2017年2月9日
本日、10万字程度の原稿を直し、整理する仕事をしている。こういう仕事を短時間でする場合、新しいことは考えられないんだよね。だからブログ記事の材料も出てこない。ということで、最近のニュースで思ったことを簡単に。
憲法改正をめぐって、自民党のなかには、改正項目を絞り込む動きがある。緊急事態条項と維新が求める教育無償化の二つとなり、しかも前者は、政府の権限を強化する方向でなく、国会議員の任期を延長できるようにするということらしい。
これを批判するのは容易い。参議院があるのだから緊急集会で立法化が可能だとか、教育の無償化は財源があれば憲法規定は関係ないとか。
だけど、じゃあ、そのために憲法を絶対に変えてはダメというまでの論理は、成り立ちにくい。「そんなことに力を入れるより、政治がやるべきことは別にあるだろう」とか、「改憲のハードルを下げるのは、とにかく1回やって改憲の実績をつくり、9条改憲に結びつけるためだ」とか、そんな程度だ。
だから、これでやってこられると、対抗する側は分裂することになる。議員の任期延長について、民進党の細野さんも「この程度なら」と言ったと報道されている。4野党は「安倍政権のもとでの改憲に反対」で一致しているはずなのに。
護憲派だって、これにどういう態度をとるかでは、賛否が分かれるだろう。その結果、九条が問題になるとき、団結が崩れているかもしれない。
護憲派は、堂々と九条を先に持ってこいと、安倍さんに求めたほうがいいのではないか。なるべく先延ばしにして、できれば国民投票なんかしないことを望むのが、護憲派の多数かもしれないけど、先延ばしにしていいことはないんじゃないだろうか。
9条の会だって、どこへ行っても、結成のときから高齢者が多かったのに、そのまま10年が経って、多くは同じ人がやっている。「この闘いがいつまで続くんだろうか」という不安の声を聞くことも多い。今のほうがエネルギーがあるんじゃないかな。
さらに言えば、トランプさんが登場して、日本の安全をどうするかが国民に問われている。「九条を変えてこのトランプさんについていくのか」は、攻めの材料になるんではないだろうか。
2017年2月8日
日米首脳会談が近づいてきて、安倍さんは、トランプさんと仲良くするため、いろいろ苦労しているようだ。実際にはアメリカのために仕方なく投資するわけだが(損を覚悟で)、それだと「朝貢外交」という批判を受けるから、「日米成長プログラム」と名前をつけて、日本のためであるかのように装うという。
これって、これまでと同じ手法だ。思いやり予算を出すのも、米軍が日本のために駐留してくれているから、という論理だった。イラク戦争を支持し、自衛隊を派遣したのも、実際はアメリカを助けるというだけのことだったのに、北朝鮮が日本を攻撃してきたときにアメリカに助けてもらうために不可欠なのだ、と小泉さんは説明した。
それを日本の世論は容認したのだから、今回も大丈夫だというのが、安倍さんの判断なのだろう。だけど、そこに深い陥穽が横たわっているように見える。
安倍さんは第2次内閣を組織して以降、かなり変わった。「戦後レジームの転換」などという超右翼的な主張を抑制し、「左」にもウィングを伸ばしてきたのだ。戦後70年談話で「侵略」「植民地支配」「お詫び」「反省」のキーワードを入れたことにも、それは象徴的にあらわれている。昨年末の日韓慰安婦合意も同じだ。
支持率が高止まりしているのも、それが背景にあると思う。左まで支持しはじめているのだ。改憲一直線のため、安倍さんは自分を抑制して、戦略的に動いている。
そこを見過ごして、とにかく「安倍は極右」という思いこみのまま、「反安倍」のスローガンを先行させているから、支持率の高さを崩せないできた。その運動の側は、なかなか変わりそうもない。
しかし、トランプさんとの親密さを売りにしようとすることで、安倍さんはみずから墓穴を掘りそうだ。だって、助ける相手方であるアメリカが、これまでと異質なのである。安倍さんがトランプさんに媚びを売って、にこにこ顔で横に並んで写真を撮る度に、安倍さんがトランプさんと重なって見えてくるようになる。せっかく左まで味方につけたのに、これだと政治的立場を超えて、安倍さんのことが生理的に嫌いになるかもしれない。
アメリカが日本を防衛するのかという、日米安保の本質的な部分も、これから問われてくるだろう。「尖閣が安保5条の適用対象だ」なんて口でいろいろ言っても、トランプさんのツイッター一言で、がらりと局面が変わるのだ。貢いでも貢いでも、一瞬で裏切られるのだ。
これまでは従属が安心を生んだのだが、トランプ時代は逆に不安を生むわけである。安倍さん、そんなトランプさんと心中するんですか。よしたほうが、安倍さんのためにはいいと思うんですが。
2017年2月7日
2月3日付の朝日新聞で、「日ロ首脳会談の舞台裏」と題して、国際協力銀行副総裁の前田匡史氏へのインタビューが掲載された。正直に語っていて、まさに「舞台裏」が分かるのだが、あまりに正直すぎて、戦略の欠落を不安に思った。以下のやりとり(抜粋)が、今回の「舞台裏」を象徴している。
――しかし、日本が一番欲しかった領土問題での進展はほとんどありませんでした。
「(北方)4島の名前は全部入りましたよ。これは普通なら入れられなかったと思います」
――それは北方四島で「共同経済活動」を進める、という文脈です。それで良いのですか?
「そうです。(日ロの経済協力で)ロシア側にだけ利点があるものは一つもありません。日本にも利点があるものばかりですから」
――もっと取りたかったのではないですか?
「そんなことはないです。領土問題は、そんなに簡単に行くはずがないと思っていました。(事前に)期待を上げすぎていた面はありますが、少なくとも、良い方向に向かったのは間違いない」
――経済協力は北方領土返還に向けた単なる取引材料なのではないですか?
「それは誤りです。確かに、日ロの経済協力が北方領土問題を解決するための環境作りにもなるという側面はある。ただ、日ロ経済関係の強化は、日本の経済外交戦略としても理にかなっています」
「今回の経済協力はロシアを一方的に支援するのではなく、日本も便益を受けられるからです。ロシア極東や北極圏でのエネルギー開発が代表例です。ロシアが強く願う開発が進むのと同時に、日本はそのエネルギーの供給を受けられるようになる。特にLNGについては日本は世界の4割を消費しているのに価格決定力がない。ロシアから供給を受けられるようになれば、日本の交渉力が増す。ただ、日本とロシアが同じ戦略的意図で交渉を始めたのではないことを押さえておく必要があります」
「安倍首相は当時は、より踏み込んだ経済協力は平和条約の後だとお考えになっていたと思います。私に対して『前後関係から言うと、平和条約をやった後じゃないか』とおっしゃった。安倍首相は昨年5月にソチでの首脳会談で、(プーチン氏の本当の意図についての)感触をつかんだのだと思います。日ロの経済協力の重要性に気づかれた。そこから現在の経済協力に至る具体化の作業が始まったのです」
要するに、経済先行である。安倍首相が「前後関係から言うと、(経済は)平和条約をやった後じゃないか」という考え方を転換したのが、年末の日ロ首脳会談のポイントだったということである。
だけど、この言い方だと、経済的な利益のためには主権を少しはないがしろにしてもいいんだ、みたいに見えないか。それだと、主権に固執してきた四島派からも全千島派からも、総スカンを食うことになるだろう。
首脳会談の際の記事で書いたように、領土交渉を動かすには、何らかの大義が必要である。これまでだったら、「領土不拡大」の原則に反したスターリンの横暴を正すということだったろう。それも大義名分にはなる。
しかし、安倍さんがやろうとしているのは、北方四島をロシアと日本の双方の主権が適用される地域にしようということだろう。それを共同経済活動の推進を通じて達成しようということだろう(たぶん)。そこには、じゃあロシア人なり日本人なりが犯罪を犯したとして、どちらの裁判管轄権がおよぶのかというような、前人未踏の難しい問題が横たわっている。
けれども、大義はある。戦後70年以上争っていた日本とロシアが、その争いに終止符を打つだけでなく、共同で主権を行使する地域ができるということだ。世界史上かつてない到達を切り開ける可能性があるということだ。
そこを脇において、LNGをめぐる価格決定で交渉力を増すなんてことに止めていたら、誰も支持しないだろう。安倍さん、大丈夫か?
2017年2月6日
一昨日、兵庫県の西脇九条の会に招かれ、「日本会議」についてお話ししてきました(2.11の「建国記念日」は福井県の集いでお話しします)。せっかく西脇まで来たので、お化粧直し後はじめて姫路城を見学するため、夜は姫路泊まり。
で、その夜、姫路在住のトモダチが、私が来るならと飲み会を開いてくれたんです。参加したのは変わった人ばかりで、例えば一人は共産党を除名され、再入党を求めているが拒否され続けていて、それでも「赤旗」は配り続けているという方でした。いや、いろんな人がいるよね。
それと、西脇に向かう途上、共産党員のトモダチから「昨日、共産党を除籍になりました。お祝いをしてほしい」とのメールがあり、姫路でやるならできるよと返信したら、姫路城見学後のお昼に、なんと合計で8名も集まりました。
いやあ、何と言ったらいいのか、濃い2日間でした。変わった2日間(こんな日ばかりを続けていると思われないようにしなきゃ)でもありました。
そのトモダチは、除籍されるにあたって、共産党とかなり議論したそうで、いろんなことを明かしてくれました。もう党員ではないから、外にしゃべっても規約違反にならないということで。
例えば、特定の問題で共産党と異なる意見を持っていたとしても、それを留保して行動するのということが規約に定められています。では、ちゃんと統一した行動をとっているとして(選挙の支持拡大などで共産党の政策はこうですと、自分の見解とは違っていてもちゃんと説明するなど)、留保した見解をどこかで個人の見解として明らかにするのはどうなのか。民主集中性に反していて処分の対象になるというのが、除籍を通告してきた共産党地区委員会の見解だそうです。
いやあ、ホントかなあ。そんなことになると、中国研究者の学者の党員が自分の見解を学会誌で公表するのも(共産党の中国論と少しでも異なっていたら)、処分の対象になるよね。しかも、共産党の中国論もどんどん変わっているわけだから、それにあわせて変えていかないとダメだということになってしまいます。事実上、学問研究の自由はなくなるし、学者であることとは両立できないですよね。
それに、そういうことになると、共産党員は全員が、共産党中央委員会が言っていることを、いつもどこでもオウム返しに言っている人、でなければならないことになります。内心の自由しか認めないということです。そんな組織に魅力を感じる人がいるんでしょうか。
私は、先日「存在する多様性を紙面で見せるのが大切」というタイトルで書いたように、多様性が見えているが行動は統一されていることが大事だと思います。多様性が見えることと民主集中制は相容れると思っているんです。これは、その問題を本格的に、学問的にも研究する本を出さなければなりませんね。
それにしても、そのトモダチはばく大な党費を払っていて、配達もたくさんしていて、所属する支部でも「除籍しないで」と要望していたというんですよ。難しい問題ですね。
2017年2月3日
「サンデー毎日」の日米安保問題の根源的見直しを探る連載、次回(7日発売)は、共産党の志位さんと自由党の小沢さんの対談だそうです。対談後の雑談では私の名前も出たとか(反応までは聞いていませんが)。それにしても、柳澤協二さんから始まり(昨年12月14日号)、寺島実郎さんを経て、石破さん、鳩山さん、そして私、さらに志位さん、小沢さんとつながる顔ぶれを現時点で見てみると、安倍政権の安全保障政策に替わる選択肢をどう提示していくのか、どんな枠組みが求められるのかについて、倉重篤郎さんの戦略があらわれていて興味深いですね。石破さんを仲間に入れるための出版も考えなくちゃいけません。ということで、私の連載は最後です。
前々回、野党共闘政権として新安保法制以前の自民党の防衛政策を丸呑みし、安全保障政策では新安保法制の廃止か継続かだけを選挙の争点にする選択肢を提示した。というか、そうすれば自民党としても野党の政策を批判しにくいので、格差とかを焦点にして選挙を闘えるという考え方だ。防衛政策を豊かにする作業は、政権獲得後に後回しするということだ。
一方、かつての自民党の政策の丸呑みではあまりに寂しいだろうし、日米安保には手をつけないのだが、安倍政権の政策に替わるそれなりに魅力的な防衛政策をつくるという選択肢もある。政権獲得後ではなく、いまその作業をするということだ。
民進党はそういう問題意識をもっているようで、すでに「自衛隊を活かす会」としても意見交換をしたし、今後も関係を持っていこうとしている。トランプ政権下で安全保障問題は激動することが予想されるし、「かつての政策に逆戻り」というのでは国民の気持ち的に受け入れにくいかもしれないよね。「こうするんだ」という積極的なものが求められる。
で、民進党がそういう道を進んでいくとして、共産党はどうするんだろう。「自衛隊を活かす会」にでも接触し、協力していこうというなら、民進党が進もうとしている道との接点が生まれて、防衛政策での野党合意の可能性も広がるかもしれない。
そうではなくて、これまでと同じように、防衛政策をつくるのに安全保障問題の専門家の意見を聞かず、憲法論の専門家だけでつくるようなら、なかなか共通政策での合意は難しいと思う。合意したとしても、抽象的なものにとどまるのではないか。
安全保障問題でのガラス細工のような合意は、中国なんかが少し挑発的な動きをしただけで、容易に崩壊する。民主党政権で閣僚を出した社民党が、普天間基地問題で閣外協力に転じ、野党に下って、結局、民主党政権も終末を迎え、社民党も凋落したのはつい数年前のことだ。
強力な野党共闘政権ができるかどうかは、共産党の決断にかかっていると言っても過言ではない。どうでしょう。