2014年5月15日

 書いている本の紹介は今回で終わり。面白そうだと思ったら、買って読んでくださいね。書店に並ぶのは6月上旬になりますが、会社のホームページでは、5月29日から購入できると思います。

論点31 領海内で潜行している潜水艦が退去命令に応じないときにどうすべきか

 これも、いわゆるグレーゾーン事態として議論されていますが、日本の領海で日本の主権が侵されている事態であるので、個別的自衛権の問題です。いかなる意味でも集団的自衛権とは関係がありません。

 どの国のものか分からない潜水艦が突如として領海に浮上してきたり、領海内の深い海中にいることが判明すれば、誰もが不安になるのは当然です。退去命令に応じない潜水艦があるとしたら、許されることではありません。

 しかし、潜水艦というものは、少し考えてみれば分かることですが、「見つからない」ところに最大の役割、特質があります。隠密性を生かして行動することにより、敵の探知をかいくぐり、偵察行動を行ったり、機雷を敷設したり、攻撃したりするのです。見つかってしまったら、そういう特性を発揮することはできません。その時点で敗北なのです。
 
 「安保法制懇」が想定している退去命令に応じない事態というのは、まさに潜水艦が見つかっている事態です。もはや役に立たない潜水艦になりはてているのです。潜水艦が頻繁に探知されるとしたら、それだけの能力をもつ自衛隊の優秀さを誇ればいいでしょう。

 発見した潜水艦をどうするべきか。これには過去に事例があります。

 二〇〇四年一一月一〇日、中国の原子力潜水艦が石垣島東方の領海を通過したことがあります。日本政府は海上警備行動を発令し、海上自衛隊の護衛艦は、アクティブ・ソナー(大音波を出すソナー)を出しながら、上海沖まで二日間以上追尾しました。中国政府からは「技術的原因で謝って石垣水道に入った」という遺憾の意が表明されました。

 二〇一三年五月、中国海軍所属とみられる潜水艦が、沖縄県・南大東島の接続水域内で潜航していることを、海上自衛隊が三回にわたって探知しました。三回目の際、 海上自衛隊の哨戒機は、潜水艦を牽制するため、音響探知機(ソノブイ。ソナーとブイの合成造語)を海に投下して音波を潜水艦にあてたとされます。

 潜水艦を探知するには、その固有のスクリュー音を聴取し、艦の種類を特定します。そのため、スクリュー音をとらえる音響探知機(ソナー)を投下するわけです。普通、こちらから音波を出すことはしません。探知されていることが分かると、探知されないよう相手の工夫する余地を与えるし、日本側の能力水準を知られてしまうからです。

 これらの際、あえて音波を出したのは、「オマエがいることは分かっているよ」と警告し、牽制したわけです。そして実際、それで問題は解決しました。もし音波を出しても退去しないことがあるとすれば、相手側に深刻な故障、事故が発生している可能性もあり、慎重な対応が求められます。

(まとめ)潜水艦を探知した場合、音波を出して相手側にそれを知らせ、警告することができ、実際にそういうやり方で問題を解決した事例もあります。