核の大分岐

既存秩序の溶解か 新規秩序の形成か

著 者

太田 昌克

ISBN

978-4-7803-1159-4 C0031

判 型

四六判

ページ数

192頁

発行年月日

2021年06月

価 格

定価(本体価格1,500円+税)

ジャンル

政治・社会・労働

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共同通信大型連載の書籍化
核問題の権威が、核兵器の増強か不拡散か禁止かで揺れ動く核政策の現場を取材し、様々な判断を下してきた当事者への綿密なインタビューを交え、核の岐路に立つ世界をリアルに描く。
 
お詫びと訂正
本書48ページの最後の行から49ページの1行目の「某社らが潜む」までは前段と重複しており削除します。
お詫びして訂正します。

1章 腐食するNPT
2章 核の火薬庫
3章 日本とNPT
4章 アメリカとイラン
5章 日米核同盟
6章 検証・米朝交渉
7章 中国の核
コラム 被爆者の告発
8章 未知なるリスク

「分岐」どころか「大分岐」の核問題
分岐とか分岐点という言葉はよく使われます。今度出版される本では、それをさらに越える「大分岐」という用語を使いました。太田昌克さんの『核の大分岐─既存秩序の溶解か 新規秩序の形成か』です。
核兵器が世界に最初に登場し、アメリカにより広島・長崎に原爆が投下された1945年から76年間、人類は核問題の分岐点に何度も立ってきました。ソ連による核開発の成功、水爆の登場とビキニ被爆、それをきっかけとした原水爆禁止運動の開始、核不拡散条約(NPT)に始まる核保有国が核を独占する体制の開始、NPT内部での反核世論の高まりと核保有国による「廃絶の約束」とその約束の反故、オバマ米大統領の核なき世界への表明とその挫折。人類は、核の増強を企む核保有国と、核廃絶をめぐる人々の対決を軸にして、常に分岐点に立ってきたと思います。そして現在、私たちは、まさに「大分岐」とも言えるような状況にいるのではないでしょうか。
現在、世界に存在する核兵器は1万3440発。1位のロシアと2位のアメリカで1万2000発を越えますが、両国は核兵器の近代化をどんどん進めています。両国の中距離核を全廃する条約は失効してしまいました。3位の中国は260発ですが、今後10年間で倍増させると見られています。北朝鮮、インド、パキスタンなども核開発と増強に進んでいます。
一方、現在の世界の特徴は、NPT体制の限界を感じ取った国々の主導で、核兵器禁止条約が締結されたことです。アメリカにおいても、かつての国務長官や国防長官などの中に、核廃絶を主張する人々があらわれています。
まさに「大分岐」。著者の太田さんは、核問題の著作をいくつも上梓しており、この分野の権威として知られています。その太田さんが、大分岐を生みだした国際政治の現場を取材したのが本書です。NPT挫折の現場、インド・パキスタン核対立の現場、米朝交渉の現場、イラン核危機の現場、日米核同盟の現場その他です。
その現場で核政策の決定を担ってきた当事者に取材しているのが本書の豊かな内容を生みだしています。米朝交渉の経緯を語るのはジョン・ボルトン元米大統領補佐官、核廃絶の希望を語るのはジョージ・シュルツ元米国務長官、NPT挫折の理由を語るのはタウス・フェルキNPT会議議長といった具合です。昨年一年を通して、共同通信の大型連載として配信された記事がベースになっています。
太田さんを駆り立てているのは、本書にも描かれていますが、共同通信に入社し、最初に配属された広島で知り合った被爆者の方々との交流です。その熱い思いで、国際政治の現場を冷徹な手法で取材し、大分岐に立つ世界が描き出されています。本書を読むことで、核廃絶への強い意思と、そのための道筋への理論的な確信を得ることができるでしょう。

トランプ大統領のもと、世界の核をめぐる秩序は激しく乱れました。そしてそれはバイデン氏が大統領になった現在もおさまることなく、より大きくなっています。
北朝鮮やイランの核問題を前に核拡散防止条約(NPT)体制は綻び、米中を筆頭とした大国同士の不和やAI・ドローンなどの新技術の台頭がそこに複雑に絡み、世界の核兵器使用のリスクは高まっています。そんな中でも核兵器禁止条約を無視し、核の傘に身をゆだねる日本…。
世界は、今まさに核兵器の大分岐時代を迎えています。 
本書では、世界の核兵器事情を俯瞰し、おおきな分岐となる要因を分析、NPT体制の綻び/インドとパキスタンの核危機/北朝鮮の核問題/イランの核開発/中国の核の現状/核同盟化する日米同盟、という6つのテーマでそれに迫ります。
核兵器をめぐる現状をただ分析するだけではありません。インド・パキスタン・中国の各大使や米国務長官、米大統領補佐官、NPT会議再検討会議議長、国連事務次長といった重要事件の中心にいたキーマンを探り当て、取材と検証を重ね、事実を確かにするとともに、当事者の肉声から生々しい現場を浮き彫りにしています。 
本書は、2020年から1年をかけて配信された共同通信の大型連載を加筆、整理して1冊にまとめたものです。それゆえこれだけの人物への取材も可能になりました。 
著者は、核問題の権威で著者も多数刊行し、報道ステーションにも出演されている太田昌克氏。 
現在の核問題を総合的に知ることができるだけでなく、スリリングなドキュメンタリーとしても読むことができる1冊です。

太田 昌克
早稲田大学政治経済学部卒、新政策研究大学院大学で博士号。共同通信社に入社し、広島支局を皮切りに外信部、政治部、ワシントン特派員などを歴任。現在は同社編集委員・論説委員、早稲田大・長崎大客員教授。

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