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「日本文学史序説」補講

「日本文学史序説」補講

ニホンブンガクシジョセツホコウ

著 者
ISBN
978-4-7803-0054-3 C0090
判 型
四六判上製
ページ数
280頁
発行年月日
2006年11月 
価 格
定価(本体価格2,600円+税)
ジャンル

内容

五日間の合宿講義を一冊に!
世界7カ国語に翻訳されている名著『日本文学史序説』をめぐって5日間にわたる合宿での集中講義を記録した本。

目次

まえがき
第一講
序 章
日本文学の特徴について
第一章
『万葉集』の時代
第二講
第二章
最初の転換期
第三章
『源氏物語』と『今昔物語』の時代
第三講
第四章
再び転換期
第五章
能と狂言の時代
第六章
第三の転換期
第七章
元禄文化
第八章
町人の時代
第四講
第九章
第四の転換期・上
第十章
第四の転換期・下
第十一章
工業化の時代/戦後の状況
最終講
自由討論
あとがき
加藤周一
編集協力
田中茂実・石原重治

はじめに


この本は、二〇〇三年九月三日から七日までの五日間、加藤周一先生を囲んで開いた第二期白沙会の信州・追分での合宿学習会の記録である。テキストは加藤先生の主著『日本文学史序説』(ちくま学芸文庫上・下)を用いた。白沙会は、学生から主婦、教員、編集者まで多様なメンバーだが、文学・文学史の専門家はいない。そんな私たち会の全員が、あらかじめ思い思いの質問を出し、取捨選択しながら先生に講義していただくというかたちですすめた。午前中二時間・午後三時間近くの実に濃密な日程で、臨時の教室として使わせていただいた宿舎・油屋さんの食堂は、時間になると飲み物を交えた歓談の場に早変わりし、“補習授業”はさらに盛り上がった。
観光客の姿が消えた初秋の高原で私たちは何を考えていたのだろう。日本文学の細かな味わいについて、中国や西洋にくらべてのその明らかな特徴について、文学にあらわれた思想についてーもちろん、それらを大いに愉しまなかったはずがない。しかし、それだけではない。自著の解説やすでに語られたことの要約ではなしに、ひろく芸術・文化、政治、社会に及ぶ加藤先生の講義は、この国の現実と将来に私たちの思いを誘わずにはおかなかった。なし崩し的に右旋回する現状に歯止めをかけ、流れを変えてゆく途はあるのだろうか、あるとすれば何なのか:。

書かれた時期にかかわらず、独創的で内外に共感をよび、普遍的価値を明示する基本的文献が“古典”だとすれば、『日本文学史序説』はまさに現代の古典である。古典は時代に応じて多様な貌を見せる。白沙会合宿学習会は古典としての『序説』の今日的な意味を学びあったが、読者もまた本書に多くの考えるヒントを発見されるにちがいない

二〇〇六年初秋
合宿学習会進行役  山本晴彦

おわりに


この本は白沙会の皆さんと『日本文学史序説』の著者加藤周一との合作です。まず加藤が『序説』(とここでは略記します)に補足したいと考えるいくつかの点を要約して話し、その話を含めて『序説』に係る質問を白沙会が提出し、著者と読者が同じ話題について議論しました。質問は実に多岐にわたり、直接に『序説』の内容を論じる場合と、間接に「序説」が喚起した多様な問題をとり上げる場合がありました。この本は前者を中心にして私どもの五日間にわたる議論の内容を整理したものです。断片的にみえる話も、『序説』を前提とすることで実はいくらかのつながりを持ち得るだろう、と考えています。
 もちろん時代はここにも反映しています。補講の集いは2003年夏。日本国では「心の問題」に没頭した小泉首相が、靖国神社参拝をくり返していました。それに伴って中国や韓国との外交関係は戦後最悪の状態。イラク征伐に失敗した米国政府でさえも対日批判を始るであろうことはすでに時間の問題でした。(この「あとがき」を書いている2006年9月末には早くも事実となりました)。白沙会の皆さんと著者は、「補講」の枠の外で、そういう話にも触れました。
 『序説』の補講の枠内、つまり文学の世界と、枠外すなわち政治的な現実との間には、何らかの関係があり、共通の接点があり得るでしょうか。常にあるとはかぎらないが、場合によってはあり得るでしょう。接点はたとえばこの国の有権者の投票行動と世論調査による多数意見とがくい違う場合にあらわれます。世論調査では憲法の第九条を変えることに反対、政治家の支持率では、九条改めを主張する政治家の支持が、それぞれ半数を越えることがあります。そういうことがおこれば、なぜそうなるかを理解する必要も生じるでしょう。理由はもちろん沢山あり、複雑に入り組んでいます。世論調査のやり方、多くの争点の中での九条問題の比重、個別的利益の重視、各種の世論操作・・しかしそのすべてが世論調査の結果と選挙における投票行動の乖離を十分に説明するとはいえないでしょう。それならば、有権者大衆の全体に係るところの伝統的な思考の習慣、精神的構造、世界観と価値観とでもいうべきもの(フランス語で mentalite というのに近い)が問題にならざるをえない。現状の理解を望めば、文化的伝統の理解が必要になるのです。文化的伝統は単に知的論理的なものではなく、また同時に感情的さらには感覚的な心理を含みます。どうすれば文化的伝統を理解することができるでしょうか。そのためのもっとも有力な手段の一つが、日本文学史の分析です。かくして政治的経済的現実の世界と文学的芸術的表現の世界の接点は、そこにあらわれるし、あらわれざるをえないのです。
 接点を同時的にみれば、個別の文学作品は全く政治的世界と係らないようにみえます。たとえば平安時代の『源氏物語』、『今昔物語』、『往生要集』。しかしその三者の美学と人生哲学と宗教的信念をまとめてみれば、その全体は院政という特異な政治制度を支える文化的体系に他なりません。(閉じた空間の中での細部の洗練)。またたとえば鎌倉時代から室町時代へかけての二重政府と封建的な権力分散の時代。その政治的状況と能狂言の美学、『正法眼蔵』の超越的な哲学、法然・親鸞の他力信仰の三角形が作る文化的体系とは、ほとんど不可分でした。その同じ接点を通時的にみれば、歴史は院政から封建制へ発展し、文化はそれとならんで、——まさに文学史が鮮かに証言するように、個人化され、内面化され、超越化されたのです。個別の問題に立ち入りながらも『序説』の著者と白沙会の皆さんの念頭には絶えずそういう考えも浮かんでいたように思われます。
 私たちはこの本が要約する議論を大いに愉しみました。さらなる読者と同じ愉しみを分つことができれば、この上もない幸いです。

2006年10月1日 上野毛にて
加藤周一

読者の声

投稿者:主婦 76歳 男性

評価: ☆☆☆☆
加藤氏の著書は、ほとんど読んでいますが、この本が最も読みやすいし、分かりやすいと思います。「日本文学史序説」をはじめて読んだとき、これは思想史だと思いました。その本に流れている精神がよく分かります。ときどき笑い出しながら、楽しい時間を過ごしました。

著者プロフィール

加藤 周一 カトウシュウイチ

1919年9月19日、東京に生まれる。東京帝国大学医学部で血液学を専攻。医学博士。幼少から読書に親しみ、フランス文学や日本古典文学に深い関心を寄せる。
戦後、留学生として渡仏し、医学研究のかたわら西欧各国の文学を摂取したことが、日本文学の特徴を考えるきっかけとなる。
カナダ、ドイツ、スイス、アメリカ、イギリス、イタリアなどの大学や、上智大学、立命館大学で教鞭を執る。

[白沙会]について

加藤周一氏を囲む20人ほどのメンバーでの[勉強会]
司会者は井上吉郎

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