2015年5月20日

 安倍さんの歴史認識がいろいろ軋轢を生んでいることは、改めていうまでもない。問題は、それを歓迎する空気が国内世論にあることで、その克服が急務となっている。

 この空気って、尖閣や竹島をめぐる領土問題にせよ、慰安婦問題にせよ、日本側が強気に出るべきだ、それが国益に資するのだという感情レベルの話だから、克服するといっても簡単ではない。理論的に議論をしようとしても、「おまえは韓国派、中国派か」という話になってしまうからだ。

 そこを感情レベルでも克服できなければ、世論を変えることはできない。そんな本をどうするかは、いま考え中だけど、それと関連して、安倍路線って国益に反するよねということが、本日、報道されていた。北方領土問題にも跳ね返ってきているというのだ。

 朝日新聞によると、ロシアのラブロフ外相は、政府発行のロシア新聞(電子版)19日付に掲載されたインタビューの中で、北方領土問題に関連して「日本は第2次大戦の結果に疑いを差し挟む唯一の国だ」という。その上で、北方領土は第2次大戦の結果、戦勝国ソ連の領土となったのだから、敗戦国の日本には返還を求める権利はない」とのべたという。

 安倍さんの考え方の根幹にあるのは、あの戦争って、侵略じゃなかったというものだ。自存自衛だったし、アジアを解放したというもので、だからそれを侵略だったとする戦後政治の枠組みを否定するというものだ。

 北方領土って、ロシアにとっては返したくないものだ。戦争で奪った土地を奪うって、ずっと歴史上つづいてきたものだ。第2次大戦は領土は奪わないという建前で戦われたとはいえ、そしてだから沖縄も返還されたとはいえ、実体的にはアメリカの支配が沖縄に及んでいるように、戦争で奪われた土地に主権を回復するって並大抵のことではない。

 そこを戦後の日本は、いろいろな理屈をつけて、ロシアとの交渉の議題にしてきた。連合国は領土を奪わないという建前だったよねとか、北方4島は放棄した千島のなかには入らないよねとか。そしてようやく冷戦終了後、なんとか領土問題は終わっていないよねという程度の合意にたどり着いてきたわけだ。

 ところが、第2次大戦の結果を否定する安倍さんが力を増すにつれて、「ここに突き入れば領土交渉しないでも済むよね」と思う人がロシアに出てきたということだ。安倍さんといっしょに盛り上がっていると、戦後の達成物をすべて失うよ、それでもいいのかということなのだ。