2014年8月25日

 いろいろな政治的対立を乗り越え、1965年に日韓基本条約を締結した日本側の首相は、佐藤栄作であった。よく知られているように、佐藤は、岸信介の実弟である。

 その佐藤は、岸と歴史観も似ている。「八紘一宇」について、「本当の考えはそういう帝国主義的なものじゃなく世界一家とか人類愛のしそうにつながる崇高な考え方」だと表明している。

 さらに日本側の外相は、椎名悦三郎であった。岸の長年の盟友である。「日本が明治以来、このように強大な西欧帝国主義の牙から、アジアを守り、日本の独立を維持するため、台湾を経営し、朝鮮を合邦し、満州に5族共和の夢を託したことが、日本帝国主義だというのなら、それは栄光の帝国主義」というような人物であった。

 交渉を直接担当する主席代表は、三菱電機相談役の高杉晋一。その高杉は、外務省記者クラブで、次のような発言をしている。

 「日本は朝鮮を支配したというが、わが国はいいことをしようとした。山には木が一本もないということだが、これは朝鮮が日本から離れてしまったからだ。もう20年日本とつきあっていたらこんなことにはならなかっただろう」「日本は朝鮮に工場や家屋、山林などをみなおいてきた。創氏改名もよかった。朝鮮人をどうかし、日本人と同じく扱うためにとられた措置であって、搾取とか圧迫とかいうものではない」

 日韓会談の妥結を左右する3人の歴史観はこういうものだった。しかし、たとえばその佐藤は、最初の所信表明演説で、日韓会談の早期妥結が当面第一の課題であると表明した。

 椎名は、いま引用した考え方について国会で問われ、「私の考え方は多少修正されております」「あくまで民族感情を尊重するという立場に修正されつつあります」とのべている。また、これもよく知られたことだが、はじめて外相として韓国を訪問し、相当あいまいさはあったものの、「両国間の永い歴史のなかに、不幸な期間があったことは、まことに遺憾な次第でありまして、深く反省するものであります」とあいさつした。

 もちろん、思想が変わらないままニュアンスを変えるわけだから、不徹底なものにならざるをえない。しかし、たとえばこの椎名発言が、韓国側の反日感情を相当緩和したことも事実である。

 現在、慰安婦問題がいろいろ議論されているが、「解決させる」といくら大きな声でいっても、その解決策が出てくるとして、それを実行するのは安倍首相である。安倍首相を倒してまったく新しい歴史認識をもつ政権をつくり、慰安婦問題を解決する展望はないだろう。民主党政権でも、自民党政権と本質的に変わらなかったのだから。

 でも、前回の記事、今回の記事で指摘した事実が示すことは、安倍首相のような歴史認識であっても、それを変えなくても、別の動機で慰安婦問題において何らかのことはできるということだろう。それはどんなものだろうかということを、慰安婦問題の解決をめざす人は考えなければならないと思う。