2016年5月23日

 ようやく少し余裕ができて、上のタイトルで次の本を書き始めました。以下、「はじめに」と各章の構成です。

はじめに

 本書を手にとった方は、このタイトルをどのように受けとめるでしょうか。サブタイトルにある「対米従属」という言葉は、日米関係を否定的に見る立場をあらわしているので、左翼による日米両国政府批判だろうというのが、おおかたの受け止めかもしれません。

 それは否定しません。しかし、筆者としては、メインタイトルにある「謎」という言葉に注目してもらいたいのです。本書は、「アメリカによる日本の支配」と表現できるほどの影響力、あるいは逆に「日本によるアメリカへの盲目的追随」といえるほどの情けなさ、その双方を批判的に捉える見地で書かれてはいます。とはいえ、本書の目的は、それを批判すること自体にはありません。そうではなく、なぜ対米従属といわれるような日米関係の実態が生まれたのか、まさにその「謎」──硬い言葉でいえば原因と背景──を掘り下げることが目的なのです。

 この日本では、日米関係の現状を、全体として肯定的に捉える人が多いでしょう。世界のなかで特別に強大な力をもつのがアメリカですから、その影響をまったく受けることなしに日本が何でも決められるなどということは、現実にあり得ないことです。ですから、日米関係の多少の不平等性は容認するというのが、多くの人の実際の感覚だろうと思われます。

 しかし、それにしても、日米関係の不平等性は尋常ではありません。詳しくは第一章で述べますが、よく知られているのは、日本が戦後一度も、アメリカが行う戦争に反対したことがないという現実です。

 だいぶ前のことになりますが、橋本龍太郎首相(当時)が国会で、「第二次世界大戦後、我が国が国連に加盟いたしまして以来、我が国が、米国による武力行使に対し、国際法上違法な武力行使であるとして反対の意を表明したことはございません」(九七年一〇月七日)と答弁し、話題になりました。これは九〇年代までの話です。さすがに冷戦時代のことですから、アメリカの同盟国にとって、アメリカの戦争を支持しないという選択が難しかったことは理解できないではありません(不可能ではありませんでした)。

 しかし、冷戦終了後、大きな変化が訪れました。NATO諸国は、二〇〇一年の9・11同時多発テロ事件後、つい最近まで、対テロ戦争が戦われているアフガニスタンに部隊を送ってアメリカを応援していましたが、これは少なくとも建前上は国連安保理決議を受けた対応でした。二〇〇三年のイラク戦争にあたって、国連安保理が一致した対応をとることができず、フランスやドイツ、カナダなどがアメリカに反旗を翻したことは記憶に新しいでしょう。

 ところが日本は、同じ同盟国でありながら、これらの戦争に際して、反旗を翻すなどということは、これっぽっちも考えなかったようです。それどころか、アメリカの戦争に支持を表明するという従来型の対応にとどまらず、結局、国連安保理の決議にもとづくかどうかは考慮もされないまま、アメリカの要請に応じて陸海空の三自衛隊とも戦地に派遣するという選択をしました。こんな同盟国は日本だけです。

 いや、イギリスは日本と同じだろうという人もいるでしょう。イギリスは、イラク戦争ではアメリカと肩を並べて武力を行使しましたから、日本よりももっと同盟国らしいじゃないかというわけです。けれども、そのイギリスだって、たとえばアメリカがグレナダに軍事介入をしたとき(一九八三年)、サッチャー首相がレーガン大統領をきびしく批判したのです。冷戦時代にだって、こんな対応がとれたのです。二年ほど前(二〇一四年一一月)になって明らかになったことですが、その批判を受けて、レーガン大統領がサッチャー首相に対し、事前にグレナダ軍事侵攻を相談しなかったことを「深く反省している」と述べていたことのことです。

 これらの事実が示すことは、戦後、アメリカの戦争を常に支持してきたのは、世界のなかでこの日本だけだということです。日本はきわめて特異な国なのです。

 こういう事実を紹介すると、いまの日本の風潮のなかでは、「日本はすごい国だ。ぜんぜんぶれないんだ」と、かえって「誇り」を感じる人が多いのかもしれません。まあでも、とりあえずそこを批判するのは、この本の目的ではないといっておきます。本書がめざしたいのは、そういう日本の「ぶれない」特異性は、なぜどうして生まれたのか、そこに興味と関心をもってもらうところなのです。

 筆者が期待するのは、その「謎」が分かってくると、本当にこのままでいいのかと感じてもらえるのではないかということです。また、そこが分かるということは原因が分かるということですから、日米関係の現状から抜け出す道も見えてくるのではないかということです。では、さっそく、本論に入っていくことにします。

第一章 従属の現実
第二章 従属の原点
第三章 従属の形成
第四章 従属の展開
第五章 従属の真相
補 論 日本共産党の安全保障政策の変遷