2014年9月26日

 いつも政治的な焦点となる沖縄県知事選挙。私としては、それにあわせて本を出すことを、どの選挙の場合も願っている。

 前回は伊波さんと仲井真さんの対決だった。伊波さんが候補者になりそうだということをいち早くキャッチし、まだ公にできない段階だったので、お互い、そのことにふれないまま本づくりを開始した。

 そして、選挙の2カ月前、9月に本を出した。『普天間基地はあなたの隣にある。だから一緒になくしたい』である。帯文は、「沖縄が変われば日本が変わる。日本が変わればアメリカも変わる』。

 沖縄といえども、安保反対勢力を結集するだけで、選挙には勝てない。だから、つい半年前まで内閣官房副長官補として自民党の首相に仕えていた柳澤協二さんにお願いし、『抑止力を問う』を出させてもらった。

 自分でも本を書いた。『幻想の抑止力 沖縄に海兵隊はいらない』

 この3つの本を沖縄の本屋に並べるため、自分で営業を買って出て、数日間かけて40くらいの書店を回ったりもした。選挙には負けたけど、いい思い出。

 今年の沖縄県知事選挙は、その構図がさらに前に進んでいる。つい最近まで自民党にいた人を、安保反対勢力がかつぐのだからね。

 選挙に勝てば、ただ「辺野古移設反対」という一点共闘ではすまない。県政を運営するのだから、政策共闘が必要になる。安保や自衛隊についてどんな政策をかかげるのか、それが問われていくだろう。

 今回、候補者の本を出すことは、あきらめざるを得なかった。だけど、ちゃんと出します。

 林博史先生の『暴力と差別としての米軍基地』です。サブタイトルは「植民地と沖縄──基地形成史の共通性」。

 なぜ沖縄だけに基地が押しつけられるのか。本土と何が異なるのか。その根本的な背景に、沖縄が植民地的な位置に置かれていることがあるのではないか。

 そういう問題意識で、プエルトリコやマーシャル諸島、ディエゴガルシアなど植民地における基地建設の過程を跡づけたものです。その上で、占領初期の沖縄における基地建設を検証し、両者の共通性を論じたものです。

 10月20日頃には書店にならべたいと思います。とくに沖縄の書店にはたくさん並べます。

チラシ植民地沖縄基地

2014年9月25日

 報道されているように、シリア領内の「イスラム国」爆撃について、アメリカは国連憲章51条の「自衛権」であると主張している。個別的、集団的の両方ということだろう。

 日本政府は、これを支持するというのではなく、「理解」を表明するにとどめている。これは国際法上、自衛権を持ち出すのには無理があるという判断だと思われる。当然だよね。

 自衛権ということになると、いずれにせよ、どこかの国がイスラム国により「武力攻撃」を受けていることが条件になる。いうまでもなく憲章51条は、「国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、……個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない」というものだからね。アメリカは、シリアが個別的自衛権で反撃し、アメリカなどが集団的自衛権で援助していると言いたいのだろう。

 だけど、そもそも論になるけど、シリアはイスラム国から武力攻撃を受けていると言えるのか。まあ、国土のかなりの部分を奪われているわけだから、まったくそう言えないとまではいえないだろう。

 だけど、そういうことになると、どこかに独裁政権があるとして、国民のなかに解放闘争が広がって、国土の一部に支配権を及ぼすという場合はどうなのだという問題が生じる。いわゆる内戦状態だ。

 そういう場合も、通常は、内政不干渉が原則である。内戦が広がって、他国にまで武力紛争の余波が広がるようになれば別の考え方もできるだろうけど、基本は内政不干渉。

 だって、こんなことを許していたら、内戦が起こったときに、好き勝手に他国が「集団的自衛権で助けに行く」と宣言し、内戦に介入することができるようになる。実際、戦後の集団的自衛権はそういうものとして使われてきた。

 そういう歴史があるから、1986年、国際司法裁判所は、集団的自衛権を発動する場合には、あらかじめ武力攻撃を受けた国が「自分が攻撃された」ことを宣言し、他国に援助要請を表明するという条件を課したわけである。ところが今回、シリアがそういう表明をしたわけではない。

 まあ、抗議もしていないから、政権維持のためには容認するということだろう。実際、今回はイスラム国が主体だから、純粋に「国民の解放闘争」とは言えないしね。

 だけど、解放闘争の抑圧という要素は、今後、大問題になってくるだろう。今回、中東諸国のいくつかがアメリカといっしょに攻撃に加わっているが、それも自分の国で解放闘争が起きてくることを心配しているからである。そのたびにアメリカは、自衛権だと称して空爆していくのだろうか。

 対テロ戦争が問題になり、タリバン政権が打倒されて以降、戦争するたびにテロリストは強大化し、活動範囲を広げてきた。アフガニスタン国内では国土の7割ほどを実効支配におき、隣のパキスタンではアルカイダと結んで凶悪化したパキスタンタリバンが勢力をつよめ、それがイスラム国としてシリアやイラクに影響を及ぼしているわけである。

 オバマさんのやり方は、テロ勢力を強大化させてきたこれまでの教訓から何も引き出していない。数年後、中東と世界はどうなっているのだろう。

2014年9月24日

 昨日は京都まつり。だいぶ前、この場で集団的自衛権に関するクイズを出して、全問正解者には『集団的自衛権の焦点 「限定容認」をめぐる50の論点』の本をプレゼントすると予告しました。

 で、ここで紹介したクイズが難しいという意見があったので、かなり易しくしたんです。だけど全問正解者は出ませんでした。一番正解の多かった方にはプレゼントしました。

 やはり思い込みがあるんですかね。たとえば第2問、正解は後者なんです。でも、ほとんどの方は、日米安保条約には集団的自衛権という言葉がないと思っておられるんですね。これも無理のないことです。だって、日本が行使できないとずっとされてきた権利のことが、日本が締結した条約に書かれているって、想像できないですからね。

 第3問目も正解が少なかったです。正解はソ連なんですけど、悪いことをするのはアメリカだという、これも思い込みでしょうか。
 ということで、昨日のクイズを。1つだけ正解がない問いがあります。

1、集団的自衛権という言葉が初めて登場した条約はどれか?
 国際連盟規約、国連憲章
2、集団的自衛権という言葉が使われていない条約はどれか?
 日米安保条約(1960年)、ソ連中国友好同盟相互援助条約(1950年)
3、世界で最初に集団的自衛権を発動した国はどれか?
 アメリカ、ソ連、
4、最も直近で集団的自衛権が発動された戦争はどれか?
 アフガン戦争(2001年)、イラク戦争(2003年)
5、閣議決定の後の記者会見で、日本は参加しないと安倍首相がのべた戦争は?
 アフガン戦争(2001年)、イラク戦争(2003年)
6、現在、政府が「日本には撃ち落とす能力がある」と認めている弾道ミサイルは?
 グアムに向かうもの、日本に落ちてくるもの
7、米艦船が攻撃されたとする以下の事件の内、本当に攻撃されたのはどれ?
 トンキン湾事件(1964年)、コール号事件(2000年)
8、朝鮮半島有事に避難する日本人を輸送する手段として決まっているのは?
 米艦船、政府専用機(ボーイング747)
9、以下のアメリカの戦争の内、日本政府が批判的見解を表明したものは
 ベトナム戦争、グレナダ侵略(83年)
10、侵略を定義した国際条約はどれか?
 国連憲章(1945年)、国際刑事裁判所規程(1998年)

2014年9月22日

 北朝鮮側からの調査報告が遅れるという。被害者家族からすると「残念だ」「信じられない」ということになるだろう。

 だが私は別の印象をもった。北朝鮮の内部で、はげしい闘争が起こっていて、その結果かもしれない。

 この調査って、はっきりいって、「調査」とはほど遠いものだ。自分で拉致したわけだから、どこでどうしているのか、どういう状態に置かれているのか、どうなっているのか、調査せずとも北朝鮮側は分かっている。

 それなのになぜ調査が必要という体裁をとるかのか。そこには、セレモニーという形式的なものにはとどまらない意味がある。日本側にそれなりに満足できる結果を示そうとすると、拉致を実行してきた特殊機関の責任に踏み込まないとダメなので、それなりに内部の調整が必要だからだ。

 おそらく現在、現在の段階で特殊機関が容認できる「調査結果」があるのだろう。しかし、それを提示しても日本側の納得を得られないと、日本と交渉にあたる外務省関係者が判断したのだろうと思う。だから延期されたわけだ。

 これまでの北朝鮮は、きわめてずさんな調査結果を出してきて、「これで終わり」という対応だった。特殊機関が「これ」と言えば、それを出すしかなかったわけだ。そして、重ねて「解決済み」を主張するというものだった。

 けれども今回、延期されたということは、その特殊機関が容認する枠内のものではダメだという潮流が、北朝鮮の側に生まれていることの結果だろうと思う。調整不能な状態になっているのではないか。

 これが「対立」とまで言えるのかどうかは不明である。しかし、納得いく結果が出るためには、北朝鮮内部での闘争と対立は避けることができない。私としては、この行方が日本側の満足する方向に向かうよう、心から願うばかりだ。

 そのためにも、拉致問題の解決は日本側の一致した世論なのだということを、北朝鮮側に示していかねばならない。さらには核・ミサイルの問題を解決することと一体に、国交正常化と日朝平壌宣言の履行があるということを、繰り返し強調していかねばならない。

 特殊機関が国家のなかで特別に優位な権限をもっているって、ふつうの国では考えられない。拉致問題での日本国民の運動は、そういう北朝鮮の異常な体制をただし、北朝鮮国民の利益にもつながるという性格を有するといえるかもしれない。

2014年9月19日

 スコットランドの行方が気になるけど、午後から会議なので、ブログ記事は別テーマで。昨日の続き。

 日本は、当初は植民地支配される対象であった。不平等条約を押しつけられたりして、植民地になるのを余儀なくされようとした。

 だけど、幕末から明治にかけて、みんながんばったんだね。植民地にされないためには欧米のような国家にならないとダメだと自覚し、いろんな努力をしたわけだ。不平等条約といっても、その交渉過程での江戸幕府の人の発言などを読むと、すごく論理的でがんばっていたんだなと思う。さらに明治維新をへて、欧米に使節団を送っていろいろ吸収もして、いわゆる「富国強兵」の道を歩んでいく。

 日露戦争では、欧米のつくった戦時国際法を守ることが、欧米型の国家になりつつあることを知らせるために必要だった。だから、イギリスなどの武官を招いて戦艦に乗せたりもしたり、捕虜を人道的に扱って模範のような評価を受けたりもした。

 この歴史にはさまざまな見方、評価はあるだろう。だけど、アジアのなかで植民地とされなかったことには誇るべきことであって、私はそういう意味で日本の近現代史は全体として肯定的に見なければならないと思う。

 問題は、このなかで、植民地支配をする側に回ってしまったことだ。というか、当時は植民地を支配するのが近代国家の証のようなところがあったわけで、ロシアと争って朝鮮半島を支配することによって、日本は欧米の仲間入りを果たしたとも言えよう。こうして、朝鮮半島を日本が植民地としたことは、欧米から承認されるわけである。

 ところが、日本に支配された朝鮮・韓国は、欧米からは近代国家とみなされていなかったとはいえ、つい数年前までは、日本と同水準の国家だったのだ。何千年もの間、戦争もしたけれど友好関係もあって、同等のつきあいがあったのである。その日本から支配されたことは、朝鮮半島の人々を特別に傷つけたに違いない。

 よく、日本は朝鮮半島を支配したのではなく、同じ日本人として扱ったのだという人がいる。これって、この連載のどこかで書いたように、たとえば慰安婦問題でも日本人と同じに扱わず、成人前の少女まで慰安婦にしたことに見られるように、事実とは異なるものだ。

 同時に、同じ水準の国に支配されることの意味は、もっと深く考えるべきものだ。たとえば第二次大戦でドイツはフランスを侵略し、占領したし、傀儡政権をつくったりもしたけど、植民地にはしなかった。もし日本が朝鮮半島でやったように、フランス人にドイツ語を使わせたり、ドイツ風の名前をつけさせたり、学校でドイツ語しか使わせなかったりしたら、いったいどうなるだろうか。日本の朝鮮半島植民地支配というのは、だから、普通の植民地支配とは異なるのである。

 慰安婦問題って、韓国以外でもいろいろ問題になってきたけれど、他の国の問題は、もう国と国との間の外交問題にはならなくなっている。そのなかで韓国だけが問題を引きずるのは、日本が植民地支配したことが背景にあるのだと思う。それ抜きに韓国の慰安婦問題を論じることはできない。