2014年3月26日

 毎日、何かしら話題になっているよね。「安保法制懇」の報告書が出るのが来月だから、当然かもしれない。以前予告したように、報告書が出たらすぐ、本を書くつもり(5月末発売予定)。タイトルとしては、少し長いけど、『集団的自衛権に関する「安保法制懇」報告書の論点』という感じだろうか。報告が出てから書くのだが、準備はしておかねばということで、少しだけ書いてみた。何十項目かの「論点」をとりあげ、1000字程度で解説し、最後に要点を書くという形式である。こんな感じなのだが、いかがでしょうか。

(論点)
アメリカ本土に向かうミサイルを自衛隊が撃ち落とすのは当然ではないか

(解説)
 ロケットエンジンを利用して大気圏外に打ちあげられ、放物線を描いて目標に高速で落下するミサイルのことを、弾道ミサイルといいます。長いものでは一万キロメートル以上を飛ぶことが可能で、日本周辺から米本土まで到達することが可能です。

 日本は、弾道ミサイルを撃ち落とすため、ふたつのシステムを持っています。ひとつは、大気圏外にまで到達したミサイルを、イージス艦が発射する迎撃ミサイルで撃ち落とすものです。もうひとつは、大気圏内に突入し目標に向かって落ちてくるものを、ペトリオットと呼ばれる地上に配備されたミサイルで撃ち落とすものです。

 「旧報告書」は、「米国が弾道ミサイル攻撃によって甚大な被害を被るようになれば、我が国自身の防衛に深刻な影響を及ぼす」と主張しています。そして、「我が国が撃ち落とす能力を有するにもかかわらず撃ち落とさないことは、我が国の安全保障の基盤たる日米同盟を根幹から揺るがすことになるので、絶対に避けなければならない」と強調しています。

 アメリカの国土が破壊され、国民の命が失われるかもしれないと言われれば、誰もが「何とかしてあげないと」と思うことでしょう。しかも、日本にはその能力があるとなれば、保有する能力を使って助けるべきだと考えるのは、自然な感情です。

 しかし、この「旧報告書」の記述は、国民感情を利用したまったくのデタラメです。なぜならば、そのようなミサイルを撃つ落とす能力は、日本にはないからです。日本にないというだけでなく、在日米軍にもありません。

 日本が保有する迎撃システムは、あくまで日本に向かって落ちてくることを想定して、日本周辺の海と日本の陸上に配備されます。落ちてくる軌道をコンピューターで推定し、迎撃ミサイルを打ちあげるのです。本当に迎撃できるかどうかは、実戦で試されていないので分かりませんが、近づいてくるから撃ち落とせるというのが前提です。

 一方、アメリカ本土に向かうミサイルの場合、最短距離である北極圏を経由して飛んでいきます。日本からどんどん離れていくのです。遠ざかっていくミサイルを、後から打ちあげたミサイルで追いかけ、追いついて破壊するなどということは、現在の技術では不可能です。日本の技術であってもアメリカの技術であってもできません。

 実際、自民党の石破幹事長も、近著(『日本人のための「集団的自衛権」入門』)で「確かにアメリカ本土に飛んでいくミサイルを日本から撃ち落とすことは現状できません」と、あっさりと認めています。「旧報告書」では、「能力を有するにもかかわらず撃ち落とさない」のは問題だ、だから解釈改憲だと大騒ぎしたのに、実際にはその前提がウソだったことを当事者が告白したのです。改憲勢力の側は、アメリカ防衛のことさえ真剣には考えていないということです。

(要点)
技術的に不可能だと分かっていながら、集団的自衛権を国民に認めさせるためにウソをつくような「報告書」には、国民の命にかかわる防衛問題を真剣に語る資格がありません。