2014年9月30日

 アメリカがシリアに対する空爆を始めた時、「オバマさん、「自衛権」は無理がある」という記事を書いた。国連憲章51条の個別的及び集団的自衛権の発動だとして、アメリカが国連に書簡を送ったという報道にもとづき書いたものだ。

 昨日、ようやくその書簡の原文を入手した。アメリカのパワー国連大使の書簡(2014年9月23日付)で、潘基文事務総長に送られた後、安全保障理事会のメンバー15ヵ国に回覧されたというものである。それを見て、前回の記事で想定していたのとは違う説明がされていたので、本日、あらためて論じる。

 私は前回の記事で、シリアがイスラム国から武力攻撃を受けているので、アメリカが集団的自衛権を行使して助けるのかと思っていた。それなら、攻撃された国(今回はシリア)からの援助要請が不可欠だというのが国際司法裁判所の判断(1986年)だから、シリアからの要請がない段階では無理があるというのが、記事の趣旨だったわけだ。

 ところが、その前提が違っていた。書簡によると、シリア領内にいるISIS(イスラム国)がイラクに対する武力攻撃をしていて、だから「国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、……個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない」とする国連憲章51条が発動されるという説明だ。明示的にのべられているわけではないが、文脈からすると、攻撃されているイラクがアメリカに対して集団的自衛権の発動を要請したということになるのだろう。

 だけど、シリア領内にいるテロ集団から攻撃を受けているからといって、主権国家であるシリア領を攻撃することができるのだろうか。それが法的に可能なのだろうか。そこのところを、この書簡は、次のように説明している。

 「今回のケースのように、脅威が存在する国の政府が(注:シリア政府のこと)、こうした攻撃を効果的に防ぐ意思も能力もないときは、国家は、国連憲章第51条に規定された個別的および集団的自衛の固有の権利によって、自国を防衛することができる。シリア政府は、こうした領域からの攻撃を効果的に防ぐ意思も能力もないことを示している。したがって合衆国は、イラクに対するISISの脅威を除去するために、シリア領内における必要な軍事行動をとることにした。」

 これって、イスラエルがPLO過激派の基地のあったレバノンを空爆する際、過去に何回も使った論理と同じだ。過激派がレバノンを拠点としてイスラエルを攻撃していて、本当はレバノン政府がそれを阻止しなければならないのに、そういう意思も能力もないので、イスラエルが自衛権を行使するのだということを、何回も表明してきた。

 現在、ガザ地区を攻撃するときも、同じような考え方でやっているのだろう。その結果、罪もない民衆が巻き添えになり、お互いの憎悪が悪循環し、泥沼に陥っていく。

 シリアに対する空爆も、結局は、憎悪と戦争の悪循環を中東全域に、そしてさらに広い地域に広げていくことになるのではないか。すでに民間人の犠牲も報道されている。アメリカの攻撃を利用したシリア政府による反政府勢力への攻勢も伝えられる。暗澹たる気持ちになる。

2014年9月29日

 まず、以下の文章を読んでいただけるだろうか。もう17年も前のものだけど、誰が書いたか当ててほしい。慰安婦のことを「同性」と言っているから、女性だということはすぐわかるのだが。

 「戦地で、多数の兵たちを相手に性をひさがざるを得なかった女性たちの心は、如何ばかりであったろうか。どのような事情で行ったにしても、たとえ、自覚して行ったとしてもそれは耐え難い体験だったはずだ。まして自らの意思ではなく、騙されたり強要されたりして慰安婦にされた女性たちにとっては、絶望的、屈辱的な日々だったと思う。
 同性として彼女らの心を思う時、語るべき言葉もないというのが私の実感だ。私たちの社会は、彼女らの受けた身心の傷にようやく手を差し伸べようとしているが、この問題に関心のある人は全て、それぞれの立場で出来得ることを、今、していくべきだと強く思う。戦後はすでに半世紀以上がすぎた。被害者たちは老いつつある。この人たちの生あるうちに、出来得ることから手を尽くすことが大事なことだと思う。」

 朝日新聞の誤報を発端として、いま、慰安婦問題が大きな焦点となっている。誤報をした朝日に責任があるわけだから、批判されるのは当然である。誤報しても批判されないとすると、その方がおかしい。

 それなのに、朝日新聞を批判する論壇に対して、批判すること自体がおかしいかのようにいう人がいる。あるいは、「朝日批判派は慰安婦否定派だ」みたいな捉え方をする人もいる。

 その「慰安婦否定派」とみられる代表格のひとりが、たとえば櫻井よしこさんだろう。97年頃、櫻井さんの講演会が、慰安婦問題での発言を理由に中止に追い込まれたことがあった。その櫻井さん、朝日新聞の論壇で、このように書いたことを批判され、慰安婦問題でがんばっていた市民運動から批判が集中し、講演中止になったのだ。

 「戦争当時、本人の意思とは裏腹に慰安婦にさせられた女性がいたことは事実である。(中略)しかしそれが日本軍や政府の強制連行によるものだったと具体的に示す資料は、現時点では寡聞にして私は知らない。政府や軍が基本的政策として、女性たちを強制連行で集めたことを示す資料は今の時点ではみつかっていないと考える」

 これって、最近の政府による検証結果を見た上で再読すると、河野談話の線そのものだ。「強制連行」を明記せよという韓国側と、「組織的な強制連行はなかった」とする日本側の交渉のなかで、「(募集等は)総じて本人たちの意思に反して行われた」とするとともに(政府・軍が組織的にやったとは書かないが、櫻井さんが言うように「本人の意思」には反していたということは認める)、連行への政府・軍による加担は個別事例としてあったという表現にとどめ、「強制」という言葉は「連行」とは別の文脈で使うということである。

 実は、冒頭の引用も櫻井さんの当時の「文藝春秋」からの引用である。個人的な好き嫌いはあるだろうし、彼女の「狭義の強制連行はなかった」というキャンペーンがかえって国際社会からの批判を増幅させているという現実があるのだけれど、こういう発言をする人を「慰安婦否定派」みたいにくくってしまうのは、問題の解決にとってけっしてよいことではないと考える。

2014年9月26日

 いつも政治的な焦点となる沖縄県知事選挙。私としては、それにあわせて本を出すことを、どの選挙の場合も願っている。

 前回は伊波さんと仲井真さんの対決だった。伊波さんが候補者になりそうだということをいち早くキャッチし、まだ公にできない段階だったので、お互い、そのことにふれないまま本づくりを開始した。

 そして、選挙の2カ月前、9月に本を出した。『普天間基地はあなたの隣にある。だから一緒になくしたい』である。帯文は、「沖縄が変われば日本が変わる。日本が変わればアメリカも変わる』。

 沖縄といえども、安保反対勢力を結集するだけで、選挙には勝てない。だから、つい半年前まで内閣官房副長官補として自民党の首相に仕えていた柳澤協二さんにお願いし、『抑止力を問う』を出させてもらった。

 自分でも本を書いた。『幻想の抑止力 沖縄に海兵隊はいらない』

 この3つの本を沖縄の本屋に並べるため、自分で営業を買って出て、数日間かけて40くらいの書店を回ったりもした。選挙には負けたけど、いい思い出。

 今年の沖縄県知事選挙は、その構図がさらに前に進んでいる。つい最近まで自民党にいた人を、安保反対勢力がかつぐのだからね。

 選挙に勝てば、ただ「辺野古移設反対」という一点共闘ではすまない。県政を運営するのだから、政策共闘が必要になる。安保や自衛隊についてどんな政策をかかげるのか、それが問われていくだろう。

 今回、候補者の本を出すことは、あきらめざるを得なかった。だけど、ちゃんと出します。

 林博史先生の『暴力と差別としての米軍基地』です。サブタイトルは「植民地と沖縄──基地形成史の共通性」。

 なぜ沖縄だけに基地が押しつけられるのか。本土と何が異なるのか。その根本的な背景に、沖縄が植民地的な位置に置かれていることがあるのではないか。

 そういう問題意識で、プエルトリコやマーシャル諸島、ディエゴガルシアなど植民地における基地建設の過程を跡づけたものです。その上で、占領初期の沖縄における基地建設を検証し、両者の共通性を論じたものです。

 10月20日頃には書店にならべたいと思います。とくに沖縄の書店にはたくさん並べます。

チラシ植民地沖縄基地

2014年9月25日

 報道されているように、シリア領内の「イスラム国」爆撃について、アメリカは国連憲章51条の「自衛権」であると主張している。個別的、集団的の両方ということだろう。

 日本政府は、これを支持するというのではなく、「理解」を表明するにとどめている。これは国際法上、自衛権を持ち出すのには無理があるという判断だと思われる。当然だよね。

 自衛権ということになると、いずれにせよ、どこかの国がイスラム国により「武力攻撃」を受けていることが条件になる。いうまでもなく憲章51条は、「国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、……個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない」というものだからね。アメリカは、シリアが個別的自衛権で反撃し、アメリカなどが集団的自衛権で援助していると言いたいのだろう。

 だけど、そもそも論になるけど、シリアはイスラム国から武力攻撃を受けていると言えるのか。まあ、国土のかなりの部分を奪われているわけだから、まったくそう言えないとまではいえないだろう。

 だけど、そういうことになると、どこかに独裁政権があるとして、国民のなかに解放闘争が広がって、国土の一部に支配権を及ぼすという場合はどうなのだという問題が生じる。いわゆる内戦状態だ。

 そういう場合も、通常は、内政不干渉が原則である。内戦が広がって、他国にまで武力紛争の余波が広がるようになれば別の考え方もできるだろうけど、基本は内政不干渉。

 だって、こんなことを許していたら、内戦が起こったときに、好き勝手に他国が「集団的自衛権で助けに行く」と宣言し、内戦に介入することができるようになる。実際、戦後の集団的自衛権はそういうものとして使われてきた。

 そういう歴史があるから、1986年、国際司法裁判所は、集団的自衛権を発動する場合には、あらかじめ武力攻撃を受けた国が「自分が攻撃された」ことを宣言し、他国に援助要請を表明するという条件を課したわけである。ところが今回、シリアがそういう表明をしたわけではない。

 まあ、抗議もしていないから、政権維持のためには容認するということだろう。実際、今回はイスラム国が主体だから、純粋に「国民の解放闘争」とは言えないしね。

 だけど、解放闘争の抑圧という要素は、今後、大問題になってくるだろう。今回、中東諸国のいくつかがアメリカといっしょに攻撃に加わっているが、それも自分の国で解放闘争が起きてくることを心配しているからである。そのたびにアメリカは、自衛権だと称して空爆していくのだろうか。

 対テロ戦争が問題になり、タリバン政権が打倒されて以降、戦争するたびにテロリストは強大化し、活動範囲を広げてきた。アフガニスタン国内では国土の7割ほどを実効支配におき、隣のパキスタンではアルカイダと結んで凶悪化したパキスタンタリバンが勢力をつよめ、それがイスラム国としてシリアやイラクに影響を及ぼしているわけである。

 オバマさんのやり方は、テロ勢力を強大化させてきたこれまでの教訓から何も引き出していない。数年後、中東と世界はどうなっているのだろう。

2014年9月24日

 昨日は京都まつり。だいぶ前、この場で集団的自衛権に関するクイズを出して、全問正解者には『集団的自衛権の焦点 「限定容認」をめぐる50の論点』の本をプレゼントすると予告しました。

 で、ここで紹介したクイズが難しいという意見があったので、かなり易しくしたんです。だけど全問正解者は出ませんでした。一番正解の多かった方にはプレゼントしました。

 やはり思い込みがあるんですかね。たとえば第2問、正解は後者なんです。でも、ほとんどの方は、日米安保条約には集団的自衛権という言葉がないと思っておられるんですね。これも無理のないことです。だって、日本が行使できないとずっとされてきた権利のことが、日本が締結した条約に書かれているって、想像できないですからね。

 第3問目も正解が少なかったです。正解はソ連なんですけど、悪いことをするのはアメリカだという、これも思い込みでしょうか。
 ということで、昨日のクイズを。1つだけ正解がない問いがあります。

1、集団的自衛権という言葉が初めて登場した条約はどれか?
 国際連盟規約、国連憲章
2、集団的自衛権という言葉が使われていない条約はどれか?
 日米安保条約(1960年)、ソ連中国友好同盟相互援助条約(1950年)
3、世界で最初に集団的自衛権を発動した国はどれか?
 アメリカ、ソ連、
4、最も直近で集団的自衛権が発動された戦争はどれか?
 アフガン戦争(2001年)、イラク戦争(2003年)
5、閣議決定の後の記者会見で、日本は参加しないと安倍首相がのべた戦争は?
 アフガン戦争(2001年)、イラク戦争(2003年)
6、現在、政府が「日本には撃ち落とす能力がある」と認めている弾道ミサイルは?
 グアムに向かうもの、日本に落ちてくるもの
7、米艦船が攻撃されたとする以下の事件の内、本当に攻撃されたのはどれ?
 トンキン湾事件(1964年)、コール号事件(2000年)
8、朝鮮半島有事に避難する日本人を輸送する手段として決まっているのは?
 米艦船、政府専用機(ボーイング747)
9、以下のアメリカの戦争の内、日本政府が批判的見解を表明したものは
 ベトナム戦争、グレナダ侵略(83年)
10、侵略を定義した国際条約はどれか?
 国連憲章(1945年)、国際刑事裁判所規程(1998年)