2016年10月3日

 11月に弊社から出すことになりました。「南スーダン、南シナ海、北朝鮮──新安保法制発動の焦点」です。いま急ピッチで作業中で、先ほど「まえがき」を書いたので、以下、ご紹介します。

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 現在、二〇一五年九月に国会で成立した新安保法制にもとづき、南スーダンPKOに派遣されている自衛隊に「駆けつけ警護」の任務が付与されることが話題になっています。新安保法制が果たして日本と世界の平和に寄与するのか、それとも逆行するものになるのかが、現実の事態の進展によって明らかにされようとしているのです。

 本書は、その南スーダンをはじめ、自衛隊による警戒監視が想定されている南シナ海、核・ミサイル開発が進む北朝鮮と、新安保法制が発動される焦点となる問題を取り上げています。陸将や海将を経験した元自衛官、安全保障に携わってきた防衛省幹部や研究者、世界の各地で紛争処理を手がけてきた実務家、ジャーナリストや国際ボランティアなど、多方面の専門家がそれぞれの立場から論じたものです。

 自衛隊を活かす会(正式名称は「自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会」)は、一四年六月に発足しました。その基本的な目的は、自衛隊を否定するのではなく、かといって国防軍や集団的自衛権に走るのでもなく、現行憲法のもとで生まれた自衛隊の可能性を探り、活かしていくことにあります。その目的を達成するため、一四年から一五年春にかけて五回のシンポジウムを開催し、一五年五月、「変貌する安全保障環境における『専守防衛』と自衛隊の役割」と題する「提言」を発表しました(講談社新書『新・自衛隊論』所収、ホームページ〈http://kenpou-jieitai.jp/index.html〉でも閲覧可)。

 「提言」は、二一世紀の世界における日本のあり方を論じたうえで、日本の防衛の基本的な考え方と国際秩序構築のため、自衛隊が果たすべき役割を示しています。そして、「このようなあり方は、現行憲法のもとで可能だというだけでなく、憲法前文と九条の平和主義の立場に立ってこそ」実現することを明確にしており、安倍政権が進んでいる方向とは異なる選択肢を提示するものだと自負しています。多くの方に読んでいただき、議論を巻き起こしたいと考えます。

 自衛隊を活かす会は、このような活動と並行し、新安保法制の成立直後から今年(二〇一六年)まで、その発動の焦点となる問題をテーマにして、何回かのシンポジウムを開催してきました。本書は、そこに参加された方の報告をもとにして、その後の事態の進展などもふまえ、加筆・整理していただいたものです。

 新安保法制をめぐっては、国会のなかでも国民のなかでも、かつてない議論が巻き起こり、市民運動と政治のあり方を変えるような局面も生まれました。この新安保法制の評価は、これまでは法律の条文をめぐって議論されてきましたが、今後はまさに法律が実施される現実をめぐる議論に移行していきます。本書の執筆者は、いずれもその分野の専門家であるというだけでなく、実際に政治や防衛などの現場で実務に携わった方々であって、本書も現実に立脚した考え方を読者に提供するものになっていると思います。多くの方に手にとっていただき、この議論を有益なものにする議論に加わってほしいと考えます。

二〇一六年一〇月 自衛隊を活かす会事務局長 松竹伸幸