2017年4月28日

 安倍さんとプーチンさんが会談して、北方領土問題でも動きがあった。何回も書いているように、この動きが実を結ぶには、安倍さんがいう「新しいアプローチ」の意味を明らかにし、両国民が納得する必要がある。北方領土を、どちらの国だけが主権と施政権を持つようなものではない、歴史的に新しい場所にすることの意味だ。四島返還論で凝り固まった世論に安倍さんが挑むだけの覚悟が見えないので、前途は険しいなと感じるこの頃である。

 ところで、領土問題の解決の仕方って、いろいろあるわけだが、こんなやり方もあるのかと最近知った。『戦争する国にしないための中立国入門』(平凡社新書)に書いてあった。

 オーランド諸島という場所。バルト海にある大小無数の島々ということだ。

 住民の96%はスウェーデン人で、誰が見てもスウェーデンの「固有の領土」である。ところが1809年、ロシアが圧力をかけて獲得し、ロシアの軍事基地が置かれる。クリミア戦争の中で基地は破壊され、戦争にもロシアは敗北して、島の非武装化を約束する。そして1917年、ロシア革命を機に独立したフィンランドが自国領だと宣言して、それならもともと俺のものなんだと主張するスウェーデンとの争いになっていくわけである。

 「正義」を基準にすると、スウェーデンのものだよね。でも、いろいろ経過はあったが、国際連盟の仲介で次のような合意ができあがる。領有権はフィンランドが持つ。しかし、スウェーデン人が大半なわけだから、高度な自治が保障される。そして、ここを非武装・中立化する条約が、周辺の10か国が参加して結ばれるのだ。

 その結果、フィンランドは自国領でありながら、ここに基地を置けない。軍隊の駐留もできないし、武器・弾薬類を搬入することはもちろん、通過させることもできない。戦争が起きても、ここは戦争の局外に置かれるということも決まっている(中立地帯なのだから当然だが)。

 いや、いろんな知恵があるんだね。北方領土の問題では、日本に返還されたら日米安保の適用対象になるなんてことばかり政府は言ってきて、それがロシア側を硬化させたという要素もある。経済面でどうするかというだけのアプローチでは、どこかで躓くと思うのだけれど、どうなんでしょ。
 

2017年4月27日

 「東北で良かった」も「本人の自己責任」も、今村氏の口がちょっと滑ったというものではなく、本音なのだろう。そして、政治家としての常識があれば絶対に言ってはならない(本音ではそう思っていても)言葉が口から出て来るのは、日常的にそういう会話が周辺でされているからとしか思えない(「人殺し」発言もそうだったと思うが)。

 その周辺というのは、今村氏の近しい自民党議員だろうし、復興庁幹部でもあるのではないか。賠償を支払う度ごとに、あるいは区域外避難者への援助を支出する度ごとに、「あまりにも多額だよね」というようなことが周辺で話題となり、「いやいや、東京だったらもっと大変だったよ」とか「4月で住宅援助が打ち切られてひと安心だ」とか、そんな会話が飛び交っているような気がしてならない。

 そういう気がするのは、「東北で良かった」にしても、安倍首相が問題にしたあとで、ようやく撤回することになったからだ。これって、周辺では諫める人がいなかったということであろう。議員にせよ官僚にせよだ。

 しかし、これは同時に、本人も周辺の人たちも、自分たちのそういう本音が安倍首相の本音に合致していると思っていて、確信犯としてやっていることだと思う。だって、賠償打ち切りも住宅援助打ち切りも、安倍政権の公式方針なのだ。だから、自分の発言は、建前としてそういう言い方をしてはならないというだけで、本音では安倍さんの考え方に沿っていると考えている。それで気安く出てくるというわけだ。小泉さん以来、そして橋下さんもそうだが、本音を出したほうが政治家として成功するみたいになっているしね。

 まあそれでも、安倍さんが素早く動いたのは評価する。けれど、任命責任を野党が追及するならば、本音のところでは今村さんと変わらないんでしょ、だから任命したんでしょと追及してほしい。違うのは、政治家として言ってはならない本音がオモテに出ただけであって、安倍さんはうまく隠しているよねと追及してほしい。

 ところで、新しい復興大臣の吉野さん。福島で被災しているし、川内原発をめぐっては3.11の月命日の日の再稼働(8.11)だったので不快感を示したし、その他、いろいろ復興庁にも注文をつけているらしく、庁内では「うるさ型」で通っているそうだ。がんばってほしいと思っていたら、庁内の就任挨拶で次のように発言したと報道されていた(本日の朝日新聞)。

 「(吉野氏は)会見に先立って同庁幹部を前にこう宣言した。「私は『一時間前の吉野』とは違う。政府の一員だ」

 いやあ、いまの政府、国家の幹部というのは全員が、自分の心情がどうあれ、安倍首相の意向を忖度し、一糸乱れぬ団結でやっていこうということになっているんだね。絶対権力者が何を言わなくても、その意向にそった権力の行使を、みんなでやるようになっているんだね。それに対置する新しい国家像の提示が求められると思います。

2017年4月26日

 共産党との共闘路線を進んでいることを理由に、民進党を離党した長島さん。ネットで流れるインタビューなどを見ると、かなりズレていると思います。

 長島さんの認識では、民進党は共産党に引きずられて左翼化しているということになっています。それが長島さんの保守思想と合わなくなっているとか。長島さんは、民進党が左翼化した根拠として、TPP反対や共謀罪反対などをあげておられるわけですが、大事なことを見落としていますよね。

 それは何かというと、左翼化しているかどうかの最大の指標は安全保障問題だと思いますが、そこがどうなのかを何も語っていないことです。この問題では、共産党が安保と自衛隊についての共産党の立場を持ち込まないという表明があったから、野党共闘が実現しているということです。

 安全保障問題で野党で一致しているのは戦争法の廃止のみ。普天間基地の辺野古への移設という重大問題さえ一致していません。つまり、野党が政権をとったとしても、変わるのは戦争法がなくなるというだけなんです。それはつまり、2年前までの自民党の政策に復帰するということです。

 これって、バリバリの保守政党の政策ではありませんか。左翼化の対極にあるものです。

 民進党の問題は、共産党のこの対応によって、保守の枠内でやっていくことを保障されながら、豊かなものを何も示せていないことだと思います。安保と自衛隊の維持を前提にして、しかし安全保障とは何かということをトコトン突き詰め、安保と自衛隊をどう使いこなすのかということを提示できていないのです。これって本当は、長島さんがやるべきことだったのに、何も生み出せなかったわけです。

 他の問題も同じです。森友問題でも、民進党議員の質問を見ていると、確かに長島さんが指摘するような問題を感じることがあります。週刊誌の報道を根拠にして追及するような感じがある。本当は、森友問題にあらわれた安倍政治の本質的な問題は何かを解き明かし、民進党は、右傾化思想を持つ絶対権力者を官僚や政治家がただただ支える政治のあり方を転換し、「こんな政治のあり方、国家のあり方を示すのだ」と言わなければならないのに、そういうことができていません。

 でも、それって、共産党の責任ではないし、野党共闘路線が生み出したものでもありません。いまの民進党が抱えている問題そのものです。目の前の政局にだけ縛られて、国のあり方をどうするかということを考える人がいないのです。

 そしてそういう民進党の現状は、長島さんにも責任の一端があるでしょう。それを共産党の責任にしてはいけません。

 私は、もし野党共闘が政権を獲得するほどに成功するためには、民進党は保守的な要素を維持していなければならないと思っています。多様性が大事なんです。民進党が共産党と同じような政策になったら、左翼的な人には魅力的だと映るでしょうし、野党共闘もやりやすくなるのかもしれません。しかし、それって、小手先ではうまくいくけれど、有権者の離反は招くという結果を生み出すことになるでしょう。有権者はそんな共闘に何の魅力も感じないでしょう。

 だから、長島さんには民進党にいてほしかったんです。他の保守派の人々には、民進党内でがんばってほしいと思います。

2017年4月25日

 なお最後に、中国が果たすべき役割について触れておく。日本やアメリカは、中国に役割を果たさせるため何をすべきかという問題も含めてだ。

 北朝鮮の核・ミサイル開発を止めさせる上で、中国の役割が大きいと言われる。いくら国連が経済制裁を決めても、北朝鮮の輸出入の相手国がほとんど中国だけという現状では、中国が本気にならなければ効果は薄いものになるのは事実だろう。

 ただ、中国に本格的に経済制裁をやれというためには、中国が被る損失を誰がかぶるのかという問題を避けては通れない。日本やアメリカは、自分でそこをかぶる覚悟があるのかということだ。

 中国は現在、本来は受け入れるべき政治難民にあたる脱北者さえ、捕まえては北朝鮮に戻しており、国際社会から批判を受けている。経済制裁が効いてくることになると、経済的に困窮した大量の難民が中国に逃れでてくるのは目に見えている。その対策を中国任せにするという態度では、中国を本気にさせることはできない。日本やアメリカは、そこまで考え抜いて、経済制裁の実施を提唱すべきだろう。自分たちも費用を分担したり、難民を受け入れるのかということだ。

 同時に、中国を本気にさせようとしたら、現在のような先制攻撃路線は百害あって一利なしだ。中国は、制裁が北朝鮮の体制崩壊につながることを心配していると言われるが、何が一番の心配事かといえば、在韓米軍の緩衝地帯がなくなることである。朝鮮半島が統一されれば、米軍の駐留を受け入れる国家が目の前に立ち現れることなのだ。軍事的な選択肢で北朝鮮が崩壊するようなことになれば、それを遂行した軍隊がそのまま占領し、継続して駐留するようになるであろうことは、容易に推測できることである。

 これを逆の角度から見ると、中国を本気にさせることができるとすれば、経済制裁の結果として北朝鮮が崩壊するようなことがあっても、その際は韓国から米軍が撤退すると分かった時だけだろう。アメリカにその気はあるのだろうか。中国を本気にさせるというが、問われているのは、アメリカの本気度のように思える。
(了)

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 全体は、いつもの産経新聞デジタルiRONNAでした。「北朝鮮有事の「最悪シナリオ」に日本が取るべき選択肢は一つしかない」というタイトルで載っています。

2017年4月24日

 こちら側の武力行使が、先制攻撃されたときの自衛に限られるとなれば、その最初のミサイルが着弾することを前提としており、日本が被害を受けることになるではないかという批判が寄せられよう。しかし、それ以外の手段は創造できないほどの大規模な厄災を招くのであって、自衛に限るやり方こそが被害を最小化する考え方である。

 例えば、北朝鮮のミサイル基地を一挙に叩けばいいのだと、威勢のいいことを言う人もいる。けれども、テレビに映るミサイルの発射場面やアメリカの軍事衛星の写真を見ると、基地がどこにあるか分かっているような錯覚におちいるが、発射台がどこにあるのかすべて分かっているわけではない。例え分かったとしても、移動式の場合は、予想を超えたところから発射されることになる。しかも、すべての基地をを一挙に完全に叩くことができなければ、残りのミサイルが日本と韓国に(アメリカではなく)飛んでくることになるのである。

 北朝鮮は、ノドン200発とスカッドER100発、計300発程度のミサイルを保有していると考えられている。最初の一撃で半分を破壊したとしても、なお150発のミサイルが残るのだ。北朝鮮がその報復として、化学兵器を搭載したミサイルを東京に向けてきたらどうするのかという想定抜きに、敵基地の先制攻撃論を語ってはならない。一方、自衛の場合に限って対応する場合は、発射した場所が特定されるのであって、破壊できる確実性もはるかに増すことになる。

 いや、敵基地を攻撃するというのは、あくまで威嚇であって、抑止するためだという人もいるだろう。確かに、怖いから手を出さないでおこうと北朝鮮が認識すれば、暴発はしないかもしれない。しかしこの間、北朝鮮はそういうことにお構いなく、核・ミサイル開発を加速させてきたではないか。抑止力というのは、結局、相手の意思をくじこうとするものだから、くじけない相手には効かないのである。

 結論は明白だ。軍事と外交の適切な結合しかない。北朝鮮が先制攻撃するなら、こちらは自衛の範囲で対応することを明確にし、その意図を北朝鮮に伝える。同時に、北朝鮮が核・ミサイル開発を放棄するなら、体制を転覆するようなことはしないという立場で、あらゆる外交努力を強める。簡単なことではないが、現状での「最適解」はそこにしか存在しないのではなかろうか。(続)