章 生駒・天理・三輪――門前町の歴史地理
第6章 奈良市街――「地理総合」のモデル巡検
第7章 十津川――「母子の村」の130年
あとがき

飛鳥に古代国家が誕生して以来、奈良は豊かな歴史に彩られてきました。石舞台や法隆寺、東大寺など全国ブランドに事欠きませんが、本書には、ガイドブックに必須の観光地は登場しません。取り上げられるのは、若草山の彼方の山あいの里や、災害で移住を迫られた村、かつて遊廓や花街の喧騒に包まれた門前町、近世城下町ー。地図、地形図をもとに、古都の知られざる物語をひもときます。
ナビゲーターは、7人の地理学者です。地理学といってもその領域は広く、7人の専門も、地誌学から地形学、都市地理学、社会地理学、歴史地理学、時間地理学など多岐にわたります。日頃から研究や実習で奈良県内を訪ね、景観を観察したり、そこに住む人々の話を聞いたりした経験を活かし、これまでの本で語られることのなかった事実や視点を披露します。
 第1章は大和高原に注目します。数年前から、柳生地区の天乃石立(あまのいわたて)神社にある「一刀石」が人気アニメ『鬼滅の刃』に登場する舞台にそっくりとされ、多くの若者らが訪れています。しかし、そこからひもとかれるのは、なぜ一刀石のような巨石信仰が大和高原に点在するのか、という点で、話は地球規模の大陸プレート移動や活断層の存在に及びます。
 第3章は都市部の奈良市が舞台ですが、焦点を当てるのは奈良監獄、伝染病院、競馬場、清掃工場など。これらの施設は、「うちの裏庭には来ないで」(Not In My Back Yard)を略してNIMBY(ニンビー)といわれる近隣住民から忌避される施設です。その設置から移転、閉鎖の歴史から、都市に刻まれた人の営みをたどります。
 また、第5章では三つの門前町が登場します。演歌「女町エレジー」の舞台となった生駒・宝山寺の周辺は戦前、100軒を超える料理屋と200人近い芸者を抱える大歓楽街だったこと、新宗教の天理教教会本部のある天理には800メートルに及ぶアーケードがあるが、ストイックな街で居酒屋がほとんどないこと、日本最古の神社とされる大神(おおみわ)神社門前は、素麺や米などの集散地だったため、露天市で農機具も売られていたことー。百年前と最近の地図を比較することで、それぞれの門前町の栄枯盛衰が浮かび上がります。
このほか、近世に城下町として栄えた大和郡山市や、「明治の大水害」で北海道に移住した十津川村の人々がつくった新十津川村なども登場し、読み進めば、奥行きある風景と暮らしの移ろい、土地に刻まれた「物語」が立ち上がってきます。
太古の地質構造の変化から、つい数十年前の社会構造の変化までを読み解く本書は、あまり知られていない奈良を「ブラタモリ」のように歩くガイドブックとして活用できます。また、今春から高校で「地理総合」が必修科目となります。これから地理を学ぶ高校生や教壇で教える教師にとっても役立つ一冊となっています。

投稿者:女性 20歳代 主婦
評価:☆☆☆☆☆
奈良出身で、現在群馬県に住んでいる奈良女子大学卒業生です。
近所の図書館の新刊コーナーでこの本と偶然出会いました。「地図で読み解く奈良」とはまた、群馬とは縁もゆかりもなさそうな本を、この田舎の図書館では珍しいなあ、と思いながら手に取ると、なんと自分が大学時代に習った先生の名前ばかりが著者に並んでいて驚きでした。
内容も地理とはいえ多面的な角度から奈良を丸裸にしており、各々のテーマも非常におもしろかったです(地理の先生でも色んな研究テーマがあるなと改めて)。
もし、私が大学1回生の時にこの本に出会っていれば、今はもっと違う方向に進んでいたかもしれないなあと思うぐらい、良かったです。なので、奈良女の1回生には読んで欲しいし、奈良に興味のある方はぜひとも、と言える一冊ではないでしょうか。
浅田先生がこの本の前書きでも「地理学の観点から奈良の情報がまとまって発信される機会は必ずしも多くはなかった」と仰るように、もっとそういう観点からみた奈良の本を出版してほしいなと思いました。
特に、第5章の生駒新地の話や第7章の十津川村と新十津川村の話はなかなか目に付かない点(私も大学生になるまで生駒新地のことはまったく知りませんでした)、そういった所にも目を向けているのもグッときました。ただ、やっぱり現地奈良に出向いてこの本を片手に奈良を巡るのが一番分かりやすいのだろうか、先生方の説明もぜひ聞いてみたいと思える内容でした。本を読むだけでは分からないこともたくさんあるのが、地理学の醍醐味だなと感じます。
次回の「地理学」的な奈良の本もぜひ期待しています!

浅田 晴久
奈良女子大学研究院人文科学系・准教授。専門は地理学、南アジア地域研究。

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奈良新聞[22年3月23日]に紹介