2014年5月14日

 いよいよ明日ですね。「安保法制懇」の報告です。噂によると5万字を超えるのだとか。これを資料として掲載するのですが、どんなに小さくしても資料だけで50ページですよね。値段がはねあがりそうです。で、公明党との間では、まずグレーゾーン事態について協議するとか。ということで、いま書いている本の、その関連部分をご紹介。

論点30 武装集団が離島を占拠し、不法に活動するなどのグレーゾーン事態をどう考えるか

 グレーゾーンというと、個別的自衛権と集団的自衛権の間にあるかのように響きます。しかし、日本の島を武装集団が占拠するなどの事態は、他国に対する武力攻撃が発生したわけではなく、あくまで日本の主権を日本が守るというケースであり、いかなる意味でも集団的自衛権と結びつけるべきものではないことを、まず指摘しておかなければなりません。

 尖閣をめぐる現状からして、いろいろな事態が想定されます。武装集団が島を占拠するというのも可能性がゼロではないでしょう。でも心配することはありません。

 第一に、海上保安庁では対処できないという事態は、およそ非現実的です。もちろん、海上保安庁が実力を行使しないのをいいことに、居座り続けるくらいのことはあるでしょう。しかし、尖閣諸島では島内で食料や水を確保することはできず、外からの補給なしに暮らしは成り立ちません。海上保安庁が島を取り囲んでいれば、占拠する人数が多ければ多いほど、長期間にわたって居座り続けることは不可能なのです。日本政府が頭を使うべきは、退去せざるを得なくなった外国人をどう扱うか、外交交渉の方になります。

 第二に、こういう場合に自衛隊を使うことは、愚策中の愚策だということです。目の前で主権が侵害されるのを見れば、「早くなんとかしろ。強い自衛隊を送れ」という感情が生まれるかもしれません。しかし、日本の側が自衛隊を送れば、相手の側にも軍隊を派遣する口実を与えることになります。その際、相手からは、「日本が先に自衛隊を送ったのだ、こちらはやむを得ない措置だ」という宣伝がされることになるでしょう。

 戦争に発展しかねない紛争問題がある場合、何よりも大事なのは、それを平和的に解決する努力です。尖閣問題ではどのような解決策があるかについては別の著作(『これならわかる日本の領土紛争』大月書店)で論じたので、ここではのべません。

 同時に、それがエスカレートする際に大切なのは、日本側が先に手を出さないということです。言葉は悪いですが、先に相手に出させることです。相手を侵略の側に、日本を自衛の側に、という構図をつくることです。

 現在、尖閣諸島をめぐって挑発をくり返す中国に対し、話し合いをしないという日本側の姿勢は重大問題ですが、現場での対処を海上保安庁レベルにとどめていることは大事です。そのことが、現状を力で変更しようとしているのは中国だという、かなり広い国際的な認識を生んでいます。日本が先に自衛隊を派遣してしまえば、武力を使おうとしているのは日本だということになり、国際社会の支持を得ることはできなくなるでしょう。

(まとめ)補給のきかない離島の占拠は、海上保安庁がしっかりとしれいれば、長期間は不可能です。日本が先に自衛隊を出せば、国際社会の支持が得られなくなります。