未来への歴史

日本憲法史

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『女工哀史』の誕生

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石田梅岩

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暴力と差別としての米軍基地

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古墳は語る

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神々の革命

神々の革命


シリーズ「未来への歴史」を創刊

編集長 松竹伸幸


かもがわ出版は、2012年9月より、歴史書の分野に参入します。「未来への歴史」と題したシリーズです。数年間で数十冊は出したいと考えています。

●有利な事情も不利な事情も存在する分野
 以前から、漠然とそういう構想を持ってはいたのです。2つの相反する願望がありました。
 1つは、有利な面から来るものです。歴史学の分野では、民主的、進歩的な研究者がたくさんいますので、著者を探すのに苦労しません。しかも、歴史書には固定的な読者層が存在しますので、安定的な販売が見込めます(たぶん。これは願望です)。
 もう1つは、不利な面からのものです。歴史学の分野では、戦後、マルクス主義と史的唯物論が席巻した時代がありました。しかし、それに対する批判や攻撃が強まるなかで、ソ連が崩壊します。史的唯物論というのは、人類社会は最後には社会主義になるということが1つの核心ですから、社会主義が崩壊したことの影響は、他の分野と比べても深刻だったと思います。その後、歴史学の分野では、史的唯物論とかマルクスなどの言葉はあまり登場しなくなりました。もちろん、否定されたものをそのまま再興することはあり得ませんが、日本を変革したいという思想のある歴史書を出したいという願望があったのです。
 そこで、2年ほど前から、歴史学者を訪ね歩く旅をしてきました。1つの本を書くのに、資料発掘からすれば何年もかかりますので、「3年後に是非1冊」とお願いしながら、いろいろなご意見を伺ってきたのです。

●3.11後、日本の未来を模索するから
 その途中、3.11が起こりました。会社としても私としても、震災・原発関係の本を出すことが中心の仕事になりましたので、さすがに歴史にまでは手が出せない時間が過ぎていきます。しかし、その忙しい時間のなかで、震災後の今だから歴史の本も必要だと考えるに至りました。
 3.11というのは、この日本をどうしたらいいのかということを、国民的な規模で問いかけていると思います。どんな日本をつくるのかということです。そのことを考えようとすれば、歴史を捉え直す作業も必要ではないでしょうか。
 たとえば、第二次大戦後の歴史でいうと、高度成長というのはポジティブに捉えられてきたわけですが、原発をこれほど導入して成長を追い求めてきた時期の歴史の評価は、根底から書き直されなければならないでしょう。あるいは、これほどの無責任政治が横行する日本ですが、なぜこんなことになったのかという歴史的な根源を明らかにする作業も必要です。この秋に出版される『神々の革命──「古事記」を深層から読み直す』において、筆者の小路田泰直先生は、女帝を排するためには幼帝(政治責任のとれない)を擁立した古代に源流を見いだしています。

●歴史を捉えることは未来につながる
 日本の歴史を正確に捉えることは、日本の社会を変革する仕事につながっています。最近、そのことを痛感しました。
 網野善彦先生の名著に『海民と日本社会』があります。海民って、聞き慣れない言葉でしょう。まさに海で生きる民のことです。でも漁民ではない。
 網野先生がこの言葉を使われたのは、日本の歴史のなかで、海民というものが重要な役割を果たしてきたことを発見したからです。漁をする人だけではなく、塩をつくったり、それを船に乗せて交易をしたり、山から切り出された材木を遠くに運んだり。そんな人たちがたくさんいたわけです。
 ところが、歴史史料のなかで、そういう人は「水呑百姓」として分類されていた。石高が少ないため貧しい人だと思われてきた。しかし、石高が少なかったのは、農業をしなくても十分に生活していけるだけの商業や工業のスキルがあったからだったのです。
 そういうことが分かると、先が見えてきます。海民が活躍していた場所って、いまでは過疎地になっている裏日本などに多いのですが、それは中国や朝鮮半島と日本海でつながっていたからであって(海があったから隔絶していたという理解は間違いです)、当時は「裏」ではなかったのです。そして、現在もこれらの国々との交易を考えれば、発展の可能性が満ちあふれた地域なのかもしれません。
 はじめての試みであり、未知の分野への挑戦です。試行錯誤は避けられないでしょうが、それをくり返しながら、いいシリーズにしたいと考えています。ご声援をお願いします。

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