2014年5月12日

 今週は、集団的自衛権の週になりそうですね。「安保法制懇」が報告を出し(13日から1~2日ずれるかも)、安倍首相が政府見解も発表するということですから。私の本の執筆も山場です。この間、公明党を説得するため、集団的自衛権の必要な事例としていろいろ出されました。焦っているからでしょうか、出れば出るほど、恥ずかしいなと思わせるものになっています。ということで、今回、先週末に出てきた事例について、予定の本に書いたことをご紹介。

論点29 朝鮮半島有事に韓国から避難する日本人を乗せた米艦船を守るために必要か

 「限定容認」論もここまで来たかという、推進論者の劣化を象徴する事例だと言えます。突然どこかの国がアメリカの艦船を攻撃するという、あまりにもリアルでない想定では国民を納得させられないとして、突然、誰かが考えついたようです。日本人の命を守るためなら反対できないだろうというわけです。

 しかし、海外の邦人救出の仕事は、日本自身がすべきだというのが、これまでの努力の方向だったはずです。緊急時にはアメリカも自国民救出が優先であって、アメリカにまかせられないからとして、日本自身による体制をつくってきたのです。

 自衛隊の航空機による輸送は、自衛隊法の改正により、一九九四年から可能になりました。政府専用の自衛隊機(ボーイング747)が基本で、それが困難な場合はCー130等の輸送機を使うことになっています。

 一九九九年、自衛隊の艦船による輸送も可能となるよう、自衛隊法の改正が行われました。輸送艦や護衛艦等を使用することが想定されており、艦船と陸地の間に限定して、艦船に搭載したヘリコプターも使うことになっています。

 これは、いま議論になっているケースと同じです。韓国の沿岸まで護衛艦や輸送艦を派遣し、ヘリが地上を往復して邦人を艦船まで運び、日本にもどってくるのです。ある国に許可を得て滞在している外国人の命は、その国の政府が責任をもつという建前になっており、邦人救出のために自衛隊が派遣される場合、現地政府の同意が必要とされます。しかし、艦船を派遣する際は、港湾への着港の許可を得るだけであり、日本が武力を行使するわけではないので、朝鮮半島有事のとき、韓国政府が同意しないという事態は考えられません。

 自衛隊法にもとづく邦人輸送は、すでに二回実施されています。一度目が二〇〇四年四月、イラクにいた報道関係者一〇名をC-130輸送機でタリル空港からムバラク空港(クウェート)まで輸送しました。二度目は昨年一月で、アルジェリアで発生したテロ事件における被害者の輸送でした。生存者九名、死亡者九名を、アルジェの空港から羽田空港まで、政府専用機(ボーイング747)により輸送したものです。

 なお昨年、再び自衛隊法が改正され、陸上輸送も可能とされました。 艦船によるものと陸上輸送の実績はまだありません。

 万が一、朝鮮半島有事という事態が起これば、これらの法律はフルに活用されることになります。海上自衛隊と海上保安庁が保有する艦船の数は、在日米軍が日本周辺で運用している艦船よりも多いのであり、日本人が米艦船で救出されるより、アメリカから米国民を日本の艦船に乗船させてほしいという依頼があると考える方が、ずっとリアルでしょう。

(まとめ)有事の際の邦人救出は、アメリカに頼るべきでないとする立場から、自衛隊の艦船がやれるように法整備がされており、こんな想定は滑稽です。