中谷クンの面影
著 者 | 中野 慶 |
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ISBN | 978-4-7803-1385-7 C0093 |
判 型 | 四六判 |
ページ数 | 168頁 |
発行年月日 | 2025年07月 |
価 格 | 定価(本体価格1,700円+税) |
ジャンル |
“かゆみ”を通じて被爆体験の継承を問いかける異色の小説
私は66歳。孫の世話に明け暮れているある日、幼なじみの中谷クンがボリビアに移住したというニュースが飛び込んできた。中谷クンは、2000年に自著を贈ってくれていた。24年たってから初めて読んでみたが、もしや幻の名作かも。「かゆみ」に着目して、被爆者と子どもたちの出会いを描くというアプローチは、なかなか新鮮だった。私は初めて被爆者の人生を意識できたのかもしれない。
六六歳の揺らめき
ボリビアに移住した幼なじみ
二四年前に贈られた児童書
少年のかゆみ、被爆者の歳月
岡崎先生の着眼点
謎のファイルを受け継ぐ
ある被爆者との出会い
ノーベル平和賞授賞式の夜
続々と読者からの反響
〇長年、「若い世代に被爆体験を継承」とのフレーズに接してきたけど、熟年世代への継承と共有も大事なんですね。無自覚だったこの視点に、本書は切り込んでいました。幼なじみからのプレゼントが、24年後に意味を持ってくる。大学で文学を学んだ主人公が、同級生の作品を鋭く読み解いてみせる。現実には起きにくい展開だけど、ちょっといい話だと思いました。
〇この本の新鮮さは、「核」と「反核」に通じている人なら理解できる。被爆者を描いた本は無数にあるけど、皮膚感覚にこだわった本は少ない。新鮮なストーリーだった。まさか、ノーベル平和賞授賞式で終わるとは !
〇被爆直後の写真を見た時の衝撃は、忘れられない。だが、これまで被爆者の感じたかゆみについて、一度も意識したことはなかった。なぜ「かゆみ」なんだよと読む前には違和感が強かったけど、読み終わって著者の深いまなざしを感じとれた。なるほど、被爆証言で「かゆみ」は語られない理由が分かった。自らは被爆者をどう見つめてきたのか。そして被爆者の歳月に思いをはせることになった。
中野 慶(なかのけい)
本名・大塚茂樹。1957年東京都武蔵野市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。岩波書店で編集者を務め、2014年早期退職。学生時代から被爆者への関心を持ち始める。アトピーの少年と被爆者が出会う児童読み物『やんばる君』(童心社、2000年)が第一作。その他の小説に『軍馬と楕円球』『小説 岩波書店取材日記』(かもがわ出版)がある。
本名ではノンフィクションを執筆。『まどうてくれ―藤居平一・被爆者と生きる』(旬報社)、『原爆にも部落差別にも負けなかった人びと―広島・小さな町の戦後史』(かもがわ出版)は、被爆者に関わる作品。若い世代のための入門書『日本被団協に出会う』(仮題、旬報社)も今夏刊行される。