2017年6月6日

 と言っても、ご存じでない方が多いかもしれない。弊社から2009年に刊行され、大ヒットした『理論劇画 マルクス資本論』の著者である。先日、亡くなられたとの連絡が、奥様から寄せられた。

 もともと門井氏は、大陸書房から「劇画カルチャー」版として『資本論』を出しておられた。それを紙屋高雪氏が再構成し、解説も加えて刊行したのが、理論劇画 マルクス資本論』である。

 大陸書房版は、マンガで『資本論』の世界を描く可能性を現実のものとした点で、不朽の名作であった。とりわけ、当時の労働の過酷さは、マンガならではのリアリティがあった。マルクスやエンゲルスの生涯が描かれていたのも、多少、美しすぎる点はあったものの、訴求力があったと感じる。

 2008年頃、若者の格差、非正規労働が広がるなかで、小林多喜二の『蟹工船』が注目されていて、次に世論の注目はどこに向かうのだろうかと模索していた。それが資本主義の仕組みを解明する理論問題になるのではという予感はあったが、難しい『資本論』の解説では受け入れられないだろうと思って、紙屋さんに相談したところ、門井氏の著作を再構成してみたいとの希望が寄せられたのである。

 まあ、これも簡単ではなかった。すでに退いておられた門井氏にたどり着くまでが、なかなかの難関だった。

 大変だったのは、再構成をした紙屋さんだったと思う。マンガでこそ伝わる『資本論』の可能性を、理論面で追求したのだから。

 当時、『資本論』にかかわるいろいろな著作が出されていた。しかし、この本は、学者の分厚い解説書をふくむもののなかで、もっとも価値論が正確に、わかりやすく描かれているとの評価を受けた。理論を伝えるマンガの可能性を最大限に引き出したのだと思う。

 それを、新しいマンガを描いてもらうのではなく、大陸書房版のものを使って再構成したのだから、紙屋さんの手腕はたいしたものである。門井さんからも、ここまで変えられるものなんですねと、お褒めの言葉をいただいた。再び注目されて、うれしかったのだと思う。

 それもこれも、門井さんのもとのご著作があったおかげである。それがなければ、価値論をこれほどわかりやすく伝える『資本論」は日の目を見なかったことは間違いない。この分野の挑戦は途絶えているが、いつか再開したいと思う。

 門井さん、ありがとうございました。安らかにお眠り下さい。