2017年5月18日

 ファンの方には申し訳ない。「機動戦士ガンダム」というのは聞いたことはあったが(アニメを見たことは一度もない)、その中心にあった安彦良和さんというお名前は、一度も聞いたことがなかった。いや、安彦さんに限らず、そもそも漫画家、アニメーターの名前はほとんど知らないので他意はない。マンガを読んでいたのは小学校までなので、知っているのは、手塚治虫とかに連なる世代の人だけだ。

 サブカルと言われたこの世界に、日本の優秀な頭脳が集まっていて、表現手段としてなくてはならないものであることは、編集者としては自覚しているつもりである。硬派の本ばかりつくっているが、その分野でマンガを取り入れる新しい世界を切りひらきたいという思いもある。

 でも、おそらくそれは自分にはできない。だから、新しい頭脳を近く獲得することによって、そこに挑もうとしているわけだ。

 と、前置きが長くなったが、知り合いの編集者に勧められて、安彦良和と斉藤光政の『原点 THE ORIGIN──戦争を描く、人間を描く』(岩波書店)を読んだ。私とは表現する手段が異なるだけで、同じようなことを考えている人がいるんだなあというのが、率直な感想である。

 この本、東奥日報の記者である斉藤さんが、弘前大学全共闘(準備会)の中心メンバーだった安彦とその周辺に取材したもので構成され、それに安彦自身の覚書が挟み込まれるというかたちになっている。斉藤さんのことは米軍三沢基地の難しい本でしか知らなかったけれど(だから難しい文章を書く人だという印象しかなかったけれど)、本当に生き生きと描写されていて、この世界が大好きなんだなあということが伝わってくる。いい仕事ができて良かったですね。

 「同じようなことを考えている」というのは、安彦さんの政治的、思想的な考え方というだけではない。学生運動の出発点も似通っていて、最初から笑ってしまった。

 もちろん、安彦さんは全共闘で、私はいわゆる共産党系全学連の委員長だから、対極にあったわけだ。だけど安彦さん、全共闘のアジ演説が嫌いで、普通の語り方をして学生に伝えようとしたと書いている。ヘルメットもかぶらなかったそうだ。

 私も(8歳ばかり年下だが)、学生運動特有のアジ演説はなじめなかった。人前でしゃべること自体にはすぐに慣れてきて、何時間でもメモなしに話せるようになったが、煽って人を興奮させるのはいやだった(できなかった)。10数年前、国政選挙に立候補して人前でしゃべっているとき、「松竹さんの演説は、目の前にいる人に語りかけているみたいで、いいこともあるけれど、熱狂するような話し方をしてほしいときもある」と言われたのが印象に残っている。

 そういうこともあり、安彦さんの体験が共感できたので、この本にもスッと入っていけたわけだ。(続)