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「釜石の奇跡」の片田敏孝先生のはじめての児童書

3.11の経験を踏まえ、防災についてわかりやすく解説する

学校図書館出版賞受賞にあたって

松竹伸幸(かもがわ出版東京オフィス所長)


はじめに
 かもがわ出版は6月8日、『3.11が教えてくれた防災の本』の出版について、学校図書館出版賞を受賞した。これは学校図書館協議会が14年前に創設したもので、「学校図書館向き図書の優良な出版企画に対して出版社を顕彰」することを目的としており、これまで40点ほどの図書とその出版社が対象になってきた。
学校図書館向け書籍への参入は、創立以来27年の歴史しかない小社にとって、今回がほとんど最初の試みのようなものである。その図書に対してこのような栄誉ある賞をいただいたことは、もちろん喜びではあるのだが、それ以上に「この程度の経験しかないのにいいのだろうか」と大きな責任を感じてしまう。関係者の皆さんに感謝するとともに、責任を自覚して今後の取り組みに邁進する決意であることを、まず述べておきたい。

3.11の衝撃と努力のなかで
 もちろん、今回、突如として参入を決めたというわけではない。もともと小社は、保育書や教育書を手がけており、それらの読者対象は大人であっても、つねに子どもを視野に置いた本づくりを行ってきた。小社はまた、政治・社会にかかわる図書を多く出版しているが、それも子どもの未来を明るいものにすることを願う立場からのものに他ならない。いつかは学校図書館向けの本をつくりたいというのが、長年の希望だったのである。
 そうはいっても、実際に学校図書館向けの本をつくるには、ノウハウを含め大きな障害があった。そこで、5年ほど前に東京に出張所を設置して以来(本社は京都である)、学校図書館協議会の方をお呼びして教えを請うたり、専門の編集プロダクションの方のお話しをお聞きしたり、いろいろな努力を積み重ねてきた。それでも、本格的に参入することにはなかなか踏み出せず、試行的なものにとどまっていたのである。
 そこを突き破った直接のきっかけは、あの3.11である。もちろん最初は、あまりの衝撃に、学校図書館向けの図書など頭に浮かぶこともなく、ただただ3.11を主題にした一般向けの図書を出版し続けた。福島原発事故の原因と日本の原発政策の問題点を扱った図書、あの日に子どもたちを避難させた学校の先生方の努力や悩みを扱った記録集、福島に残る方と避難した方の心からの訴えを満載した報告集等々。
 子ども向けの本も必要だと感じた。放射能の被害をどう考えるのか、どうすればいいのかという問題では、貴重な本をつくることができた。図書として実りはしなかったが、津波・地震を子どもにどう教えるのかという実例を探して、高知まで出かけたこともある。

関係者全員の真剣な取り組みで
 それらの図書を作成する過程で、今回の図書の監修をしてくださった片田敏孝先生を知ることになったのである。というよりも、それらの図書に全力をあげていたからこそ、先生との出逢いがあったということかもしれない。先生が津波防災教育に取り組んだ岩手県釜石市で、あの日に登校していた子ども全員が助かったという事実、その成果を生みだした「避難の3原則」は、3.11関連の図書を次々と出版していた小社にとって、将来にわたって残しておくべき事柄だと考えられた。こうして学校図書館向けの図書にするならこれしかないと判断したのである。
 図書作成の過程で、片田先生は、監修という仕事の範囲を超えて、大事な役割を果たしてくださった。当然ではあるが、片田先生は、学校防災の面での期待が急速に高まり、この本の作成と並行してどんどん忙しくなられたのであるが、みずから筆をとったり、あるいはご自分の講演会に編集者を招いて大事なポイントを理解させたり、最後まで真剣に取り組んでくださったのである。
 実際の作成にあたっては、編集プロダクションの方の援助が大きかった。どのようにしたら子どもが関心をもち、その理解が促進されることになるのかという観点で、企画の詳細を練ってくださり、イラストレーター、絵本作家、ライター、ブックデザイナーその他の方々を紹介して頂いたのである。
 そういう方々とのお仕事は、刺激に満ちていた。たとえば、放射能被害をどう描くのかということ一つをとっても、いろいろな対立する考え方が存在している。何をどこまで伝えることが子どもにとって大事なのかなどをめぐり、何回もやりとりがあった。

被害を扱うことの難しさを克服し
 津波・震災に対する学校の対応という、今回の図書の直接の主題も、取り扱いが簡単な問題ではないと考えていた。3.11後、学校の先生方の記録集などを作成する過程で、その苦悩の深さを思い知らされていたからである。子どもの命を失った学校の先生は、「自分の責任だ」「ああすれば助かったのに」と、それ以降ずっと自分を責めておられる。全員が助かった学校でも、「ただただ必死だっただけ」「偶然という要素が多くて、とても教訓めいた話はできない」と、先生方は決して自分たちのことを誇っているわけではない。
 そのような複雑な心境にある先生方の気持ちに寄り添いつつ、しかも子どもに読ませるだけの本をつくることは、とても難しいことである。しかし、この本の作成に参加した方々は、小社の出した先生方の記録集などにも目を通し、その内容に共感し、何回も読み直しながら、企画を具体化し、執筆を進めてくださった。この本には、そんな努力の跡が、あちこちに散りばめられている。そういう点を読み取って頂けるとありがたい。

被災地に正面から向き合った1年を経て
 私自身、この1年間、何回も被災地に足を運んだ。震災から1年目にあたる今年の3月11日は、被災地の人々を励ますため、福島の浜通りにおいて、小社刊行物の著者による講演会とジャズ・コンサートを開催した。この企画に当たっては、被災地の実情を見てもらうため、東京と北海道からツアーを企画するという異例の取り組みも実施した。京都の本社でも、その日を前後して、東北の作家らの美術展を催したり(小社はギャラリーも併設している)、東北の物産販売を行ったりもした。これらは、出版の仕事とは何の関係もない。しかし、日本の政治社会の現状を前向きに打開したい、3.11後に苦しむ人々を支援したいと努力してきた出版社として、この日を漫然と迎えることはできないという立場からのものだったのである。
 学校図書館出版賞の受賞を伝えられたのは、その翌月であった。今回の受賞は、学校図書館向け図書の出版社としては新参で、まだまだ努力すべきことが多いけれども、3.11後の問題に真剣に取り組んできた積み重ねのうえにあるのだと考えることもできる。そうだとしたらうれしい。
 すでに次の学校図書館向けの企画はスタートしている。今回の受賞が偶然だったという評価を受けることのないよう、多くの方に学び、支えられながら、引き続き全力をあげたい。

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