感染症の時代と夏目漱石の文学

著 者

小森 陽一

ISBN

978-4-7803-1188-4 C0095

判 型

四六判

ページ数

152頁

発行年月日

2021年09月

価 格

定価(本体価格1,600円+税)

ジャンル

文学・小説・エッセイ

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漱石の写真はなぜ、右向きなのか?
感染症の時代の漱石は、天然痘によるアバタを持つ
その劣等感を抱きながら、日本の近代化と向き合った
漱石の葛藤と時代感が色濃く影を落とす作品の特質を、コロナ禍の下、今改めて読み解き、考える。

第Ⅰ章 『吾輩は猫である』『道草』
 苦沙弥先生は天然痘による痘痕を気にしている。漱石の文学の出発点は感染症にあった。
第Ⅱ章 『三四郎』
 大日本帝国の感染症研究が軍と結びついてゆく過程が、同時代の読者に正確に伝えられていく。
第Ⅲ章 『それから』
 主人公が好きだった薄幸な女性と、その夫である友人の運命は、腸チフスに関わっていた。
第Ⅳ章 『門』
 主人公夫人の友人への裏切りの過去を遡り、インフルエンザが運命を左右したことが明らかにされる。

投稿者:女性・70歳代
評価:☆☆☆☆☆
10代のころから71歳になるまで10年周期ぐらいで夏目漱石を読み返してきて、今も漱石という字がタイトルに入っていたら読まずには置かない漱石ファンですが、この本は中でもとてもページを繰るのがもったいないくらい面白かった。ちょっと前に北里柴三郎の評伝を読んでいたこともあって、東大と北里研究所の関係などなるほどと腑に落ちることばかりでスリリングでもありました。
第3章 「それから」の椿の件ですが、(たしかそれからには百合の花もでてきてましたね。)
歌劇「椿姫」に言及されていましたが、私は劇場で椿姫の公演を見たこともありますが、かねてからなんで椿姫なんだと思っていました。原題は「ラ・トラヴィアータ」でたしか高級娼婦の意味だとか。それに主人公の名前はヴィオレッタですみれ ですかね。椿は英語かなんかでカメリアと言うようですが、椿は劇の中には一言も出てきません。ちょっと疑問に思っていました。
椿が花をぼとっと落とすので武士にとって不吉と思われていたのは知っていましたが、この度、この本を読んでみて、この歌劇を日本に紹介した人が、椿のようにはかない生涯の美しい人として椿にたとえたのではないかと思いました。
もちろん姫姫様でもないですし。日本人は親指姫、白雪姫、人魚姫、なんでも姫ですから。
たぶんヴェルディはこの歌劇を作曲するときには、椿の花は全く念頭になかったのではないでしょうか。

小森 陽一
1953年東京生まれ。北海道大学大学院文学研究科博士課程修了。成城大学助教授を経て東京大学教授。専攻は日本近代文学。2004年6月に結成された「九条の会」事務局長。

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